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Dec.

2020

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12 May. 2020

「おすそわけしマスク」―繋がりの時代の寄付のカタチ―

杉浦愛実
ビジネスプロデューサー
杉浦愛実

新型コロナウィルスの蔓延とともに、瞬く間に人々の必需品となった、マスク。はじめのうちは、まるで私たちの不安を煽るように、買い占めや価格高騰、ドラッグストアの長蛇の列などが連日メディアを賑わせていましたが、最近では医療現場への寄付など、支援の輪の広がりを耳にすることも増えてきました。

しかし、マスクを必要としている現場は、医療現場以外にもあります。その一つが、福祉現場です。

そこで、一般社団法人障害攻略課NPO法人D-SHiPS32一般社団法人Get in touch株式会社ヘラルボニーの4団体が一つになり、4月22日、「#福祉現場にもマスクを」というプロジェクトを立ち上げました。そしてプロジェクト始動からわずか2週間後、小国士朗さんプロデュースのもと、株式会社中部日本プラスチックと共同で発足したのが「おすそわけしマスク」という取り組みです。

本記事では、5月11日に開催された「おすそわけしマスク」のオンライン記者会見の内容をもとに、「#福祉現場にもマスクを」と「おすそわけしマスク」についてご紹介します。

 

福祉現場のSOSを可視化する、「#福祉現場にもマスクを」

 

「#福祉現場にもマスクを」が立ち上がった背景について、Get in touch代表で俳優の東ちづるさんは、以下のような福祉現場の実情があると説明してくれました。

「医療崩壊の問題が声高に叫ばれている一方で、実は福祉現場の崩壊も問題になっています。福祉現場では、たとえば重度の障害がある人に対して着替えや入浴、食事、排泄、痰の吸引を行ったり、知的障害のある人が自傷行為・他傷行為をした時に抱きしめたりするので、ソーシャルディスタンスを取ることができません。それなのにマスクが不足している状況で、福祉施設が閉鎖してしまったら生きていけない人もいるんです。福祉現場の方々は、感染と閉鎖といった2つの恐怖と戦っています。」

 

そこで、マスク不足が深刻化している福祉現場にマスクを届けるため、澤田智洋さんによる一般社団法人障害攻略課、上原大祐さんによるNPO法人D-SHiPS32、東ちづるさんによる一般社団法人Get in touch、松田崇弥さんによる株式会社ヘラルボニーの4団体が協力し、「#福祉現場にもマスクを」というプロジェクトが立ち上がりました。

このプロジェクトでは、世の中に対して寄付金やマスクの寄付を募りながら、福祉現場に対してもマスクのリクエストを募ることで、必要としている福祉現場にマスクを届ける仕組みを構築しています。

寄付の方法やマスクの応募フォームは特設サイトに集約されています。

加えて、福祉現場に対しては、「我慢したり諦めたりせずに、マスクが足りなくて困っているというSOSを発信してもらうこと」、そして、このプロジェクトのことを知った人に対しては、「『#福祉現場にもマスクを』とともに、SNSなどで拡散してもらうこと」もお願いしています。

東さんによると、プロジェクトを開始した当初、福祉現場の方々からは「知り合いの施設の方が困っているので、そちらを優先してもいいですか?」「知人が医療現場で働いていて大変そうなので、医療現場を優先してもいいですか?」といった、自分を後回しにする声が多かったそうです。実際には使い捨てマスクを手洗いして使い回しているほど大変な状況でありながら、福祉現場の方々は、我慢することや諦めることに慣れてしまっているのだと言います。

ヘラルボニーの松田さんも、「海外でも日本でも、医療現場の方々はSNSで声高にSOSを発信している一方で、福祉現場の方々は社会に対してなかなか自らSOSを発信できていない状況。それを可視化させる意味でも、このプロジェクトは重要な活動なんです。」と話してくれました。

 

寄付の循環から、寄゛付゛(ギブ)の循環へ

 

4月22日に立ち上がったばかりの「#福祉現場にもマスクを」ですが、5月11日時点で約610名の方々から寄付が集まっており、すでに200カ所近い福祉現場にマスクが届けられているそうです。

より多くの人に寄付をしてもらえるよう、寄付金の集め方も幅広く用意しており、口座振込・クレジットカード決済・Tポイントでの支払いから選ぶことが可能です。

寄付金やマスクを提供してくださる方々の中には、「がんばってください」「力になりたいです」といったメッセージや手紙を添えてくださる方も多く、寄付とともに、エールも続々と届いているそう。

さらには、さだまさしさんが設立された「風に立つライオン基金」や、柴崎岳選手を始めとしたプロのサッカー選手、株式会社スペシフィックといった企業などからも、10,000枚規模のマスクの寄付が続々と届いていると言います。

マスクが届いた福祉現場からも、「皆、目を丸くして大変喜んでおりました。」「本当に届いた時には涙が出てしまいました。」など、紹介しきれないほど多くの感謝のメッセージが集まっているそうです。

 

それだけではありません。マスクを寄付した福祉現場からの寄付も届いているのだそうです。マスクの寄付を受け取ったことで、「自分たちにも何か出来ることはないか」と思うようになった福祉現場の方々が、今度は他の福祉現場に寄付をしようと、「#福祉現場にもマスクを」に寄付金を送る動きが生まれたのです。

障害攻略課の澤田さんは、この状況のことを、「寄付の循環」ならぬ「寄゛付゛(ギブ)の循環」と表現していました。

「寄付の定義を端的に言うと、“財産や金銭や物品を、困っている方に無償で提供すること”になります。でも、今回のプロジェクトで生まれている気持ちのこもった好循環は、寄付という言葉では括りきれないと思いました。寄付と書いてGive(ギブ)と読む、みたいな好循環が生まれているなと思うんです。」と、澤田さんは、今回のプロジェクトが従来の寄付の概念を超えた広がりを見せていると言います。

 

三方良しの「おすそわけしマスク」

 

5月8日、「#福祉現場にもマスクを」は、マスクを提供する株式会社中部日本プラスチックと共同で、「おすそわけしマスク」という新たな取り組みを開始しました。これは、「55枚分を購入すると、50枚が購入者の元に届けられ、残り5枚は福祉現場に寄付される」という、おすそわけするマスク。コンセプトは、「わたしのマスク、おすそわけしマスク」です。

「#福祉現場にもマスクを」と同様、「おすそわけしマスク」も特設サイトを通じてマスクの購入や申請を行うことが可能です。5月11日から先行予約が始まり、まずは約100万枚の販売を予定しているそうです。

 

「おすそわけしマスク」が誕生した背景には、「マスクを本当に必要としている人たちに、品質が保証された安心安全なマスクを確実に届けたい」という、中部日本プラスチックの雪下真希子社長の想いもありました。

同社は、プラスチックのリサイクルや輸出入、加工等を行う会社で、同時に「ECONET PROJECT」というエコ活動を行っています。

ある時、マスク不足に困っていた雪下社長のもとに、パートナー企業からマスクが届きました。雪下社長は、そのマスクを周りで困っている大切な人達にもおすそわけしましたが、その大切な人たちの周りにもさらに困っている人たちがいて、マスクを求める声が続々とあがってきたと言います。そこで、マスクを提供することのできるパートナー企業と協力し、マスクを本当に必要としている人たちに届けたいと考えるようになったそうです。

その時、雪下社長はもともと繋がりのあったプロデューサーの小国士朗さんに相談をもちかけ、

  1. せっかくマスクを販売するのであれば、売上の一部を寄付するなど、社会の役に立ちたい
  2. もし寄付をするのであれば、届ける先を明確にしたい


といった2つのことが満たせるような仕組みが作れないか、とオーダーしたそう。
これが、「おすそわけしマスク」発足のきっかけでした。

 

相談を受けた小国さんは、「売る人も、買う人も、使う人も、みんなが『ふふ』と笑えるような、三方良しの仕組みを作れないだろうか?」と思ったそうです。

「ボランティアでも社会にいいことはできるけれど、無理なく続くことが大切だと思っています。誰かが泣きながら頑張らないといけないのではなく、買う人が思わず前のめりに参加したくなるような仕組みが必要だなと思い、このアイデアを思いつきました。」と話しています。

小国さんは「#福祉現場にもマスクを」のメンバーとも交流があったため、このプロジェクトが始動した当初から「何かしらの形で組めるのではないか」と考えていたそうで、「おすそわけしマスク」の仕組みを思いついた時にはすぐに澤田さんに連絡を取り、連携が始まったと言います。


注文をまちがえる料理店をプロデュースしたことでも有名な小国さん。今回も、関わるすべての人の心が温まるような仕掛けを作り、「福祉現場の声をきちんと拾って、顔の見える関係でマスクを届けることの出来る#福祉現場にもマスクを」と、「必要な人にマスクを届けたいという想いを持ち、きちんとマスクを提供することのできるECONET PROJECT」の2つのチームを見事に繋ぎました。

 

実は、この時点でのプロジェクト名は「おすそわけマスク」でしたが、「おすそわけ文化に馴染みのないミレニアル世代やZ世代の人たちからしたら、敷居が高くて気恥ずかしいのではないか」と思った澤田さんが、おすそわけに対する気恥ずかしさを解消して、ちょっとライトでカジュアルな行為にするために「おすそわけしマスク」というネーミングにしたそうです。

「がんばりマスク!」など、チーム内のコミュニケーションで語尾に「マスク」をつけて士気を高めていたことに着想を得たそうですが、普段から遊び心を持ったチームだからこそ生まれた言葉なのかもしれません。

 

「おすそわけしマスク」は、大人用と子供用の2種類があり、いずれも販売価格は1箱2,475円(45円/1枚・税抜)です。

現在は全国の福祉現場から寄付の申請をすることが可能で、福祉現場1ヵ所につき最大500枚まで、送料無料で受け付けているとのことですので、マスクが不足している福祉現場の方々は特設サイトより申請をお願いいたします。

なお、「#福祉現場にもマスクを」の方ですでに申請された福祉現場の方も、セカンドチャンスとして「おすそわけしマスク」への申請が可能です。いずれもまだ申請していない福祉現場であれば、両方に申請することができ、その場合は合計で最大1,000枚のマスクの寄付が受けられるそうです。

 

福祉発想だからこそ生まれた「すべての人が幸せになる仕組み」

 

東さんは、「#福祉現場にもマスクを」のプロジェクトの目的について、「福祉現場にマスクを届けることに加えて、福祉のことを知ってもらうことも重要な目的の一つなんです」と話していました。

「すべての人が幸せになる権利があり、そのために福祉がある」と力強く語る言葉の通り、マスクを売る人、買う人、使う人のみんなが喜ぶ「おすそわけしマスク」の仕組み自体が、とても福祉的な発想に基づいていると感じました。福祉に関わる皆さんだからこそ、幸せを増幅させる素晴らしい仕組みを生み出すことができたのだと思います。

 

このプロジェクトは福祉現場のSOSに耳を傾けることから始まりましたが、困っていても自ら声を上げられない人たちは他にもいるかもしれません。そういった声にならない声に耳を傾けることが重要である一方、自分自身がいっぱいいっぱいでは、周囲の声は愚か、自分の声にすら耳を傾けることができなくなってしまうと思います。だからこそ、ウィズコロナという時代においては、誰もが意識的に幸福を感じ、福祉を享受することが、ダイバーシティ&インクルージョンの実現に向けても重要なのだと感じました。

 

繋がりの時代を反映した寄付のカタチ

 

「『おすそわけしマスク』で大切なのは、このマスクを手にとった時に、自分と誰かが繋がっていることを実感できること。誰かが誰かを思いやって、お互いをゆるやかに意識しながら生きていけたらいいですし、そういう感情を掻き立てられるようなプロジェクトになればいいなと思います。」と、小国さんは話していました。

 

このプロジェクトの成り立ち自体が人と人の繋がりから生まれているように、「自分の信頼している人が困っているから助けてあげたい」「自分の大切な人が必要としているから力になりたい」といった「繋がりが人を動かす力」が強くなっている時代にあると感じています。それは、大切な人の大切な人との繋がりかもしれない。自分にマスクを寄付してくれた人との繋がりかもしれない。澤田さんの「寄゛付゛の循環」という言葉が表しているように、一方通行に与えて終わりなのではなく、むしろその瞬間が繋がりの起点となって、たとえ会ったことのない人であっても、そこに繋がりを感じることが精神的な価値となり、また新たな繋がり=寄゛付゛が生み出されていく。「#福祉現場にもマスクを」や「おすそわけしマスク」といったプロジェクトは、繋がりに価値がある時代を反映した素晴らしい取り組みだと感じました。

 

さいごに

 

筆者の父親も車椅子で生活しており、訪問看護やリハビリをしてくださる福祉現場の方々のおかげで生きることができています。今この瞬間も、福祉現場で活動してくださっている方々、それを支援してくださっている方々、そしてこのような素晴らしいプロジェクトを生み出してくださった方々、本当にありがとうございます。一日も早く、福祉現場にマスクが行き渡ること、そして、コロナウィルスが収束することを願っています。

 

※寄付・マスクの購入・マスクの申請を希望される方は、以下の特設サイトよりお願いいたします。

「#福祉現場にもマスクを」 https://fukushimask.com/

「おすそわけしマスク」 https://www.osusowakeshimask.com/

取材・文: 杉浦愛実
Reporting and Statement: manamisugiura

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