「希少難病(レアディジーズ)」、知っていますか? vol.4
- 共同執筆
- ココカラー編集部
「これがこの子の普通」- 希少難病の子を持つ母として
希少難病の当事者でありながらこの問題に取り組んでいらっしゃる、香取久之さん(NPO法人希少難病ネットつながる(RDneT)理事長)、重光喬之さん(脳脊髄液減少症とほどほどに付き合うfeese運営者、NPO法人両育わーるど代表)、近藤麻視さん(一般社団法人社会課題解決支援協会代表理事)の3人によるトーク。今回は、骨系統疾患の育児に奮闘し、現在2人目のお子さんを妊娠中の山川樹里さんを交えてお伝えします。
妊娠中に診断された難病
‐まず、山川さんの置かれた状況についてお聞かせいただけますか。
山川さん:
妊娠7か月の時、お腹の娘に骨系統疾患という病気があることが分かりました。私自身は今まで大学病院にも行ったことがないくらいの健康体だったので青天の霹靂でした。
骨系統疾患というくくりの中でも436疾患あると言われており、原因も症状も人によってさまざまです。娘の場合は「2型コラーゲン異常症」ではないかというところまで分かっていて、網膜剥離や難聴が起きうる合併症です。外見の特徴は、低身長で首や上腕部が短くお腹がぽっこりしていること。全体的に骨が小さく、しびれや呼吸障害など合併症も起きやすい病気です。とても不安でしたが、生まれてみれば体重3300グラム、呼吸障害や骨の変形もありませんでした。しばらくは目や耳の異常や、息が止まるかもしれないと言われて恐々育てていましたが、症状が出たのは近視くらいで。1歳の時に検査で2型コラーゲン異常症が分かりましたが、今のところは低身長になるだろうということ以外、この先どうなるのかが分からない状況です。
‐近藤さんも、息子さんが難病でいらっしゃいます。
近藤さん:
息子は生後3ヶ月で発症しました。高熱やひきつけを起こして入退院を繰り返し、5ヶ月で手術をしましたが先生からも匙を投げられた状態だったんです。「長く生きられない子を産んでしまった」と考えると同時に、「それなら死ぬまで笑顔でいさせてあげたい」と思い、この子が望むことを考えました。そうしたらなぜか急に状態が良くなって。「親の気持ちが変われば」というのはあるんですね。山川さんは病気のことを周りには伝えていますか?
山川さん:
娘は保育園に通っていますが、背が低いのでお友達に協力してもらう場面が出てくるということは先生やほかの保護者の方に伝えています。見た目に大きな差が出る前に言っておこうと思いました。
香取さん:
事実として伝えた方がいいですよね。知らないと何もできないので。
「病気の子」ではなくて「ひとりの人間」として向き合う
山川さん:
もうすぐ生まれる弟が、きっとすぐに、お姉ちゃんの身長を超えちゃうと思うんです。そうなった時に娘にどう説明すればいいのかと考えるとこたえが出なくて。娘が生きやすい工夫をしてあげたいのですが…
近藤さん:
私自身が難病患者ということもありますが、自分が死んだ後に子どもができることをするのが親の役目だと思っています。息子はとてもスポーツができる体ではありませんでしたが、最終的にバスケの推薦で進学しました。心配でしたが、「私がどう生きて欲しいか」じゃなくて、「この子がどうしたいか」だと思ったんです。そのために、食事などできる部分は徹底しました。
山川さん:
そうですよね、歩き始めのころは転ぶのが怖くていろいろ禁止していましたが、保育園の先生からは意外と運動神経がいいと言われます。本人も小さいながら工夫してやっているので、危なくない程度にやらせたいと思っています。
近藤さん:
「病気の子」ではなくて「ひとりの人間」として向き合って欲しいと思います。近視眼的になってしまうこともあると思いますが、子どもの成長ってすごいんで、長い目でみて、信じてあげてください。
それぞれがそれぞれの「普通」
‐重光さんは、障害児とそれに関わる人たちのためのNPOをやってらっしゃいますよね。
重光さん:
親御さんが見守るスタンスのご家庭のお子さんの方が成長できていると、私は感じます。「こうしなさい」や「できないだろうの過小評価」が多いと、施設や学校ではできていることが、家ではできなくなってしまったりすることもあります。慎重になるのは当たり前ですが、子どもを信じてどこかで手放すのは大事だと考えます。障害をもつ子供のお母さんのなかには、シングルマザーの方もいらっしゃいます。まわりから責められたり、自分でも申し訳ないと思ったり、「普通って何だろう」というところで悩んだりされています。
山川さん:
私も、1歳くらいまでは「この子は普通と違うんだ」って思っていたんですけれど、「この子にとってはこれが普通だから、これが普通で育てればいいのかな」と思うようになりました。背が低いのも、それが悪さをしているのでなくて個性なので。平均に完全に合致している人なんていませんよね、なので平均や普通という幻想に惑わされないでいたいと思います。
香取さん:
「普通」と言われていることがおかしいこともたくさんありますよね。
近藤さん:
そういう考え方すら考えなかったのが今までで、やっと「普通」を疑うようになってきましたよね。平均も常識も非常識もどんどん変わっていくので、それがそれぞれの人の普通でいいんです。
‐さまざまな生きづらさを抱えた人々がいる現代、希少難病当事者が感じていること知ることは、「人との接し方」を考えるヒントになるのではないでしょうか。
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