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26

Oct.

2020

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26 Feb. 2020

『超短時間』で、全ての人が「働く幸せ」を感じられる世の中に

越境ワーカーチームが登壇するシンポジウム「ディーセント・ワークを実現するこれからの地域システムのあり方とは〜産学官連携による「働き方発明」の取り組み〜」(2020/01/31開催)にて発表された、超短時間雇用を実装した企業・自治体の事例や、企業連携による新しい働き方について紹介する。

現在の日本社会で労働者は「健康で若い成人の男性」が多数派として想定されているため、これに当てはまらない人(例えば障害者や子育て・介護中の人など)にとって働きづらい環境にある。超短時間雇用モデル活用によって目指すのは、多様性のある働き方が支えられ、一人ひとりの人生がシステムで縦割りされることなく、働きがいのある人間らしい仕事=ディーセント・ワークが創出されること。

主催である東京大学先端科学技術研究センター准教授の近藤武夫先生を中心に、実際に超短時間雇用を実践する企業や行政、中間支援事務所の事例を通じて、ディーセント・ワークとは何なのかが問われるシンポジウムとなった。

 

■行政の事例:人手不足の解消

(神戸市:福原さん、吉岡さん・川崎市:平井さん)

行政が超短時間雇用に期待するポイントは、精神障害者が年7%以上のペースで増加し続ける中で、彼らの働く場の創出と、中小企業の人手不足の解決を1つのスキームとして提案することにより、地域の活力の維持・向上につなげること。

従来の週20時間以上勤務を前提としないことで、規定未満の短時間就労やICTを活用した在宅就労など、多様な働き方が創出され、障害者就労を拡大することができると考えられている。神戸市・川崎市においては、すでに様々な業種で受け入れが進められ、障害者に限らず、生活困窮者も含めて、これまで働きたくても働けなかった人に門戸が広がっている。

「超短時間雇用は、ソーシャルワークの基本であるアセスメントを進める中で提示できる選択肢の一つであり、就労支援機関と密に連携し、どんな人にはどんな仕事があうかのイメージをしっかり持ちながら、現状の制度とのすり合わせ/調整を行う必要がある。行政だけでなく、複数のセクターが課題や理念を共有し、つながり協力しあって取り組むべき」と神戸市保健福祉局の福原さんは語る。

この発表の中で印象的だったのは、「行政は特に制度の縦割りが課題とされるが、縦割りによる役割分担はパフォーマンスの安定につながり、公平性を担保する上でも一定の機能がある」と話されたこと。超短時間雇用の導入は、このような縦割りの良い部分を保ちながら、行政・企業・大学・地域などがそれぞれ少しずつこれまでの領域をはみ出し協力しあう体制づくりにも一役買っているようだった。

 

■中間支援事業所の事例:業務切り分けによる本業への専念

(社会福祉法人すいせい:岸田さん、堀さん)

「生きづらい、働きづらいを解決する社会福祉法人」として事業を展開する(福)すいせいは、2017年より神戸市から委託を受け、超短時間雇用の受け入れ先開拓と就労希望者のマッチングを行っており、約50件の実績を持つ。

上記のような就労継続⽀援B型事業所との事例のほか、同様な仕組みを活用し、大学と連携して、障害の状況により長時間就労が困難な学生へ、在学中からの超時短雇用を導入する取組について紹介された。

すいせいのような中間支援事業所を通じた超短時間雇用人材のマッチングは、受け入れる企業側にもメリットのある仕組みになっていると感じる。なぜなら、超短時間雇用の受け入れ先を開拓する際にすいせいが探しているのは「障害者ができる仕事」ではなく、「企業の課題」だからだ。

すいせいは受け入れ先候補企業から業務内容を詳しく聞かせてもらうことで、本来その企業が専念して取り組むべき仕事と、障害者に限らず外部に委託可能な仕事を切り分ける。その一方で、就労を希望する利用者一人ひとりと向き合い、本人の「得意」で「できること」を見つけ、マッチングする。経営と人材、両方のコンサルタントのような役割をも担っているといえるのではないだろうか。

 

■就労体験という機会創出の在り方

(ピープルデザイン研究所:須藤さん)

障害者は日本の全人口の7.6%(2018年内閣府障害者白書)を占めるが、雇用の現場に障害者はそんなにいないのが現状。
ピープルデザイン研究所の須藤氏は、障害のある子どもを持つ父親として、障害者が働ける場を創出すべく活動されており、「就労体験」という枠組みで川崎フロンターレのホームゲーム等でのスタッフにおける障害者の割合を、実際の人口構成比と同程度した取組の実績を持つ。

これを契機に、障害者に限らず生活困窮者・ニート・ひきこもり等、様々な理由で働くことが難しい方に、スポーツや音楽などエンターテイメント領域を中心とする現場での就労体験を拡大しており、これが社会参画のきっかけとなり、その後の正規就労につながった事例も生まれた。

須藤氏は今後、「関わる全ての人に当事者意識を持ってもらい、同情に訴えるのではなく経済的な面からも賛同いただくこと」を目標として超短時間雇用にも取り組んでいきたいという。

 

■企業の事例:ショートタイムワーク制度

(ソフトバンク株式会社:横溝さん、梅原さん)

ソフトバンク株式会社では、2016年より継続してショートタイムワーク制度を導入されており、当初社内28部署だった取組先数は現在、社内53部署・社外アライアンス140法人にまで拡大。今後より一層地域や業界の垣根を超えてこの制度を広め、誰もが働きやすい環境づくりを目指して、情報発信・アライアンス内交流を行いたいという。また、今までのノウハウを活かして、女性活躍推進を目的とした「ショートタイムテレワーク」の実証実験を横浜市と協働で行うなどしており、障がいの有無に関わらず、今後も超短時間でも働ける仕組みづくりと推進を行っていきたいと考えている。

 

最後に登壇者全員と、ファシリテーターとしてcococolor編集部の林による、未来の働き方についてのディスカッションが行われた。


■「超短時間雇用」で目指す「ディーセント・ワーク」

本シンポジウムのタイトルにも掲げた「ディーセント・ワーク」という言葉。SDGsの8番でも「Decent work and economic growth」として登場し、これは「働きがいも経済成長も」と訳されている。

ただし「ディーセント・ワーク」の考え方は国によって幅がある。例えば、労働環境や労働法などの仕組みが十分でない地域では、労働の形をとった搾取を課題とし、労働者保護とフェアな収入による生活保障を主眼とする。一方、日本で労働で得られる収入のみによって生活保障ができることに重きを置くと、労働者には一定の長時間働くことが前提として求められることになる。そうなると、一部の長い時間働けない人々が、メインストリームで働く機会から逆にはじき出されてしまう現象も起こる。この課題に対して超短時間雇用モデルは、様々な人が自分の持てる力を生かし、一般企業で共に働くための新しい仕組みとなることを目指している。

 

■「働く幸せをシェアする」社会に向けて

超短時間雇用モデル実践からの学びは、障害者に限らず、企業のイノベーションの前提にある社員それぞれが「ディーセント・ワーク」をできているか見直す上でも参考にできるだろう。

LifeWorkSProjectという、汐留に本社機能を持つ10社による共同取組も、ディーセント・ワークを考えるプロジェクトの一つ。参加企業の社員同士が、所属する組織や業務内容などの枠を飛び越えて、お互いに知見やアイデアを共有できるつながりを構築することで、新しい仕事のカタチをデザインすることを目的とする。

いずれも重要なのは、「働く幸せをシェアする」という視点。働くことは自己実現にもつながる活動であり、一人ひとりの「働く」を「幸せ」にするために、自分にとって働く幸せを感じる点がどこかを明らかにし、幸せを感じない点については、それを幸せに感じる別の人にシェアする。それは、やりたくないことを誰かにやらせるのではなく、その仕事をやりたい人にお願いするということ。

超短時間雇用の仕組みによって、多様な「働く幸せの在り方」が掛け合わさった「幸せあわせ」の事例がより増えていくことが、すべての人が働く幸せを感じられる世の中の実現の一歩につながるのではないだろうか。

 

(シンポジウム登壇者一覧)

・近藤武夫准教授 東京大学先端科学技術研究センター
・福原宣人さん/吉岡真理さん 神戸市保健福祉局
・平井恭順さん 川崎市健康福祉局障害者雇用・就労推進課
・岸田耕二さん/堀知子さん 社会福祉法人すいせい
・須藤シンジさん ピープルデザイン研究所
・梅原みどりさん/横溝知美さん ソフトバンク株式会社
               ―ショートタイムワークアライアンス
・林孝裕 株式会社電通


(シンポジウム情報)

https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/events/page_01130.html

共同取材・執筆:飯沼瑶子、 細川萌

取材・文: 細川萌
Reporting and Statement: moehosokawa

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