分身ロボットOriHimeが創る、難病や外出困難な人たちが生き生きと働ける場を
- プランナー
- 廣瀬亘
分身ロボットOriHimeが創る、
難病や外出困難な人たちが生き生きと働ける場を
~「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」常設実験店開設~
ロボットのカフェ店員が、難病などで外出困難な人に遠隔操作されて接客する。
そんな夢のようなカフェが今年6月東京・日本橋にオープンしました。それが「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」です。
分身ロボットとは、株式会社オリィ研究所が開発した「OriHime(オリヒメ)」のことで、アプリを使ってロボットを人のように動かすことで、遠隔地にいる相手とコミュニケーションを取ることを可能にしました。寝たきりの生活を送らざるを得ない、重度の障害がある人の意思伝達手段としても活用されています。
☆「OriHime」についてはこちらの記事もご覧ください。
分身ロボット「OriHime」で友達の家に遊びにいく
「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」でお客様にコーヒーを届けるOriHime
カフェの中では、「OriHime」がお客様のオーダーを取り、商品を渡し、お客様との会話を通してコミュニケーションします。「OriHime」を操作する人は全国各地におり、寝たきりや、車いすを利用して生活するような、様々な障害のために外出が難しい人たちです。
「OriHime」を操作する寝たきりの重度障害者
「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」はどのようにして実現し、未来の働き方にどのような革新をもたらすのか、その秘密を探るべく、オリィ研究所の代表・吉藤健太郎さんにインタビューしました。
株式会社オリィ研究所 代表取締役CEO
吉藤オリィ (ロボット研究者)
目指したのは肉体労働のできるテレワーク
―この度は、「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」のオープンおめでとうございます。難病者や外出困難な方が分身ロボットを操作してカフェを運営するというその仕組み、またそのカフェを実現するにあたってのお考えをお聞かせいただけますか。
吉藤さん:「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」は、重度障害や何らかの理由で外出困難になってしまった方に、遠隔で自分の分身であるロボットを操作して、実際のカフェを運営してもらおうという試みです。何度か試験を重ねまして、この度やっと常設カフェとしてオープンすることができました。
このカフェでロボットを操作する人をパイロットと呼ぶのですが、このパイロットが遠隔で分身ロボット使って接客やサービスの提供を行い、実際にカフェで働いてもらう仕組みです。そうすることで、目の前で自分が頑張ったことがリアクションとしてすぐフィードバックが得られます。目指したのは難病や外出困難な方であっても参加できる肉体労働を伴うテレワークです。
もともと「OriHime」という分身ロボットは、私が過去学校に行けなくて家に引きこもっている時期があって、その時自分の分身が作れないかと思ったことです。分身ロボットカフェは、「OriHime」を通して私の秘書として仕事をしてくれていた親友が重度障害だったのですが、彼と話しているときに「OriHimeを使ってコーヒー持ってこられないか」というアイデアが浮かび、彼のような人が社会進出をする場を作りたい、そんな思いがあって生まれたものなのです。
「OriHime」は、決して私から難病や外出困難な方へ手を差し伸べているつもりはなくて、自分にとって必要だから生まれたという経緯があります。ただ、引きこもりや、様々な事情で苦しんでいる方というのは、どんどん自分らしく生きる選択肢がなくなっていくという恐怖があると思います。私も含めそうなったときに「OriHime」が選択肢のひとつになればいいなと考えています。
リレーションシップテクノロジーを創造する
―具体的に、パイロットの方はどのように「OriHime」を操作し接客されているのでしょうか。
吉藤さん:パイロットの方は重度障害や寝たきりの方が多く、実際に「OriHime」を操作し接客することが困難です。そこでOriHime eye+Switchという意思伝達装置を使って視線入力やスイッチで音声を発声して操作をしています。
OriHime eye+Switchの操作イメージ
この仕組みを取り入れることで、「OriHime」がオーダーの商品をもってテーブルに届けるだけではなく、ちょっとした会話が生まれます。最初は商品を届けるという必要性から、このちょっとした会話によって関係性ができます。
実は、この「関係性」というのがこれからのキーワードと考えていて、私たちが目指しているものはテクノロジーによって、コミュニケーションではなく、インフォメーションでもなく、いかにリレーションを生み出せるかということなのです。
つまり、お客さまのところに行くのは、オーダーを受けたり、コーヒーを持っていくという必要性のためだけではなく、さらにそこで行われるちょっとした会話で関係性が生まれるところにポイントがあります。このカフェの目的はその関係性を創造することで、私たちはこれをリレーションシップテクノロジー、略して「リレーションテック」と呼んでいます。
実際に来店されたお客様とのコミュニケーションの中から、全国各地の自治体や企業からスカウトされ、そこであたらしい活躍の場が生まれることも起きています。
これは、現在国から定められた事業主に対しての障害者雇用のルールが変わり、一定の障害者の雇用が義務 けられようになりました。それに対し多くの雇用主の方々は戸惑われていらっしゃいますが、オリヒメによる遠隔での勤務が、ひとつの雇用の形態として提案できると考えています。
また、これを機に障害者の人材紹介業への取り組みを検討したり、様々な業界とのコラボレーションも進めたいと考えています。
「できない」ことを価値に変える時代へ
―オリィさんのSNSを拝見しているとご友人の、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患われている武藤正胤さんの姿をよく拝見します。現在お二人で行われていることはどのようなことかお聞かせいただけますか。
吉藤さん:武藤とは2016年からの5年来の友人で、様々なプロジェクトを一緒に進めてきた仲間です。彼にはオリィ研究所の顧問になってもらっていて、私も彼の活動団体の顧問になっている間柄です。彼はALS患者であるのですが、私が彼にとっての技術者顧問として、彼が私の会社の当事者顧問としてお互いに進めています。
例えば、我々が開発し提供している「OriHime eye+Swtich」という意思伝達装置の合成音声に、彼がまだ気管切開をして声を失う前の肉声を残しておいて置き換える技術を、武藤発案のもと、東芝さんの協力も得てクラウドファンディングで資金を集めてサービス化しました。
先日も、彼がある生放送のイベントのパネラーの一人として登壇したのですが、話題がどんどん変わる中でも視線入力装置を使ってノーカットで会話についていく姿をみて、この技術が寝たきりとなった患者の世界を変えていけるのだということを実感しました。
武藤昌胤さん(左)と吉藤オリィさん(右)
次の世代に何を残すか
―本日お話をお伺いして、オリィさんが のパイロットの方やご友人の方と協業して何かを作り出そうとしている姿勢がすごく伝わりました。オリィさんが描く将来へのビジョンは何でしょう。
吉藤さん:介護や援助を受ける立場にとってつらいことは「ありがとう」と言えなくなることなのです。いつの間にか立場ができてしまって、一方的に介助や援助を受ける立場になると「ありがとう」が「すいません」に、そして「申し訳ございません」になってしまう。
そんな、何かができないことで持った苦しさやいたたまれなさ。誰かに何かをしてもらうとやっぱり辛い。私たちが次世代に残していけることがあるとすると、ALSをはじめ様々な難病、障害の困難に苦しんだ人に「そんなもんだよ」と突き放すのではなく、解決策というかショートカットできる術を残す事ではないかと思うのです。
未来に不自由を遺さないよう、一緒に働いて未来へ進んでいきたいと考えています。
最後に
今回取材をさせて頂いて、吉藤オリィさんは、分身ロボット「OriHime」の開発者という、ロボットテクノロジーのスペシャリストであるだけでなく、仲間との関係性をとても大切にされて、いま難病や寝たきり方の問題解決に真摯に取り組む人間味のあふれる方だということがとても印象に残りました。わずか20センチの小さなロボットが世界中のたくさんの課題を解決していく。そんな夢を見させていただいた素敵なインタビューでした。
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