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5 Jan. 2022

佐賀からコーチと目指す世界の頂点~車いすテニス・大谷桃子選手/古賀雅博コーチ~

パラアスリートや、パラスポーツを支える人たちに取材し、彼らと一緒に社会を変えるヒントを探るシリーズ「パラスポーツが拓く未来~パラスポーツ連続インタビュー〜」。第6回目は、車いすテニス界のニュースターとして急成長中の大谷桃子選手と、古賀雅博コーチに聞きました。

 

大谷桃子選手(左)、古賀雅博コーチ(右)

 

大谷桃子選手(車いすテニス)

小学生の頃からテニスを始め、高校在学中にはインターハイに出場。高校卒業後、病気により車いす生活に。父に勧められたことをきっかけに2016年から車いすテニスを始め、2018年にはアジアパラ競技大会シングルスで銅メダルを獲得。一躍、日本代表候補に躍り出た。2020年4月かんぽ生命入社。2020年全仏オープンでは、初出場ながらシングルス準優勝の快挙を達成。東京2020大会ではダブルスで銅メダルを獲得。

古賀雅博コーチ

佐賀県佐賀市でテニスショップを経営しながらコーチとして活動。2016年から大谷選手のコーチとなり、現在は専任コーチとして大谷選手と二人三脚でグランドスラム制覇を目指す。

 

 

 

■車いすテニスと出会い、初出場したパラリンピック

 

クラス分けの少ないことが車いすテニスの魅力

そして、トップを目指して臨んだパラリンピック

 

大谷他のパラスポーツに比べて、クラス分けが少ないのは車いすテニスの面白さかなと思います。「男子」「女子」「クワード」の3つしかクラスはなく、下肢障がいが分からない、普段は健常者みたいに歩いている選手も、車いすに乗っている選手も一緒にプレーをする。有利不利もありますけど、そこが関係なく戦えるというところが、自分自身競技を楽しんでいる部分でもありますし、見る人にとっても楽しめるのではないかと思います。

 

古賀:毎年、僕たちが住んでいる佐賀県では、佐賀テニス協会の大会に2人で出場しています。他の組はすべて健常者が出ているのですが、桃子は車いすで僕と「ミックスダブルス」で出て、普通に健常者とも戦えるのが面白いと思います。

 

大谷:私は2016年から車いすテニスの大会に出場し始めて、コーチとともに、私たちが日本代表として東京2020パラリンピックに出場したいと思うようになったのは、2017年頃です。コーチと、「やるからには、トップ選手になる」という目標を決めました。やはり、グランドスラムで優勝というのが一番上にありますが、その次ぐらいに東京2020パラリンピックが入っていたかなと思います。

 

車いす生活になってから引きこもりがちで、「やりたいことができない」とか、「もっと、ああしておけばよかったな」というのが多かったので、「やると決めたからには、とことんやってやろう」と思うようになりました。

 

 

独特の雰囲気を感じた、東京2020大会

これからも、勝つために、楽しむために頑張る

東京2020大会 車いすテニス 女子ダブルス 3位決定戦©フォート・キシモト

 

大谷:東京2020パラリンピックのダブルスで銅メダルを獲得した瞬間は、いままで味わったことのない感動や嬉しさを感じました。ただ、目標の色のメダルではなく、満足できる結果ではなかったと思います。ただただいつものプレーを出すのが難しいということをすごく感じました。いつも以上に緊張していたというわけではなかったのですが、実際に始まってみるとうまく体が動かなかったり、独特の雰囲気に飲み込まれているなという感じでした。

 

普段は、会場でコーチが隣にいて話をしてから試合に入るのですが、今回、コーチは会場に入ることもできなかったので、いつものルーティンが崩れてしまったのもひとつの要因かなと思います。

 

戦い始めると自分のことしか見えなくなるので、事前にいただいた国旗や色紙を全部持って行って、プレーの前にそれを見て、応援してくれる人がたくさんいることを忘れないようにしていました。応援メッセージにはずっと励まされていましたね。

 

古賀:東京2020パラリンピックが終わってみて、その目標への到達度で言うと、50%くらいでしょうか。アジアパラ競技大会(2022年10月中国杭州で開催)で金メダルをとると、アジア枠をもらえてパリパラリンピックの出場が内定します。来年の2022アジアパラ競技大会では、本当に優勝したいですね。

 

大谷:目標への達成度は、私としては40%。優勝しない限りは負けるので、負けた時には今後ちょっとずつ変えなければいけないことについて、気づきが生まれる。私は、試合で勝つのが楽しくて、勝たないと楽しくない(笑)。勝つために、楽しむために、という感じですね。

 

 

■企業や地域に支えられて

 

社員となり、とても安心感がある

 

大谷:私は、日本車いすテニス協会のトップパートナーでもあるかんぽ生命に社員として採用されました。大学4年生の時からスポンサー契約を結んでもらっていましたが、かんぽ生命の方々が実際に試合を見に来てくれたことが入社の決め手となりました。

以前は、年間の活動費も限られていましたが、社員になったいまは、仕事として競技活動に取り組めるので、すごく安心感があります。

 

古賀:大谷が社員になったと同時に、かんぽ生命と専任コーチ契約をしていただきました。同時に、専任になったことで責任もあります。

 

以前は、大谷と年齢が20歳ぐらい離れているので、正直レッスン料も貰いづらかった。大谷が入院して、退院がいつになるかも分からないといったこともあったので、自分の他の仕事は入れられないし、大変でしたね。私も家庭がありますので、なかなか「いいよ。いいよ」とは言えなかったのですが、僕もサポートしていただけているのはありがたいですし、大谷が社員雇用になったことには、安心しました。

 

 

アスリートの支援に積極的に取り組んでいる佐賀県

 

古賀:佐賀県は、アスリート支援に理解があります。今回の東京2020パラリンピックの結果を受けて、大谷は佐賀県の県民栄誉賞をもらったのですが、メダルをとったその日に連絡が来たぐらいなので、決定も早かったです。

 

大谷:佐賀県には、 SSP構想(SAGAスポーツピラミッド構想)というアスリートを支援するシステムができあがっています。ピラミッド構造のように、トップ選手がいて、すそ野を広げて、トップ選手が引退する時には指導者に迎えて…という佐賀県独自の取り組みがあります。支援のひとつに、高校生向けに寮を建てるということも聞きました。

 

 

日本は、ジュニア世代の育成や

パラスポーツへの取り組みやすさが進んでいない

 

大谷:オランダだけで言えば、ジュニアの頃からの育成であったり、国としての体制であったりが全然違う。車いすユーザーになってパラスポーツに取り組む時には、車いすテニスから始めると聞いています。適性があれば競技用の車いすを1台もらえるなど、パラスポーツに取り組みやすい環境が国としてできあがっていると思います。

 

日本では、競技用の車いすには補助金は出ません。一番安いものでも25万円ぐらいするので、なかなか手が出せなくて、それも競技を始めにくい要因かと思います。私も、最初の半年から1年ぐらいは、知り合いのおさがりに乗って試合を回っていました。

 

また、地域によって取り組める種目と、取り組めない種目があります。私が佐賀に来た時も、練習できる所を探すのも大変で、知り合いをつくるのも体験会に行かないとできなかった。やりたいと思ったらすぐにできる環境をつくっておく必要があると思います。

 

 

日本のパラスポーツに必要なのは、環境面の整備と指導者の育成

 

古賀:日本は財源の面では恵まれていますが、環境面では先進国ではないと思っています。イギリスは、州ごと地区ごとにパラアスリートのトレーニングセンターがある。アメリカでも、各大学のトレーニング施設にパラアスリートもトレーニングできる機械をすべて揃えているらしい。

 

また、アメリカでは十何年前からお店や新しい施設をつくる時に、すべてバリアフリーにしないとつくれないという法律があります。一方、日本は全然強制されていない。パラアスリートのための施設をつくってほしいというよりも、標準のところが高まれば、「共生社会」につながっていくのではないでしょうか。

 

もうひとつ重要な課題は、車いすテニス指導者の教育・育成ですね。健常者のスポーツ団体での指導者講習の中で、たとえばテニスの講習ならば、座学でもいいから「車いすテニス」を必修科目に入れる。そうすれば、車いすテニスの指導のやり方を少しずつでも認識できると思います。

 

 

■たくさんの観客の前で勝ちたい

 

プレーの「質」を上げて、

純粋にファンになってもらうのが一番                                           

 

古賀:車いすテニスに興味を持ってくれた人には、やっぱり試合を見てもらいたいですね。観客が増えれば選手たちもちゃんとしたプレーを見せないといけないので意識が上がっていくでしょうし、さらに言うと、観客からお金を払ってでも見に行きたいと思ってもらわないといけない。「車いすテニスとしては上手」という感覚では絶対だめで、「こんなこともできるのか」と思ってもらうくらいにならないと。強くなることも大切ですが、プレーの「質」を上げていく必要があります。いまは、すでに知っている選手の試合を見に行こうという感覚が多いと思いますが、プレーの質が高まることで普通に車いすテニスの試合を見に行って、見ている中でこの人のプレーはすごい、と感動してファンになってもらうのが一番いい流れだと思います。

 

大谷:私も、観客がいる前では気持ちが全然違います。応援してもらっていると思うだけでとても心強いです。早く、たくさんの観客の前でプレーしたいですね。

 

 

――――――

負けず嫌いな大谷選手と、指導者として二人三脚で歩んできた古賀コーチ。2人が、世界中のたくさんの観客の前で優勝する日が楽しみです。

「たくさんの観客の前で勝ちたい」という夢のためにもハード面だけでなく、選手&コーチの育成にもインクルーシブさは不可欠。パラスポーツに関わる人々の視点が、社会のさまざまな変革のヒントになるのではないでしょうか。

 

 

《参考情報》

・大谷桃子選手 特設サイト

https://www.jp-life.japanpost.jp/aboutus/csr/diversity/athlete.html

 

・古賀雅博コーチ Facebook

https://www.facebook.com/masahiro.koga.374

 

 

 

取材・執筆:桑原寿、吉永惠一、斉藤浩一

編集:高田愛

 

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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