日本の未来を元気にする”ジェロントロジー”って?
- 共同執筆
- ココカラー編集部
世界一の長寿国と言われる日本。しかし「年を重ねる」ことに対しては、まだまだ悲観的なイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。「良い年の重ね方(=アクティブ・エイジング)」を考える上で、近年注目を集めているのが「ジェロントロジー(gerontology)」です。
<「老い」を前提にポジティブに人生をデザインする>
2015年現在、日本は人口の4分の1以上が65歳以上という、超高齢社会を迎えています。国立社会保障・人口問題研究所の発表資料によると、現在65歳を迎える人たちが生まれた1960年代にはピラミッド型を示していた人口ピラミッド(図左)も、2050年にはすっかり形を変え(図右)、社会は今、超長寿・高齢社会へと向かっています。高齢者に触れる機会が益々増えていく中、「老い」を前向きに捉え、社会をデザインしていくことが益々重要となりますが、その視座を与えるものとしてジェロントロジーが提唱されているのです
(国立社会保障・人口問題研究所の発表資料より)
ジェロントロジー(gerontology)という言葉は、ギリシア語のジェロン(老人)に由来し、今から100年以上前に、ロシア人医師イリヤ・メチニコフにより初めて提唱されました。年を取るにつれて体験する苦しみや痛みを防ぐためには、「老化」を理解することが必要だとの考えから、医学分野を中心に始まったこの研究は、その後、時代の要請を受け、より幅広い俯瞰的な見地から、高齢化とそれに起因する問題全般の解決を目指す学際的学問として欧米を中心に発展していきました。日本では「老年学」「加齢学」などと訳され、健康や福祉、社会参加やメンタルケアなど、幅広い問題を扱う学問として、学術機関や産業界の間でも研究が進められています。
<総合的な視点から「老い」へのアプローチを>
「老化」は、身体の成長と発達が完了した20代頃から始まると言われています。従って、ジェロントロジーの研究対象は、高齢者に限定されません。生涯を通じて起こる老いのプロセスを知り、生活の質(QOL:クオリティオブライフ)を高める視点を持つことは、どの世代の人にもニーズの高いことです。このような観点から、電通ダイバーシティ・ラボと電通若者研究所の主催で、ジェロントロジーに関するセミナーが電通ホールで開催されました。
(対話セッションでは「生きること」をどう捉えるか、将来に不安を抱く若者へのメッセージなど、世代をまたぐトークが繰り広げられた)
セミナーでは、学校法人山野学苑総長/一般財団法人グローバル・ジェロントロジー・センターの山野正義理事長をゲストに、美容業界を中心とした日本でのジェロントロジーの実践事例が紹介されました。マニュキュアを塗っておしゃれを意識するようになったら、おむつが取れた女性。散髪し、髭を剃ってスーツ姿に着替えたら、働いていた時代のことを思い出し、表情の豊かさが戻った男性。山野氏は、長年に渡る美容現場での経験から、美容が福祉に与えるポジティブな影響を実感し、日本で初めて「美容福祉」の概念を提唱しました。そして、「ジェロントロジー」の概念に強く共感し、ジェロントロジー研究の最先端、南カリフォルニア大学(USC)と提携して、ジェロントロジーを修得するオンラインの教育プログラムを展開しています。
<「老後」ではなく、生きてから死ぬまでの「if」を考える>
「仕事第一」の企業戦士型思考の人が多い日本社会では、定年退職後の人生を「老後」と呼び、「引退試合」のように捉える人が多いと言われています。このように「老い」を狭義に捉えるのではなく、もっと長期的なスパンで人生を捉え直すことで、前向きな老いのプロセスを楽しんでいけるはず。だからこそ、ジェロントロジーは「若い人にこそ知って欲しい学問」とも言えると、山野氏は語ります。
(「考え方が全然違う若い世代の人たちと一緒に過ごすことが好き」女優・中村玉緒さん。「G(元気で)N(ニコニコ)P(ぽっくり)のGNPを目標に生きたい」山野正義総長)
“「Life」(人生)という言葉には、生まれるL(Live)から、死ぬE(End)までの間にifという言葉があります。「もしも」「もしかしたら」の連続の人生の中で、人はさまざまな選択を繰り返して生きています。その一つひとつの決断に、意識を前向きに向けることで、人生の質が変わってくるのです”。
だからこそ、多角的に「老い」を捉える眼差しを持つことが、大切なのだと言えるでしょう。ジェロントロジーの視点で社会を、そして人生をデザインすることは、より多様でクリエイティブな生き方を受け入れる社会の創造へとつながっていきそうです。
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