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Dec.

2024

interview
24 Dec. 2021

KnowingからDoing、そしてBeingへ。共生社会実現への3ステップ~河合純一氏/櫻井誠一氏 後編~

パラアスリートや、パラスポーツを支える人たちに取材し、彼らと一緒に社会を変えるヒントを探るシリーズ「パラスポーツが拓く未来~パラスポーツ連続インタビュー~」。第5回目は、日本パラスポーツ協会日本パラリンピック委員会(JPC)委員長・河合純一氏と日本パラ水泳連盟常務理事・櫻井誠一氏に聞きました。

 

 

櫻井誠一氏(左)、河合純一氏(右)     

 

河合純一氏(日本パラスポーツ協会日本パラリンピック委員会委員長)

全盲のスイマーとして6度のパラリンピックに出場し、合計21個のメダルを獲得。現在は日本パラスポーツ協会日本パラリンピック委員会(JPC)委員長、日本パラ水泳連盟会長などを務め、東京2020パラリンピックでは日本選手団団長。

 

櫻井誠一氏(日本パラ水泳連盟常務理事)

日本パラ水泳連盟常務理事。1989年にアジアパラ競技大会の前身である「フェスピック神戸」にボランティアで関わったことをきっかけに、パラ水泳選手の指導を始める。

 

 

■「共生社会」への現在地

 

「共生社会」へは、いまやっと第1段階

 

河合:共生社会の実現という言葉は、非常に漠然としていて、どうすれば共生社会が実現できたと誰もが納得するのかについて、答えを持っている人はなかなかいないのではないでしょうかゴールとしての明確な数値目標を具体的に議論していくことは、まだまだ必要だと感じています。

 

私は「共生社会の実現」には、知る(Knowing)→実行に移す(Doing)→当たり前の状態になる(Being)という3段階があると思っています。いまは、やっと第1段階の「Knowing」に上って、これから第2段階の「Doing」に上るところかなと思います。障がいがあるから誰かが手助けしよう、バリアフリーにしようというのは、第2段階です。誰もがユニバーサルにものを考えるようになって、障がいのある人に普通に声をかける「Being」の状態になるには、10年はかかると思います。第1段階により多くの人たちが上るきっかけとして、東京2020大会は大きな成果を上げたと思います。

 

 

パラスポーツは、

「共生社会」実現への強力なコンテンツ

 

河合:スポーツは、わかりやすいと思います。「共生社会を勉強しましょう」というよりも、「スポーツを見に行きましょう」という方が、取り組みのハードルを下げる効果がすごくあるのではないでしょうか。そして、スポーツを見た時に、何かを感じる、気づく、考える。それが「共生社会」につながっていくのではないでしょうか。その意味でパラスポーツのコンテンツ力は、相当大きいと思いますね。

 

櫻井:普段、健常者は「障がい者はこれができないはずだから、手助けしてあげないといけない」というように、できないことを前提に物事を考える。でもスポーツを見ていると、「できるじゃないか!」というのがいっぱい出てくる。自分と一緒に競争しても「この人の方が速いよね」となって、障がいのあるなしは関係なく、同じスポーツをしている人として見る。その意味で、スポーツは「共生社会」を理解しやすくするのです。

 

 

■「共生社会」実現へのヒント

 

「共生社会」に向かうためには、

ダイバーシティとインクルージョンの違いを認識すること

 

河合:ダイバーシティは、まさにそこにある「状態」を指しています。いま、「障がいがある人もいます」「日本人もいます」「女性もいます」「LGBTQの人もいます」というように、みんな違ってみんないい、ということはだいぶ意識できてきました。こういう状態がダイバーシティです。一方、インクルージョンは、その中の人たちがいきいきと活躍できる状態で、この状態をつくれるかどうかが勝負なんですね。

 

最近、講演などでよく話すことがあります。「パラリンピックの閉会式で、障がいのあるキャストの方々がたくさん出ていました。それをご覧になって、たくさん出ていてすごいなと思ったのではないでしょうか。あの方々の全キャスト数に占める割合は、世界の中で障がいのある方々の割合とほぼ同じ。あの情景をすごいなと見ている時点で、いまの社会がそういう方々が活躍できる状態になっていないことに、気づいたわけです」と。

 

東京2020大会 閉会式©フォート・キシモト

 

「参加」から「参画」へ一段レベルを上げる必要がある

 

櫻井:私は、「共生」を理解するには、逆に「排除しているかどうか」、「排除することに合理性があるのかどうか」、という視点で見る方がわかりやすいと思っています。

 

また、いまは障がい者というのは「参加」のレベルにとどまっている状況が多い。「お話を聞きましょう」というレベルです。そこから一段上げて、「参画」というレベル。「一緒に企画をし、考えて実行する」というレベルに上げていかなければならないと思います。

 

河合:たとえば、10以上の障がい者等の関連団体とのユニバーサルデザインワークショップで集まった意見を踏まえ、スタジアムのバリアフリー環境を整備した「国立競技場の地区設計の運営」の取り組みや、「ナショナルトレーニングセンターイースト周辺のバリアフリー化」の取り組みは参考にできると思います。

 

今後、大阪万博、愛知名古屋のアジア大会や2030年冬季五輪・パラリンピック札幌招致などの国家的イベントが予定されています。東京ではさまざまな議論を通じて「参画」へのノウハウを蓄積してきましたが、今後、東京以外の地域へとそのノウハウを広げ、落とし込んでいく必要があると考えています。

 

 

■「共生社会」実現に向けての提案

 

より戦略的に子どもたちにアプローチ

 

河合:こんな話があります。「障がいのない子が、パラ陸上の競技用車いす(レーサー)を欲しいと言ったので、調べたら50万円もする。お母さんはとても買えないと言った。それでも、乗り物もかっこいいし、すごいスポーツだからどうしても見たいとせがまれ、結局、お父さんお母さんは、見に行ってみた」。

 

大人たちは変えにくくても、子どもたちが変わる。10年後にはその子どもたちが大人になるので、社会は大きく変わっていく。そう思うと、より戦略的に子どもたちにアプローチするというのは、私たちがやるべき方向性なのかなとも思います。

 

上に立つ人たちの意識改革が必要

 

櫻井:今後は、組織のトップに立つ人の意識がより大切になると考えます。トップに立つ人が、まず社会にある差別を正しく認識することです。そうすることで、たとえば「差別への意識の在り方」についてグローバルな基準(チェックリスト)を作成して、それに基づいて社会の意識を確認していく仕組みづくりなどにもつながっていきます。そうすれば、より多くの人の意識が変わっていくのではないでしょうか。

 

 

サポートしていだだく企業とは、共創していく視点・関係が大切

 

河合:共生社会の実現には、仕掛けも含めてムーブメントを起こすことがすごく重要だと思います。サポートしていただく企業の方々とは、「共創」という考え方が大切になります。お互い、方向性やビジョンを確認し合い、Beingな状態にするために「どう掛け算(連携)をしていくか」という視点を見失わないこと。いろいろな方々の意見を聞き、プロセスを踏んでいくことによって、より良い企画や提案が生まれ、ムーブメントにつながっていくと思います。

 

 

■できることは、身近にある

 

さまざまなアイデアや応援の積み重ねを、

大きな力として、大切にしていきたい

提供:日本パラ水泳連盟

 


櫻井:
たとえば、東京2020大会では、各国選手団の事前合宿を多くの地域で受け入れてもらいました。そこで、その地域で誘致した国の名前をつけた大会を実施してはどうかというのも、ひとつのアイデアだと思います。日本各地で生まれたパラスポーツやパラアスリートとのつながりを、今後の競技大会開催などへと広げていけたら、うれしいですよね。 

 

河合:パラスポーツのサポートという点では、たとえば私は、いろいろな人に「日本パラ水泳連盟のFacebookをフォローしてください」と言っています。そんなことでいいのですかと言われますが、「パラ水泳、パラリンピックは面白かったね」と会話してくれるだけでもいい。それが一番大きな口コミ。何もできることがないと思っているのは、結局、何もしていないこと。本当になんでもいいんです。あまり難しく考える必要性はありません。まず、アクションをして欲しいなと思いますね。

 

 

―――――― 

「共生社会」と聞くとつい難しく考えてしまいがちですが、実現への第1ステップ(Knowing)から、第2ステップ(Doing)に上がるためには、パラスポーツを応援するといった、一人ひとりの小さなアクションの積み重ねなのかもしれません。また、その小さなアクションから次のアクションのアイデアも生まれるでしょう。できることから、始めてみませんか。

 

 

 

取材・執筆:桑原寿、吉永惠一、斉藤浩一

編集:八木まどか

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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