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Dec.

2024

interview
6 Dec. 2020

離れていても、側にいる。~革新的な遠隔VR技術が近づける距離と心~

大塚深冬
プランナー
大塚深冬

コロナ禍で問われる
対面と接触

新型コロナウィルスの感染拡大により、人と人が「対面にいること」と「接触すること」が難しくなってきています。

コロナ禍、ニューノーマルで求められる非対面と非接触は、様々な職場空間や生活習慣に影響を与えていますが、セラピーもその一つです。

特に、言葉による動作指示や身体的な接触が必要なセラピーにおいては、物理的に同じ空間にいることが非常に重要です。

そんなセラピーの現場で活用できる革新的な技術として開発中の、離れた場所にいる二人が“同じ空間”の中でコミュニケーションがとれる技術を紹介します。

ダイバーシティ&インクルージョンの視点からテクノロジーの開発や活用に焦点をあてるココカラーのTechnology Meets Diversity特集(以下:TMD)では今後、開発者へのインタビュー記事と、より詳細な解説記事も配信予定ですので、この記事では、技術の概要と背景についてお伝えします。

 

“仮想”空間の
中に
入りこむ

「離れた場所にいる二人が“同じ空間”の中でコミュニケーションがとれる技術」とは、ISID社とKIDS社らが共同で開発する「全身トラッキング型VR遠隔セラピーシステム」です。

一言でいうなら、自分と誰かの体の動きを(ひとつの)VR空間に再現する技術と例えられるでしょうか。

VRとは「Virtual Reality」の略称で、日本語では「仮想空間」と呼ばれる、インターネット上に構築された三次元空間のことです。読者の中には、試したことのある方もいらっしゃるかもしれませんが、VRは通常、VR専用のゴーグルをかけることで、本来目の前の実空間ではない別の空間(=仮想空間)の映像を「見る」ことができるのです。

しかし今回開発されているのは、仮想空間の映像を単に「見る」のではなく、その仮想空間の中に「自分ともう一人の人が入る」ことができる技術なのです。

離れた場所(a)と(b)にいる二人が、
このVR技術では同じ空間(c)にいるように見えます。

 

この概念や感覚を伝えることは非常に難しいため、具体的な説明や描写は今後の記事でも改めてお届けいたしますが、この技術の何が画期的なのか。それは、患者さんとセラピストが例えば東北と九州に離れていても、同じVR空間に入り、その中でセラピーが行えるようになる点です。「物理的な距離をなくしてしまう技術」と言っても良いかもしれません。

 

遠く離れた空間
“見えない”痛み

このシステムは、ISID社のイノラボと幻肢痛という疼痛のセラピーをVRで行う株式会社KIDSが連携して開発されているシステムです。

「急速に進化するテクノロジーに対し、わたしたちの生活を幸せにするためにいかに受け入れらえる形にするか考えプロトタイピングする」というコンセプトの下に、先端技術を駆使して社会課題の解決に取り組むイノラボ、そこで空間テクノロジストとして活躍される岡田さんが幻肢痛のVRシステムでセラピーを行うKIDS社の猪俣さんと出会ったことがきっかけでした。

幻肢痛とは、切断した手腕や足に今まで通りの手足の存在(=幻肢)を感じ、その幻肢が痛むという症状で、事故や病気などで四肢を切断もしくは神経を損傷した患者さんに現れるものですが、幻肢痛にはいまだ決定的な治療法は確立されていないのです。猪俣さんは幻肢痛に苦しむ当事者でもあるのですが、VRを活用した治療法の開発者でもあります。

そんな岡田さんと猪俣さんが2019年に出会い、それぞれの経験と知恵を掛け合わせて作られたのが、「全身トラッキング型VR遠隔セラピーシステム」なのです。

※全身トラッキング型VR遠隔セラピーシステムの仕組み

 

拡大する
市場、需要、可能性

日本国内では、経済産業省がに開発者向けのVR等の活用ガイドラインを公開※1し、VRのビジネス活用のポイントや事例を紹介しています。世界規模では、ヘルスケア領域におけるVRの市場規模は、2017年の$8億ドルから2025年には$65億ドルまで拡大すると言われています※2。VRを活用した技術やソリューションの開発は、これからも生まれ続けていくでしょう。

そして、新型感染症とニューノーマルにおける「非対面、非接触型のコミュニケーション」の価値が急速に高まるなかで、全身トラッキング型VR遠隔セラピーシステムは、重要性を増してきていると考えます。

 

距離も言葉も
超えていく

セラピーなどの医療領域での活用はその一事例に過ぎませんが、VR空間を使うことで全国の患者やセラピストに参加してもらえます。孤独になりがちなセラピーの孤独感を和らげることも期待できます。動作指示の専門用語の多いセラピーの場合も、言語だけでは伝わりにくいことを体の動きを使って簡単な指示語だけで伝えることができるなど、様々な課題が解決できます。

そして、同じ空間の中に入ってしまえば、ある意味、言語が違う相手に対しても、体の動きだけでコミュニケーションを図ることができます。

国境や国語という概念も飛び越えて人と人とがつながれるということは、音声電話やテレビ電話という従来の技術では実現できなかったことです。この技術によって、人々がより多様に、より自由に、コミュニケーションをとることができるようになります。

 

離れていても
側にいる

遠く離れた場所にいる相手に、細かな情報や技術を伝達できる全身トラッキング型VR遠隔セラピーシステム。現在はまだ開発段階であるのですが、今年の夏に、大阪東京間で遠隔実験を成功しました。今後、更なる改良を加え、より精度の高いレベルでの実用を目指しています。

TMDでは今後もこの取り組みに注目していきます。次回は、岡田さんと猪俣さん、お二人それぞれへのインタビュー記事をお届けします。

 

取材・文: 大塚深冬
Reporting and Statement: mifuyu

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