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Oct.

2020

interview
18 Sep. 2020

プロダクトはあくまで「点」。もっと多くの人が参加する「プラットフォーム」になるには?RDS杉原行里さんインタビュー(後半)

野村隆文
コピーライター
野村隆文

F1チームスクーデリア・アルファタウリ・ホンダと、パートナーシップを組むなどモータースポーツを始め、パラスポーツ、ロボットなど、最先端フィールドの研究開発によって生まれた技術を、医療・福祉の現場に活用するプロジェクトに取り組む株式会社RDS。

中でも「RDS WF01」という車いすは、ハンディキャップのある人だけではなく、誰もが乗りたいモビリティを構築することを目指す、RDSの思想の象徴となるようなプロダクトです。

2020年5月には、世界最高峰のデザインアワード「A’ Design Award & Competition」にて、このWF01が最高評価のプラチナを獲得。前半の記事では、その受賞を話の端緒に、WF01開発の経緯やRDSの設計思想について、代表の杉原行里さんに伺いました。

しかし実は杉原さんは、車いすのWF01ではなく、その開発の裏側にある「シートシミュレータ(RDS SS01)が最高評価を受賞しなくて悔しかった」とか。今回は、その発言の真意に加え、そんな唯一無二のプロダクトを生み出せるチームづくりについて、そして杉原さんとRDSがこれから目指していく世界について、お伺いしていきます。

(RDS SS01)

 

#座り方から健康に

WF01が最高評価のプラチナを獲得したとき、杉原さんの正直な感想は、複雑なものだったと言います。

「正直こっちかあ、と思いました。僕らチームみんなが思ったのは、まだ世の中との対話が成立してないのかと。WF01がプラチナを取ったのはもちろんめちゃくちゃ嬉しいんですけど、僕らのプロジェクトの根底にある技術SS01というシミュレーターがブロンズだったか…という思いでした」

SS01は、パラリンピアンと共同開発した「それぞれの人の座るべき最適なポジション」を測るために生まれたロボット。しかし実は、車いすレースで結果を残すことだけでなく、車いすユーザーの課題となっていることを解決する可能性があるプロダクトだとか。

「人間は、人生で基本的に1/3ぐらいは座っているのに、座ることにコストをかけることや、科学をすることが、まだまだ進んでいなかった。たとえば車椅子を選ぶ、今までは購入してみないと自分に合っているかどうか分かりずらかったんです。SS01なら速度や重心がすべてデータとして可視化されるから、みんな共通言語を手に入れて納得するんですよね」

SS01は実証を重ね、さらに測定の精度を高めることで、車いすユーザーに限らず様々な人の健康維持に貢献していくようになると言います。

「国立障害者リハビリテーションセンターで、多くのモニターの方々にトライをしてもらっています。ビッグデータ化して、アルゴリズムのデザインが入っていくことで、将来的には座ってカメラで撮るだけで最適なポジションがわかるようになるはずです。さらに健康データともリンクしていくと、疾患の兆候が事前に分かったり、トレーニングして改善したりできるかもしれない。未病というのが今後の医療でとても大きな役割を果たしていく中で、RDSも『座る』や『歩く』などデータをバイオマーカーとして活用できるようにしたいです」

 

#人間の感覚や感情にシンプルであること

WF01やSS01という画期的なプロダクトを生み出したチームを、どのように杉原さんは率いているのでしょうか。

「まずは俯瞰して見ること。憑依するというか、イタコになるというか。相手の立場だったらどうか、というのを思いっきり考える。その人を理解するというのは、プロジェクトを遂行する上ではとてもとても大事なことだと思っているので、人が好きじゃないと難しい役割かもしれないですね。勿論僕もまだまだです。」

とにかく相手の立場に立つこと。その上で、コミュニケーションはあくまでシンプルに行うと言います。

「全部どシンプル、ど直球。最初にプロジェクトを始めるときに“プロジェクトを通じて何を得たい?”って聞きます。とにかくシンプルに物事を伝えて、シンプルにリアクションしてもらうように心がけています。言葉が上手い人もいれば、文字にするのが上手い人もいれば、感情で表現してくる人がいる。ここは多種多様で、僕の中ではここがダイバーシティだと思っています」

 

WF01を貫く思想は、「パーソナライズの量産化」だと前回お伺いしました。(前半の記事)一方でそのデザインは、本能的にかっこいいと思える、乗っていて気持ちいいと思えることを目指している。チームの一人ひとりが自分の感情に素直に、徹底的に自分ごと化し、得意な分野を活かしていった結果、WF01というプロダクトが生まれた。当たり前のようなプロセスに聞こえると思いますが、一番難しいことを実現しています。このことは、これからのデザインのあり方を考える上で、とても示唆に富んでいると感じました。

「人間の感覚や感情にシンプルである。そういうチームが生んでいるのがWF01やSS01です。 “かっこいいの、乗りたいよね?” それ大事な感情だよね!みたいな。“自分の所有欲を満たすためには、TPOに合わせて変化したらいいよね?”とか。人間が思う感覚値に、すごく忠実なだけです」

(RDS WF01は、様々なアタッチメントを取り付けてカスタマイズすることができる)

 

#映画のように、建築のように

RDSが生み出すプロダクトは、どこでも見たことがないようで、どこか懐かしさもあります。そのインスピレーションはどこから来ているのでしょうか。

「バック・トゥ・ザ・フューチャーは週1回は見ます。どう考えてもあれは世界で一番の映画。スターウォーズ と悩みますが…35年近く前にできた映画が未だに色褪せないし、映画に技術が追いつこうとしている。」

杉原さんは、自分の人生も映画のように捉えていると言います。

「人生には多くの選択肢がある中で、僕は一番ハードルが高そうな選択肢を選ぼうと決めてます。自分の人生を一つの映画作品とし、その映画を映画館で誰かが見ているかもしれないと仮定した時に、常に簡単な選択肢を選ぶ主人公って見たくないじゃないですか。(笑)ハリウッド映画みたいにダイナミックでワクワクする方が、僕は好きだな。すごい敵が出てきて、一回負けるけどがんばって、絶対勝つみたいな(笑)」

 

映画のようなワクワクする人生を目指し、日々新しいプロジェクトに取り組み続ける杉原さん。一方で、実は元々は、プロダクトデザインではなく建築の道に進もうと思っていたこともあるとか。

「建築は好きです。でも、素晴らしい現代建築やっている人を見ると、数十年で建てたのは片手で数えられるほど、という人がザラにいて。ちょっと自分は、1つの作品に数年はかけられないって思いました。でも、たとえば京都で建立された寺院とかを見ると、建てた人はこんな状況を想像してなかっただろうなと。2千年経っても人が来るのって凄いことですよね。2千年経って、SS01は絶対に無いですから。そういう意味では、僕らがやっているのは、ひとつひとつの点をつくるぐらいなんです」

そんな建築への思いは、杉原さんが関わるプロダクトに存分に込められています。

「すべてのプロジェクトに共通しているのは、プラットフォーマーになろうと思っていること。1つのかっこいいプロダクトだけでは多くの人に浸透するには時間がかかる。でも、1つ1つがずっと残る点ではなくても、その点がいろんなところにアクティベートして、線と線が繋がっていくことを、僕らはプロダクトに期待しているし、プロダクトはそうあるべきだと考えています」

 

#プラットフォーマーとして、一緒につくっていく

プラットフォーマーになること。それは、プロダクトが完成した後の話だけではなく、つくる段階からたくさんの人を巻き込んでいくことだと言います。

「TVとYouTubeの関係に似ているのかもしれませんが、分断されていっている世の中で、僕らはTV的なやり方ではなく、YouTuber的につくっていく。多くの人を巻き込んでいってつくる必要があると考えています。今の僕らの弱みは、すごくきれいな完成されたものを出してしまうことです。多くの人をインクルーシブして巻き込んでいくという一つの潮流をつくっていくには、一緒につくっていく余白がないといけない。今後の課題です」

スキルや特徴ではなく、一人ひとりが思う課題や、その人ならではの視点を共有する。それを、共通言語としてのデータが繋ぐことで、未来の新しい選択肢であるプロダクトが生み出されていく。

今回のデザインアワードの受賞は、そんな杉原さんが目指す世界観の、ほんの始まりに過ぎなかったようです。

「絵が得意な人がいたり、CGが好きな人がいたり。でもそれはあくまでプロダクトのために必要な1つのツールであって、それが全てではない。一緒の時代を生きている、ある意味多くの仲間たちで、得意なことを活かして、目の前にある課題を解決していければいい。僕らRDSは『かっこいいは正義』に、得意なプロダクトで、世界に新たな選択肢を提案したい。超面白いですよ、これからの世の中」

 

 

取材・文: 野村隆文
Reporting and Statement: takafuminomura

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