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21 Jan. 2020

編集部が行く!パラスポーツ観戦記_vol.8ゴールボール

2019年12月5日から10日までの6日間、「2019 IBSA ゴールボール アジア・パシフィック選手権大会 in 千葉」が開催され、アジア・パシフィック地域のNo.1を決める熱い戦いが繰り広げられました。ゴールボール初観戦の筆者が会場で感じた競技の魅力をお伝えします。

 

本大会は、東京2020パラリンピックの地域予選も兼ねており、優勝国はアジア・パシフィック地域代表としての出場権を獲得できます。日本代表は男女ともに開催国枠での出場権をすでに獲得していますが、本大会を東京パラリンピックの試金石となる大会と位置づけており、各国が必死に出場権を狙いに来る中で優勝することを目標に臨みました。

ゴールボールは、視覚に障害のある人のために作られた競技です。全員がアイシェードという目隠しをした状態で1チーム3人ずつゴールの前に並び、2チームが向かい合って試合を行います。攻撃側は相手ゴールめがけて鈴の入った重さ1.25㎏のボールを転がし、守備側は全身を使ってゴールを守ります。ボールが相手に渡るたびに攻守交代を繰り返し、前後半12分ハーフの競技時間の中で多くのゴールを決めたチームの勝利となります。

 

すべてが駆け引きの24分間

 

選手は、目隠しのために「アイシェード」と呼ばれるゴーグルを身に着け、完全に視界を遮られた状態で、音と感覚を頼りに試合を行います。審判が“Quiet Please!”とコールをしたら、コーチも観客も一切音を立ててはいけません。会場は、咳もできないほどの静寂に包まれ、コート内の選手が立てる音とボールの音、そして審判の笛だけが響き渡ります。

試合中、選手はアイシェードに触れることができません

 

コート上の選手同士は会話ができるため、「いいよいいよ」「オッケー!ナイス!」などの掛け声が鮮明に聞こえてきて、観客も耳を使って観戦を楽しむことができます。

フェイントも見どころです。ボールを転がす選手が、あえてタイミングをずらして足音を立てたり、ボールを転がす選手とは別の選手が攻撃するふりをして足音を立てたりと、さまざまな手段で相手を惑わします。

24分間の試合中、ボールだけでなく、あらゆる音も使って駆け引きが繰り広げられます。

 

シンプルなルールゆえに光る、多彩な攻撃

 

身一つでボールを転がす、という非常にシンプルなゴールボールの攻撃ですが、それ故に一人ひとりフォームが異なっていたり、ボールに緩急をつけたり、バウンドボールとグラウンダーを使い分けたり、コースを揺さぶったりと、多彩な攻撃を駆使するところも面白いと感じました。

中には、ボールを片手で持ったときに誤って落としてしまい、オウンゴールをしてしまうシーンも…。

跳んだり、

回転したり、

移動攻撃を仕掛けたり。

 

守備側のチームが最初にボールを触ってから、10秒以内に攻撃をしてボールがセンターラインを越えなければならないというルールがあり、攻守の交代もテンポよく進んでいきます。攻撃と守備が目まぐるしく代わる上に、攻撃したコースが甘いと相手に速攻を仕掛けられてしまうこともあるため、試合中はまさに一瞬の油断も許されない状況。

選手は床に貼られた紐を触ってコート内のポジションを確認していますが、スピーディーな試合展開でもポジショニングが乱れないため、時には見えているのかと思ってしまうほど。

足元の紐を触り、ポジションを確認する選手たち

 

また、コート上には線が引かれていて、自陣のゴールから3分の1の「攻撃側エリア」と、中央3分の1の「ニュートラルエリア」の2箇所でボールがバウンドをしないといけないというルールがあります。もし失敗してしまうと、相手に「ペナルティスロー」を与えることになり、守備側はたった一人でゴールを守らなければなりません。

ペナルティスローを獲得すると、ビッグチャンスになります

 

私が観戦した試合では、男子は何度かペナルティスローを与える場面もありましたが、女子は一点を争う試合展開で最後まで一度もペナルティをしませんでした。一回のミスが命取りになる緊張感が漂う中、見えない状態で狙った場所にボールを着地させられる技術力に驚きです。

そして今大会、女子は、世界ランキング4位の日本が2位の中国を抑えて見事に優勝。男子は、優勝こそ逃しましたが、銅メダルを獲得しました。

 

予選リーグ、タイを相手に11対4で勝利した男子日本代表チーム

 

初観戦でも楽しみやすい観戦環境

 

会場では、解説ラジオを聞きながら観戦ができるように、骨伝導イヤホンの貸し出しが行われていました。日本代表強化指定選手による解説は、選手の特徴や戦術など、競技に関する知識が浅い人でもより観戦を楽しむことができるような内容で、初心者には嬉しいサービスでした。
静寂の中で選手と同じ音を聞いて臨場感を味わうもよし。骨伝導イヤホンで解説を聞きながら競技や選手の理解を深めるもよし。多様な楽しみ方ができるのは魅力的です。

イヤホンは、手持ちのスマートフォンと簡単に接続できます

 

また、ペナルティーの種類等も会場の電光掲示板に表示されるため、はじめからルールを知らなくても理解しやすいよう工夫が施されていました。慣れないスポーツの観戦では、審判の笛が鳴ってもコート内で何が起きているのか分からない…ということがよくありますが、これなら初観戦でも安心です。

 

 

駆け引きに夢中になるゴールボール観戦

 

多彩な攻撃と音による駆け引きに夢中になるゴールボール。インプレイ中は声援を送ることができませんが、その分コート上のあらゆる音が聞こえてくるため、目だけではなく耳を使っても観戦できる面白さがあります。また、ルールがシンプルな上に、初心者に優しい観戦環境も整っているので、はじめての観戦でも選手やチームの特性が分かりやすく、すぐに楽しめました。

女子は2012年のロンドンパラリンピックで金メダルも獲得している日本代表。男女ともに東京パラリンピックへの出場を決めていることもあり、今後の活躍から目が離せません。


執筆者 杉浦愛実

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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