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Apr.

2024

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24 Mar. 2021

世界の多様性が掘り出してくれた『自分の本質』

高田愛
産業カウンセラー/キャリアコンサルタント
高田愛

多様性は、相手を受け入れることからはじまる
多様な人と関わり合うということは、自分の核が表出することだ

本日のインタビューイーは、世界を股にかけて挑戦し続けているモデル、そして俳優でもある小笠原佑介さん。非常に思慮深く、謙虚な彼と話すうちに、彼なりの多様性に対する哲学が見えてきた。
筆者である私は、障害、がん罹患経験、女性、育児中と様々な経験・立場があるので、多様性について直面しているが、佑介さんは、また違う角度からものを見ているなと感じる。なぜなら、彼の働く場所は、性別や人種、信条・宗教も異なるチームで、毎回いい関係性を作り、いい仕事をしなければならない。想像するだけで、ハードだなと感じる。本日は、そんな環境に身を置くうちに見えてきたことなどを伺いながら、共に考えていきたい。

くせ毛がつないだ出会い

 ※くせが強く出ているときのヘアの状態。


前回、「天パの何がダメなの?自分らしいヘアスタイルとは?」の取材させていただいた美容師のYoshioさんから「くせ毛に悩みを持つNYで活躍している人」ということで紹介いただき、このインタビューが実現した。
佑介さんが自身の髪質を生かすことについて、「周りの環境や出会いにもよるのでしょうけど、まず言いたいのは、それが自分にしかないものっていう事です。それをマイナスに感じなくてよくて、それをイイね!って、受け入れてくれる人に1人でも出会えれば変わると思う。そこから、こんな感じに変えたいとかは、その人の感性で感じて行動する事だから、それもオリジナルの一つだと自分は思っています。どんな髪型であろうと、心からの笑顔で相手の目を見られるかということが大切だと思います。」と、話してくれた。

この境地に至るまで、彼自身も縮毛矯正をかけたり、試行錯誤した時期もあったといい、「縮毛矯正をかけてちょっと伸びた髪のイケてなさと来たら、逆にテンションが下がります。」と、同じくくせ毛の私も強く共感した。

本人から自己紹介を頂いた。
「生まれも育ちも岩手県。昔からダンスが好きで、高校1年からジャズダンスを始めた。それから東京に出て、27歳までダンサーとして生活。何か違うと思っていたところ、香港のエリートモデルからスカウトがあって、3か月挑戦してみた。アジアのサラダボウルと言われるくらい多様な香港に刺激を受けて海外で挑戦しようと決意。NYで7年目。LAをベースにして、モデル俳優をやっています。」

プロダンサーからモデル、俳優へと転身されている。

2020年は、多様性の問題に向き合わざるを得なかった


※この時期に撮影された地球儀を持ったポートレイト「We‘ll get through this together」

「2020年は、多様性の問題にがっつり向き合うことになった。例えば、Black Lives Ⅿatterで言うと、アーティストがこぞって自分の意思を表明し始めた。“コイツはSNSなどで自分の意思表明をしないのか”みたいな……。上げないと、むしろ差別的な人なんじゃないかと思われることも。しかし、SNSにブラックボックスを上げる=働くことをボイコットする意味もある。あえて意思を表明することはしなかったが、聞かれたら答えられるようには準備していた。アメリカに対して労働ビザで滞在している身で、ブラックボックスを上げるのは矛盾が生じると思った。」

Black Lives Ⅿatterについては、cococolorでもいくつか記事を公開している。
例えば、アメリカで出会った「ダイバーシティと新しい自分」の記事では、「無知も無関心も差別」とあるという言葉がある。意思の表明を迫られても、迂闊に発言すれば自分の無自覚な差別意識が人を傷つける恐れもある。

また、「私はアンチレイシストになる。日本とBlack Lives Matterの関係について。」の記事では、「『反人種主義』を『思っている』だけではだめで、『行動』しなければいけないとなった時に、先ほど話した、場所の問題に加え、まずは正しい知識を得なければならないし、自分の中のアンコンシャスバイアスや、過去の自分の言動を振り返らなければ、責任持った意思が表明できない」とある。

佑介さんが向き合ったのも、そういうことなのだ。「主張しあっていると、分断されてしまうので『受け入れる』ということが、僕が出した答えだったりします」と、話す。


とにかく、相手を一回受け入れる


そんな彼が、毎回様々な現場で、異なる多様性を持つチームと、いいアウトプットを出すためのポリシーを教えてくれた。

「まず、目を見て100%の笑顔でコミュニケーションをとる」「例えば、ヘアスタイリングの時、くせ毛が強いので、もちろん技術でカバーできる場合もあるけど、スタイリストさんが持っているスタイリング剤やワックスを手に取る量で、その日のセットがキマらなそうな予感がすることも。しかし、相手もプロだし、リスペクトをもって一旦相手に任せるようにしています。相手を一回受け入れる。そうして、カメラの前に行くと、“もう一回スタイリング直して来て”と言われるので、そこで必要があれば言うようにしている。言える状態になるように信頼関係を作るようにコミュニケーションをとる。その関係性が出来た前提で言うようにしている。」

佑介さんのポリシーは、まずは、信頼関係を築くコミュニケーションを心掛け、相手にリスペクトをもって接する。修正してもらいたいことがあれば、それを聞き入れてもらえるような話し方を心掛ける。この心掛けは、私たちの日々の生活にも活かせることだなと感じる。特に、“100%の笑顔で”という点や“(年齢性別関係ない)相手へのリスペクト”の部分がそうだ。この二つがあれば、リモート禍のコミュニケーション不全も少しは改善されるかもしれないと思えた。

日本人であることを気負わなくていい

日本人やアジア人として括られることについては、どう思うか聞いてみると、「俺は日本人だと意識していた時期もありました。背負わなくても背負ってるから。日本人と言わなくても日本人だから。今は、あえて出そうと意識する必要はないと考えている。20か国以上のいろんな国で仕事して、いい意味で溶けてきた。自分らしさって、本当はそうじゃなくても、化学反応でいい出方をするパターンもあるし、頑固に守りに入って、何も生まれないダメなパターンもある。自分らしさは勝手に出るものなのかなと思います。……とはいえ、形から入ろうかなと思う時もあります。」と、はにかんで話してくれた。


多様性を例えるなら彫刻刀みたいなもの
多様な人に出会っていくたびに自分の「核」が見えてくる

「自分の海外生活は香港に始まり、いまのニューヨークに辿り着いていますが、色んな人種の方がいて、それぞれに正義や母国のルールをそのまま持ち出しているから、なんだこれは!?という衝撃はありましたね。よく『郷に入れば郷に従え』って言うじゃないですか、でも、少なくとも都心ではどの辺が郷なのか、従ってない人が多すぎて。人はみんな違うので、『ありのまま』でいたらギャップが生まれる、だから、お互いを『一旦受け入れる』っていう、自分の中で多様性の裏表を持つことが大切なのだと思います。そうすることで、自分の丸太がどんどん削られて、本当の核みたいなものが形成されていき、改めて故郷の愛おしさ、本来の自分を再認識できるのかなと思います。」

しかし、ないものを受け入れるって、きつくないですか?と聞くと「でも、解らなくないですか?一旦そっちも行ってみて判断するようにしている。」と言う。そう聞いて、彼は精神的にタフな人なんだなと感じた。短い間に、相手を受け入れて、自分を削って核を形成していくことを繰り返しているということだ。だからこそ、余計な削られ方をしないように、100%の笑顔でコミュニケーションをとって信頼関係を作ることを心掛けているのかもしれないと感じた。

 

まなび

 佑介さんとの対話を通じて、ともすると分断しそうになる世界で人種や性別、信条・宗教に関係なく、その人自身を見ること、そして一旦相手を受け入れることは、葛藤も生むだろうが、「多様な人と関わりあうことは、ただの丸太から自分という彫刻作品が作り上げられていくようなものだ。」と思うと楽しいのだと気づいた。そのベースとして、相手へのリスペクトなくしてはあり得ない。また、初めて会う人はもちろん、リモート会議でもカメラオンして「100%の笑顔で!!」向き合うこと。これは、明日からでも出来そうだ。

佑介さん的な多様性に向き合う5か条

・まずは100%の笑顔で!!信頼関係をつくる

・相手をリスペクトする

・その人自身を見る

・一旦相手を受けいれる

・多様性に削られて自分の本質が出てくることを楽しむ

 

YUSUKE OGASAWARAプロフィール
New York & Los Angels をダブルベースにする岩手県出身のファッションアクター
2020 年12 月アメリカのアマゾンプライムで公開された初出演映画『In Full Bloom』に日本人チャンピオンボクサー役で出演、2019 年同作がドイツOldenburg FilmFestival にてBest Film を受賞。アメリカ、ヨーロッパを中心にファッションブランド広告、雑誌、ショーなどで活動中。
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取材・文: 高田愛
Reporting and Statement: aitakata

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