「聞こえない」映画監督 最新作「スタートライン」に見る「コミュニケーション」の風景とは?
- 共同執筆
- ココカラー編集部
「耳、聞こえません コミュニケーション、苦手です」
名古屋出身の映画監督・今村彩子さんの最新映画「スタートライン」の全国公開が始まりました。テーマは「コミュニケーション」。沖縄から北海道まで、57日間をかけて3,824kmを自転車で走り抜いた、日本縦断ロードムービーです。
生まれつき耳の聞こえない今村監督は、「架け橋 きこえなかった311」「珈琲とエンピツ」など、これまで「聴覚障害」をテーマにした作品を数多く手がけてきました。映画監督として活動を始めて16年。母と祖父をなくした落ち込みの中で、もう一度立ち上がろうと挑戦したのがこの作品です。
華奢だけど、タフ。そんなイメージの今村監督が美しい風景の中に佇む写真と「スタートライン」というタイトルに、思わず爽やかな青春ストーリーを期待する気持ちが沸くかもしれません。しかし!その予想はきっと小気味好く裏切られます。
“でこぼこ”道を、ともに進む
旅に先立ち、今村監督は自らにルールを設定します。それは「自転車がパンクしたら自力で解決する」「道に迷っても教えてもらわない」「伴走者は旅で出会った人との会話を通訳しない」ということ。できる限り、自分の力で走りぬきたい—-。そして、そんな監督を伴走者として、そしてカメラ撮影者として「あまりやさしくなく」支えるのが、自転車ショップ店員の「哲さん」です。
(自らにルールを課し、旅に挑む (C)Stuidio AYA)
2015年夏、沖縄からスタートした旅。けれども、初っ端から順調にことは進みません。予定していた船に乗れず、哲さんとの約束を破ってこっぴどく叱られ、耳が聞こえないことを伝えることができず、相手の話していることが理解できない。なんとかコミュニケーションをはかろうとするも、健聴者だけで盛り上がっていく会話にいつの間にか取り残されて、深く落ち込み、怒りを哲さんにぶつけることも……。
しかし、そんな時にも、哲さんは厳しい一言で鋭く斬り捨てます。いわく、「コミュニケーションを、あなた自身が切っている!」
(2ヶ月も仕事を休み、旅を共にした、伴走者の「哲さん」 (C)Stuidio AYA)
「コミュニケーションをテーマにした映画なのに…」。ゴールに近くにつれ、監督のこころには、焦りのような気持ちが湧いてきます。「何もつかめていないのに、このまま旅が終わってしまっていいのだろうか」。「コミュニケーションってなんだろう」。
監督の姿、そして心の声に、観ている側は、いつの間にか自分自身の心がを重ねていく…。この映画は、そんな体験と共に、何故だか不思議と勇気を与えてくれます。
(ゴール直前、同じく耳が聞こえず日本縦断をしていたオーストラリア人、ウィルとの奇跡的な出会いがあった (C)Stuidio AYA )
「500回も叱られ、褒められたのはたった2回」という57日間の旅路。その果てに、監督が辿り着いた風景とは…?
「スタートライン」は、9月3日から新宿のK’s cinema、9月17日から名古屋シネマスコーレ、その他全国で順次開催されます。自主上映も募集中とのことなので、是非アクセスしてみてください。
(手作りの旗を掲げて縦断した26都道府県。旅の結末は… (C)Stuidio AYA )
参考情報:
「スタートライン」公式ホームページ
今村彩子監督:
名古屋市出身。Studio AYA代表。大学在籍中に渡米し、映画制作を学ぶ。「架け橋 きこえなかった311」(2013)はドイツの日本映画専門映画祭でニッポンビジョン部門 観客賞を受賞。「珈琲とエンピツ」(2011)のCMは第48回ギャラクシー賞CM部門に入賞する。 (今村彩子監督:都内の試写会にて)
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