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Dec.

2024

interview
26 Mar. 2021

MaaSで解決する社会課題:「高齢者のデジタルギャップ」と「小1の壁」

これからの移動の在り方や、手段の多様化による可能性の拡がりを様々な視点から紐解く、Mobility More Bility プロジェクト。

今回は、MaaSプラットフォーム事業を行っている、株式会社MaaS Tech Japanの日高 洋祐 代表取締役CEOに、お話を伺いました。

「MaaSって結局どんなことなの?」「MaaSで解決できる社会課題とは何か?」―そんな疑問をお持ちの方へ、MaaSにまつわる解像度がぐっと上がるインタビュー内容をお届けします。

 

株式会社MaaS Tech Japan 日高 洋祐 代表取締役CEO

 

Q MaaS Tech Japanの事業内容を教えてください。

MaaSに関わる交通事業社や地方で課題を抱える自治体、将来の事業を作ろうとされるプレイヤーの方々に、MaaSプラットフォームの提供を行っています。

具体的には、MaaSの価値を最大化するソリューションを開発・提供しており、交通に関する情報提供・予約・決済の一元化のみならず、交通ビッグデータの統合分析やリアルタイムデータの活用を実現する「MaaSデータ基盤(TraISARE(トレイザー)」やユーザとモビリティ・地域の関係性を最適化する「MaaSコントローラ」をご提供しています。

   

 

Q そもそもMaaSって正確にはどういったことなのでしょうか。

多様なモビリティサービスをユーザやエリア、ユースケースに対して最適な形で組み合わせ、それを一つのサービスに統合するものがMaaSです。個別のモビリティを「データとサービスとオペレーション」の面で繋げていくイメージです。これは、ユーザにとっての統合もありますが、都市や地域にとっていかに輸送効率を上げるのかという視点もあります。プラットフォームとしてみると、モビリティ、ユーザ、地域・都市の3つの間でそれぞれに価値を生み出す複層的な構造になります。

 

「賢く使う交通」へのパラダイムシフト

これまでは、戦後の経済成長に伴い交通インフラを「いかに発展・拡張させるか」という観点が重視されてきました。

しかし人口減少や価値観・働き方の多様化により、人や時間などの変動要素が大きくなってきた現代では、「既存の交通をいかに賢く使うか」ということが強く求められています。それはタクシー配車やデマンド交通という意味だけでなく、鉄道やバス、航空なども含めた料金やダイヤ、さらに接続する二次交通との組み合わせでこれまでとは異なる価値を創出し、事業スキームを変えていく必要があるということです。そのスキームの一つがMaaSだと考えます。

このパラダイムシフトを後押しする要素もあります。例えば、スマートフォンの登場で、人の動きに関するデータがより高い解像度で取れるようになりました。また、スマートフォンの流通以前はマス向けの交通サービスが主軸でしたが、今ではユーザの手元のスマートフォンを介して個人にあわせた移動手段や輸送サービスが可能となっています。

またユーザは移動そのものが目的ではなくその先に多様なアクティビティがあるからこそ移動をしています。交通だけでなく移動前後のサービスを含めてどう提供するのか。そのためには移動サービスに、消費や保険・ヘルスケアといった生活周辺の様々なデータと連携する必要があります。そこでMaaS Tech Japanが開発したのが、モビリティデータを統合・変換し、モビリティ以外の産業データと組み合わせが可能なモビリティデータ連携基盤TraISARE(トレイザー)というソリューションで、交通の変革や、他産業同士の連携を後押しする事業を行っています。

 

社会課題と事業価値を両立させる視点が重要

Q.取り組まれている事業では、どんな社会課題を解決されようとしているのですか?そもそも社会課題をどう捉えておられますか?

伸びる産業というのは、社会課題を解決して事業化しており、大きな事業は必ず社会的価値と事業的価値がしっかりと両立していると考えます。

社会課題解決だけ、事業価値だけだとなかなか持続的可能なモデルにはなりません。社会課題解決に深く根差しているからこそ、事業環境が変わっても普遍的に事業として継続的に必要とされるものとなります。MaaS Tech Japanではこの両立を目指して事業を推進しています。

 

事例1:「スワイプできない」高齢者のデジタルギャップを埋めるMaaS予約システム

Q 例えばどのようなことに取り組んでいらっしゃるか、事例をぜひ教えてください。

北海道上士幌町では、福祉バスのデマンド化や貨客混載、自家用有償運送を含めた総合的な交通体系の整備を目指して取り組んでいます。その中でも、スマートフォン系サービスを高齢者が使えないというデジタルデバイドの社会課題に対し、交通サービスを付加したオンデマンド予約システムのUIを構築しました。弊社ではデータ連携基盤や都市全体のモビリティ可視化システムなども開発していますが、実際にサービスを使うユーザのインターフェース開発にも力を入れています。

MaaSではスマートフォンなどモバイル端末を使って予約する必要があるサービスが多いのですが、これにより人間が介在しない効率的な運行が可能になっています。MaaSのサービスを出来るだけ多くのユーザに届け、中でも高齢者の方の免許返納後の移動の足をデマンド交通で柔軟にまかなうことは地域にとっては重要な課題です。

一方で、今の80歳以上は世代的にもインターネットやスマートフォンを経験していない方も多く、スマートフォン特有のスワイプやドラムロール、タップなどの操作ができない、慣れていない方も多くいらっしゃいます。業務でメールもあまり使わなかった世代の方たちなので、インターネットの仕組みや“ユーザ登録”の意味を理解することにもハードルがあります。

加えて色弱や指先の動作がしにくくなること、記憶力が衰えること、動作に慣れるまでの習熟が遅くなりやすいといった特徴を鑑みて、80歳以上の方でも使いこなせるような簡素でわかりやすいユーザインターフェイスを構築し、現地自治体の職員さんの尽力もあり、今では多くのユーザがデマンド交通を予約できるようになりました。

 

 

  

現在は、デマンド交通に加えて、買い物注文ができるようにチャレンジしています。移動と買い物という生活の基本機能を圧倒的に便利にする取り組みです。

買い物注文の輸送をデマンド交通とあわせて貨客混載することで、地域のモビリティ効率を向上させることも可能です。例えば普段はデマンド交通を利用してスーパーに買い物に行くが、体調の悪い時にはタブレットから品物を選んで注文する。その注文を受けたスーパーの方がデマンド交通に品物を乗せ、お客さまに送り届けるといったことも可能です。そうすることでスーパーが個別に運ぶよりも全体の配達コストが抑えられ、事業性が向上します。

 

  

事例2:子供が総菜を持参して帰宅!
「小1の壁をサービスに変えるお迎えタクシー」

また子育て世代の働く女性の問題、SDGsの目標の一つでもあるジェンダー平等の課題にも、石川県加賀市で取り組んでいます。

子どもが小学生になると保育園のような延長保育がなく、また時短勤務も認められないケースが多いことなどから、仕事と子育ての両立が難しくなるいわゆる「小1の壁」の問題。特に地方などでは保護者が子どもの送迎に1日あたり2~3時間かかるという方もいらっしゃいます。それによって正社員になりづらい、またはパートタイムでも働きにくく、我慢をすることや地元以外の場所にやむを得ず引っ越すこともあると聞いています。

この課題をサポートできないかということに着眼し、実施しているのが「小1の壁をなくす塾送迎タクシー」です。

自宅から塾やお稽古への子どもの送りを親の代わりに実施するもので、これを利用することで、例えばこれまで残業の際は子どもに塾を休ませていた方や、雪が降ると自転車で通っていた方などから大変好評を得ています。また受験シーズンに暖かい車両で送迎され、車内で予習復習できたという声も得られました。

例えばこういったサービスがあれば、仕事と子育ての両立の助けになります。

また今後、このサービスに買い物やテイクアウト代行機能を組み込み、塾の帰り便に貨客混載で買い物の品を持ち帰るようなプランを構築しています。帰りの便の前に注文品の買い回りを終わらせ、子どもたちが塾から帰るときに一緒に荷物を運んでもらえれば、街全体での物流コストも低減し、保護者も買い物の手間が省けます。 

現在、この実装・運用テストを行っており利用者の満足度などを調べています。このような取り組みをMaaSという大きな世界観の中にたくさん増やしていくことができると、データやサービスが連携して、社会課題解決の質もより上がってくると思います。

コロナ前後で比較すると、以前よりもデジタル化が進みやすく、テイクアウトという手段も受容されやすくなりました。タクシー業者もコロナで観光需要や飲み会後の需要が減少していますが、こういったスキームを導入することで収益の安定化にもつながります。このように、柔軟に地域の中でニーズを見つけ、既存のモビリティサービスをうまく組み合わせたり使い方を変えることで賢く交通を活用する仕組みがMaaSの中で実施出来るようにこれからも取り組んでいきます。

 

官民で交通全体で考えなおす取組みが急務

Q.最後に。日本のMaaSの導入へのハードルと越え方について、教えてください。

 デジタルで完結するデジタルプラットフォームに比べると、MaaSはフィジカルなモビリティや交通関連の様々な制度があるので、導入スピードはどうしても遅れてしまいます。

日本では公共交通の多くを民間の株式会社が運営しています。これまで日本の人口が増え続け、経済成長を続けていたため、人口増≒利用者の状態は、交通の事業性の成長が約束されているようなものなので、交通事業社は資金を調達しやすく、さらに投資によって沿線開発やサービス向上が行われ、日本の公共交通インフラは、世界一充実し、安全・安定した仕組みとして世界的にも成功事例だと評価されることもありました。人口が増えている局面ならその成長を促すスキームは正しいのですが、現在のように人口が減っていくフェーズになると交通事業や公共交通政策についても考え方を変えていく必要があると考えています。

交通と他産業を組み合わせていくスマートシティ化の動きも進みつつあるこの転換期に、ユーザと交通事業者と地域がつながり、持続可能かつこれまで以上に便利で豊かな移動インフラを構築できるよう、尽力したいと思います。


取材を終えて

日高さんの社会課題と事業価値を両立する視点はとても勉強になり、さらに、わかりやすい事例を2つ取り上げて頂いたことで非常に理解が深まりました。日本のMaaSを推進されていく今後のご活躍に、さらに注目です。誠にありがとうございました!

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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