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28 Feb. 2019

ひとりの悩みを、みんなの喜びに。社会を1つにするインクルーシブなものづくり(前編)

皆さんは、”Inclusive (インクルーシブ) ”という言葉をご存じですか?
Inclusiveとは「全てを含んだ」「包括的な」という意味の単語で、最近ではインクルーシブデザインやインクルーシブ教育などといった言葉で耳にする機会も少しずつ増えてきているかと思います。
インクルーシブデザインとは、特定の誰かの悩みを解決することを起点にしながら、結果的にみんなのためになる製品・サービスを開発するものづくりの発想です。この考え方は古くから存在しており、例えばカーディガンやウォシュレットなど、皆さんが今当たり前に使っている製品の中にも、インクルーシブデザインの発想から生まれたものが既にあります。
電通と日本テレビ、JAPANGIVINGの有志で結成した「Social WEnnovators」では、このインクルーシブデザインの発想に基づいて社会課題を解決する「041(オーフォアワン)」プロジェクトを立ち上げ、様々な企業・団体と様々な領域で社会課題の解決に取り組んでいます。
その中で株式会社ユナイテッドアローズとともに、「041FASHION」というプロジェクトをスタートし、2018年4月からひとりを起点にすべての人に心地いい服を展開する「UNITED CREATIONS 041 with UNITED ARROWS LTD.」というレーベルを立ち上げました。

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「UNITED CREATIONS 041 with UNITED ARROWS LTD.」は、”ひとりを起点に、すべての人に心地いい服をつくる”ことを目標にしたファッションレーベルで、商品開発の段階から一般社団法人障害攻略課とコラボレーションし、怪我や病気による身体の不自由から服のことで悩みを抱える「1」の方々に参画してもらい、一緒に服づくりに取り組んでいます。
服についてどんな悩みを抱えているか、ユナイテッドアローズの商品デザインチームの方々を交えて詳しくヒアリングし、その課題を解決できる商品サンプルをつくる。そして実際に日常生活の中で着用いただきフィードバックをもらいながら改良を重ね、「1」の方の悩みを解決しながら、障害がある人もそうでない人も、みんながオシャレを自由に楽しめる服を新たに開発しました。
先日、実際に「1」として第一弾の商品開発に参画いただいた上原大祐さん、加藤さくらさん・真心さん母娘、関根彩香さんにインタビューさせていただき、今までどんな服の悩みを抱えていたか、商品が誕生して実際に起きた心境の変化についてお聞きしました。

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(左から、上原大祐さんと加藤真心さん、さくらさん)

インタビューの中で、日本のものづくりについて強い気づきを与えてくれる発言がありました。

 1つは、「着る側の視点の欠如」です。
上原さんは言います。
「日本の車いすユーザー向けの商品の多くは、当事者が誰かにサポートされる想定で作られていて、当事者目線で作られていないんです。例えば車いす全体を覆うレインコートは、自分で車いすを漕ぐのではなく誰かが押してくれる想定で作られているから、自分で車いすを漕ぐと路面の雨水が跳ね返って濡れてしまいます。また車いすを押してサポートする側の視点も欠けているから、車いすユーザーもサポートする側も濡れてしまうものが多かったんです。」

実際に今回のプロジェクトで上原さんと開発した「後ろが外せる2wayコート」でも、最初のサンプル商品を上原さんにお渡しして雨の日に着用していただいたところ、車いすを自分で漕ぐ腕の動きによって、脇腹の部分が集中的に濡れてしまうことがわかりました。

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後ろが外せる2wayコート

ユナイテッドアローズの商品デザインチームの方も、途中で服作りに対する取り組み方が変わったと言います。

「最初は会社のイスに座って車いすユーザーの方の動きを想定してサンプルを企画していたのですが、途中で車いすを借りて実際に自分で乗って確かめました。普段の服作りとは全く別のアプローチでした。」
お客様の声から生まれた商品は今世の中でも増えています。しかし、お客様の声にただ耳を傾けたという事実にとどまらず、その声の中にある本当の悩みや課題を解決できる商品になるかどうかは、お客様とつくる側が本音で話し合えるかにかかっていると思います。

サンプル商品を通じた意思疎通によって、着る側の本音がつくる側に伝わり、つくる側の熱意が商品に反映されていく。
今回のプロジェクトで起きたデザイナーの方の変化は、まるで友達同士のように、深くそして腹を割って話しあい、1つのチームになれたからこそ生まれたものだと思います。頭で考えることと、実際に体験してみることは違う。まずはスモールスタートでもいいから、考えたことを実際にカタチにしてみることの大切さを教えてくれる実例です。

「(2012年にオリンピックとパラリンピックが開催された)ロンドンではもう10年前から、障害を持つ当事者たちとデザイン段階からチームを組んで行うものづくりが始まっています。日本でも10年遅れでようやく始まったという印象ですね。」(上原さん)
上原さんがおっしゃるように、日本では商品やサービスを利用する当事者と検討段階で直接会話せず、つくり手側の頭の中の想像だけでものづくりが完結しているケースが多いのが現状かと思います。

商品やサービスを利用する人には、障害を持つ人も、そうでない人も存在します。大切なのは「障害を持つ人の意見を聞かねばならない」ということではなく、障害の有無に関わらず、商品を使う側の気持ちや特徴を具体的に理解し、その気持に応えられるかを早い段階から検証していくという発想を持つことだと私は思います。

後編では、別の視点での気づきをご紹介したいと思います。


※「UNITED CREATIONS 041 with UNITED ARROWS LTD.」では2月28日から第二弾の販売がスタートしました。
「1」の方々とともに開発した商品はユナイテッドアローズ公式オンラインストアから購入が可能です。

執筆者 浅井康治

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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