がん当事者もワクワクを体験しに行きたい!WCW 2022セッション16「CancerXモビリティ」レポート
- ソリューション・プランナー / プロデューサー
- 佐多直厚
全7日間の様々なテーマでとらえたがんと関わりながら、生きていくための多彩なセッション。6日目にもたれたモビリティテーマに興味をそそられました。
医療に一見関係ない生活行動が様々に機能しています。
例えば笑い。笑うことで免疫機能に働きかけることができるという研究報告があります。
参考:がん患者の免疫機能や生活の質等に「笑い」の機会が与える影響の検証(大阪国際がんセンター引用許可)
もっと具体的な活動として絵画、音楽、ダンスなどアートを観ること、制作すること。そのためにはモビリティ=動く手段が生きがいをつむぐために欠かせないものです。
DE&Iにおけるアートを研究テーマにしている立場からこのセッションをレポートします。
セッションメンバー4名の方は絶妙な組み合わせでした。モデレーターの長縄さんは歯科医師として遠隔医療、従事者のオンライン教育そして在宅医療というモビリティ対応に取り組みながら、現代アート制作を通してコミュニケーションが生まれ、行動変容が促される掛け算のチャレンジを進めています。
集めたゲストは、まず田中さん。ポーラ美術館の広報ご担当です。箱根仙石原の森の樹々に囲まれた自然と共鳴するポーラ美術館は広く海外にも知られています。それだけにアクセスが難しいこともありますが、訪問できない鑑賞者に対して開かれた鑑賞体験創出に取り組んでいます。
2人目は桜林さん。若年層のがん当事者グループAYA GENERATION + group【アグタス】の代表。体の状態を超えてつながれるオンラインが人・モノ・コトに出会えるモビリティだと考えています。
そして池谷さん。デジタルハリウッド株式会社大学事業部執行役員。デジタルで切り開く未来創造を産み出す教育事業会社であり、その中でも社会人向け専門職大学院の志向する総合的な探求テーマの一つがアート。長縄さんの創作支援でのつながりから登壇。
モビリティの基本的課題って?
がん当事者の桜林さんは公共交通機関利用時等にヘルプマークを出しています。しかしその認知度がまだ足りないですし、見た目で分からないため優先してもらえないのが悩みです。
この話題でcococolorが考えるのは、見た目で分からない疾患を抱える人に共通の悩みですし、目の前の席に座っている人は健康そうに見えるけれど、辛いのかもしれません。それは心、ストレス、激務に折れそうなのかもしれませんから、それこそ見た目で判断できないですね。本当は全席優先席というか、譲り合いシートでありたいものです。桜林さんはそういう中でできることを3つ提示しました。自分のことは自分で守る。辛さや助けてほしいことを表現する。そしてヘルプマークを周知すること。つい遠慮したりしがちですが、自分のことを知ってもらうことは、みんなの公共心のためですね。
そこに行きたい。そこで過ごしたい。
移動が気持ちよくできるなら、行きたいところへ行きたい。桜林さんは旅行が好き。コロナ禍もあってままならない今ですが、和歌山県のアドベンチャーワールドに行きたい。そこには7頭のパンダが伸び伸びと暮らしています。そこで過ごしたい。よくわかります。
アートと共に過ごすといえば、美術館です。田中さんのポーラ美術館は箱根仙石原の森の中に樹々より低く、傾斜地にはめ込まれたように見えます。森もアートとコラボしているような素晴らしい癒しの時空間ギャラリーです。
しかしアクセスにはちょっと苦労します。マイカーなら気持ちよいドライブが楽しめますが、公共交通機関をいくつも乗り継ぎます。コロナ禍もあり、来訪しなくてももっと楽しめるにはと、かしこまらない美術館を念頭に考えたそうです。昨年多くの人が癒された「あつまれ どうぶつの森」。ポーラ美術館がコンテンツに登場し、称賛を浴びました。この成功からDXでアクセスの悪さを乗り越えて観覧者のパーソナルスペースに引き込んでもらうオンライン施策にチャレンジ。
でもこれでは足りない、そう感じたそうです。これではリアルな来館体験にはまだ遠いと。ここで登場するのがcococolorでも関係の深い分身ロボットOriHimeです。バーチャル体験に踏み込むことで見える新しいモバイルがありました。cococolor関連記事はこちら
実際にそこにいる実感へ。
ここで池谷さんがOriHimeを使ったアクションを紹介。開発しているオリィ研究所所長吉藤オリィさんはデジタルハリウッド大学の特任教授であり、授業を超えたプロジェクトを行っているのです。杉山学長が昨年ALSを発症し、リリースを発表。現在はOriHimeを使ってのアバター授業、学内外交流を図っています。
杉山学長の健康状態についてリリース記事 病を得てもチャレンジしている「元気さ」が頼もしいです。
登壇者全員が賛同するのが「実際にそこにいてくれる実感」です。リモートでは足りなかったリアクション・双方向性そして興味関心に対して動く、その扉が開いています。
分身といえばアバター。新しい自分らしさで交流する。
コロナ禍対応を迫られた教育の現場。デジタルハリウッドはデジタルリテラシーに長けた組織であるためスムーズに展開し、実験しながら挑戦することができたようです。オンライン授業において高い学習効果がありました。しかし相手とともに自分も見えることで、フィードバックも欲しいけれど、求められすぎるとつらくなる。学校をやめたくなったと相談もあったそうです。
「学校に行って授業に出るのはいいが、リモート授業に顔出しするのは嫌なんです」
これは出かけるなら見せる自分を作ってその場へ入っていく社会的存在に変身している。しかしリモートの場合はプライベートの無防備な自分に踏み込まれてしまうストレス。見る立場としても見られる立場としても辛いと。そこでチャレンジしたのが講師・受講者全員のアバター出席授業。
アバターによって人格・パフォーマンスが変わり、授業への満足度だけでなく話し方などクオリティも変化。違うアバターでIQテストを受けると結果まで変わったという興味深い効果が報告されました。
やはりそうだワクワクを感じるためのモビリティが欲しい。
このセッションの最後に桜林さんは言いました。
「五感が欲しいです。例えば離れていても一緒に味わえる食事。その場の香りをかぐ。」
自走できる大型OriHimeDであればさらなる体感が持てますし、VRのヘッドマウントディスプレーを使っていると頬に風を感じる気分にさえなるように、五感対応もこれから5G、4K/8K技術の普及とともに進んでいくことでしょう。
そして加えたいことがあります。モビリティでワクワクするならやっぱりリアルな行動です。ポーラ美術館ツアーパッケージはすでにクラブツーリズムなどで販売実施されています。これを体力に自信のない人、ケアが欲しい人向けにブラッシュアップする検討を進めれば、がん患者だけでなく辛い思いを抱える人々にもワクワクを提供できるはずです。
こう考えるだけでもワクワクしてきますね!
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