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Dec.

2024

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10 Dec. 2020

「家族観」のダイバーシティが、みんなを救う

鈴木陽子
ストラテジスト/PRプランナー
鈴木陽子

コロナ禍によってライフスタイルの急激な変化を余儀なくされた2020年。長期間にわたる自粛生活は、私たちにとっての最小単位のコミュニティである「家族」とともに過ごす時間を必然的に増加させた。それが良い方向に向かった人もいれば、家事や子育てなどの負担が増え、家庭内の課題が顕在化した人もいるだろう。

家族の問題はなかなか他人に話すことが難しく、自分たちだけで抱え込んでしまい、気づいた時には問題が大きくなってしまいがちである。そんな家族の問題を解決する糸口はどこにあるだろうか。

本記事では、従来の家族のあり方に一石を投じる試みをしてきたお二方を講師に迎えた、オンラインセミナーの様子をお届けする。

 

コロナ禍で顕在化した問題と人とのつながり

まちのあらゆる場所を教室に多様な授業を開催しているNPO法人シブヤ大学にて、12月5日に『今こそ考えたい家族のカタチ』と題したオンライン授業が実施された。この授業は、「思いやりで、東京をもっと心地よく」を謳う一般社団法人Tokyo Good Manners Projectとのコラボレーション講座として、コロナ禍で顕在化した問題を思いやりや人とのつながりで解決するヒントを探ることをテーマに、3回連続で開催される予定である。

1回目のテーマは「家族」。私たちにとって最も身近なこのコミュニティは、アイデンティティの根幹に影響を与える存在であり、他者が容易に口を出せない不可侵領域のように思われている。だからこそ、家庭内の問題は外にサポートを求めるのが難しい。

そんな状態に対して、自分にとっての「家族」の定義を見つめ直し、その定義を広げたり開いたりすることで、家族の問題にもう少し肩の力を抜いて向き合い、お互いに助け合いやすくなる関係性を作れないだろうか。

講師としてお話されたのは、文筆業を営む海猫沢めろんさんと、編集者・ライターの笹川かおりさん。小説とジャーナリズムと畑は異なるが、旧来の家族の定義を揺さぶるようなお仕事をしてきたお二人である。授業当日は、20代から50代の様々な立場の方が参加し、お二人のお話に熱心に耳を傾けていた。

 

「旧来の家族観」について思うこと

冒頭で自己紹介をされたのが、文筆業の海猫沢めろんさん。海猫沢さんは、東京と熊本の二拠点生活を送る、お子さんとパートナーの3人家族。関西に生まれ、ご自身が生まれ育った家庭は両親と兄弟がいる普通の家庭で、学生時代までは家族について深く考えたことはなかった。

“普通過ぎて、それがコンプレックスでしたね。普通コンプレックス。”

そんな海猫沢さんの家族観とはどのようなものなのか。海猫沢さんからは「家族の役割はまず経済的支援。家族は上手くいっていれば、コスパがいい」という発言が最初に飛び出した。

海猫沢さんがそのことを意識したのは、初めて東京に出ようと思った時だ。最低数十万単位の資金がなければ東京に出るのは難しい。そんな資金面での課題に直面した時に初めて、家族の機能について意識したのだという。

さらに、家族と経済の関係は、物理的な面だけではなく意識的な面にも及ぶと考えている。子どもはお金を持っていない。その時点で既に、経済観念が家族に左右され、その家にとっての経済の定義を、勝手にインストールされてしまうのだ。

この意識面でのインストールは、家族観全体までにも及ぶ。海猫沢さんは、ご自身の家族を持ったことで、自分の中に無意識にインストールされていた家族の形が浮き彫りになる経験をしたのだそうだ。「家族に関する思い込みから自由になりたくてもなかなかできない」と海猫沢さんは語るが、そのことが家族の問題をよりデリケートなものにしているのだろう。


(講師の海猫沢めろんさん)

 

続いて編集者・ライターの笹川さんが、ご自身の家族観の形成過程についてお話をしてくれた。

笹川さんのご家族も、パートナーとお子さんの3人家族。ご自身が生まれ育った原体験としての家族は家父長制の色が濃く、早い時期から大学から家を出て自立をしようと考えていたそうだ。

そんな笹川さんが出版社を経て入った「ハフポスト日本版」で手掛けたのが、2017年11月から立ち上がった「家族のかたち」という特集だ。平等やダイバーシティが謳われつつも日本の制度が追い付いていない現状に対する違和感をもとに実現させた企画だ。

企画に際しては、選択的夫婦別姓や同性婚をめぐる制度改正についてストレートに訴える形だけではなく、多様な家族の形を可視化し、そのありのままの様子を記事として伝えていくことを重要視していたということだ。

“家族における「普通」の枠を広げていきたい。”

この特集には、笹川さんのそんな思いが反映されている。

笹川さんが企画を立ち上げてから数年が経ち、家族の多様な在り方が発信される機会が増えたのを見て、少しずつ世の中の空気の変化を感じ、嬉しく思っているということだ。

 

「家族観」を広げる試み

講師のお二人の自己紹介の後に伺ったのは、これまでお二人が携わってきた旧来の「家族観」を広げる試みについてである。

海猫沢さんは、ご自身の著書『キッズファイヤー・ドットコム』を挙げ、この著書を書こうと思ったきっかけと世の中からの反響を語ってくれた。

『キッズファイヤー・ドットコム』は、ホストが家の前にいた赤ちゃんを拾い、その子を育てる物語だ。海猫沢さん曰く、子どもを拾うという展開のフィクションでは、物語の主人公はまず母親を探すことが多い。海猫沢さんはその行動が「子どもは母親が育てる」という先入観が表れたものだと考え、そういう先入観がない人間を主人公として設定した。

「クラウドファンディングで子育てをする」という物語の展開に対して、世の中からは様々な反響があったという。その中でも印象的だったのは、現実で同じようなことをする人が出てきて炎上した出来事だ。

“家族に対しての保守的なイメージが表れてますよね。
自分の責任を以て育てなければならない、分散して育てるというのがイメージできない。“

と、小説を模した出来事が実社会で炎上したことに対し、海猫沢さんはそんな風に捉えている。

 

続いて、笹川さんによる「家族観」を広げる試みについて伺った。

笹川さんは現在、渋谷から始まり、現在は京都など3つの拠点を持つ「拡張家族」というコンセプトで活動する「Cift」のメンバーである。血縁や地縁によらず、意識の上で他者と「家族」として繋がるという「Cift」とは、一体どんな試みなのだろうか。

“フリーランス時代の共助の形として、「Cift」を捉えています。”

「Cift」では、年齢・性別・職業などがバラバラな100人ほどのクリエイターが「家族」という名のもとに繋がっている。初めて会った“他人”である人に、家族として接していくとどうなるかという壮大な実験だ。

笹川さんは前述の取材を通して多様な「家族」の形を知ることになったが、当時の自分は核家族での子育てと仕事に追われクタクタな状態。そんな状況に対して、自分の「家族」の枠も少し広げてみようと思い「Cift」への参加を決意したのだという。

笹川さんの「Cift」の活用方法は、日中のワークスペースとして、4人で一室をシェアするという形だ。「Cift」全体が家族ではあるのだが、一緒に暮らしているシェアメイトは他の人より沢山の時間を共有しているため、より関係性が深まっていく経験をしている。

また、子どもを持つ親同士で靴や服のシェアが始まったり、自分だけでなく自分の子どもも「Cift」のメンバーと友達になっていき、笹川さんが同伴しなくても子どもとメンバーが遊ぶようになったりするのを見て、自分以外に子どもを見てくれている大人が沢山いることを実感しているそうだ。

「Cift」への参加は、笹川さんの家族観にどのような変化をもたらしたのだろうか。

“家族と友達の真ん中のような、『家族のような存在』が増えた感じです。家族のレイヤーが増えた。”

「Cift」での生活を通して、自分の生まれ育った家族を基にした家族観から解放され、より広いイメージで家族を捉えるようになった。そんな笹川さんは、「Cift」について「安心・安全な場所が家以外にもある、という感覚」と表現する。そんな感覚を持てる場所があることは、とても豊かなことではないだろうか。


(講師の笹川かおりさん)

 

「家族」を開き、緩やかなつながりをつくる

講師のお二人からこれまでの試みについてお話を頂いた後は、グループに分かれて講師の方も含めて簡単なワークをおこなった。自分にとっての「家族の形」とはどのようなものか、年齢・性別・抱えている事情が異なる参加者たちが、旧来的な家族のあり方への疑問について話したり、自分自身が置かれている状況についての課題をシェアしてくれた人の話に耳を傾けたりもした。

また、話は自分自身のことだけではなく、家族のことで大変な状況の他者について想像し、「自分に何ができるのか、どうやって手伝ったらいいのか」と素朴な疑問をぶつける場面も。自分が当事者と異なる立場であるからこそ余裕をもって手伝えることがあり、一方で、異なる立場だからこそどう手伝っていいのか肌感を以て理解できず、手を差し伸べにくい場合もあるといった状況が、参加者でのディスカッションを通して浮かび上がってきたのが印象的であった。

 

講義の最後に、講師のお二人からはこんな言葉あった。

“家族は年を重ねるほど、親の介護だったり、色々あるけれども、緩やかにつながっている他人が増えると、困ったときに相談しやすいなと思いました。子どもにとっても、自分の親だけではない相談相手、斜めのつながりが増えることが、豊かさにつながるのではないでしょうか。”(笹川さん)

 “家族の話は、友達と余りできない。でも、もっと気軽に家族の話をしてもいいのかもしれません。”(海猫沢さん)

 

制度上の家族が実態に追い付いていなかったり、何かあった時にはその家族の枠内で何とかしなければと頑張ってしまったりする現状に対して、各々が無意識に持っている家族の定義を信頼できる他者と共有し、少しずつ開いていく。そんな繋がりを増やしていくことが、いつか家族の問題と向き合う日が来た時に、一人で抱え込まずに進む糸口になるのかもしれない。

<授業概要>

「今こそ考えたい家族のカタチ」
https://www.shibuya-univ.net/classes/detail/1535/

主催:特定非営利活動法人シブヤ大学
開催日:2020年12月5日(土)14時~16時
講師:海猫沢 めろん 氏(文筆業)、笹川 かおり 氏(編集者・ライター)
参加方法:オンライン

取材・文: 鈴木陽子
Reporting and Statement: yokosuzuki

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