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1 Mar. 2019

「INCLUSIVE HINT!」巻き込まれ型イノベーションをはじめよう

八木まどか
メディアプランナー
八木まどか

自社の施設環境改善がイノベーションの種に?

  2月12日(火)、電通ダイバーシティ・ラボ(DDL)の新プロジェクト「INCLUSIVE HINT!(インクルーシブ・ヒント)」のトークイベントが行われた。ゲストには、ユニバーサルデザインコンサルを行う株式会社19(イチキュー)から代表取締役社長・安藤将大さん、取締役・浅野絵菜さん、メンバーの外谷陽香さん、また、今回社内の点字サインとして活用された新書体「Braille Neue(ブレイル・ノイエ) 」を開発した発明家の高橋鴻介さんを迎えて、プロジェクトプロデュースを行った電通ダイバーシティ・ラボcococolorの林孝裕編集長が進行した。

 電通社内外を含め約70人が参加し、インクルーシブとは何か?これからのイノベーションとは何か?を考える時間となった。

 

 「INCLUSIVE HINT!」とは、ダイバーシティ対応やユニバーサル化など自社の施設環境改善を進めていくプロセスに多様な当事者や自社の社員を積極的に巻き込み、社員が様々な視点に触れていくことを通じて、施設環境をより良いものにしながら人材を育て、そこで得られたものを新たなビジネスの種として積極的に活かして行こうとするプロジェクトだ。

 ①ヒントを生み出す

 ②ヒントに学ぶ

 ③ヒントをアイデアに変える

という3ステップで構成される。つまり、環境改善の取り組みを通じて様々な人びとの視点と触れ(巻き込み型環境改善プロセス)、会社やビジネスをよくするヒントとしてそれぞれが血肉にし(多様な視点からの人材育成)、それを具体的なサービスや事業におけるアイデアとして実現していく(ビジネスアイディエーション)までを1つのロードマップ化したプロジェクトである。

 

 本プロジェクトを立ち上げるにあたって、まずそのプロトタイプ版として、電通本社ビル内の点字サイン環境の改善が、DDLによる総合プロデュースのもと、株式会社19の皆さんの協力を得て行われ、今回のトークイベントでは彼らがどのような思いで関わったかを語ってくれた。

 株式会社19は、代表の安藤さんたちが「視覚障害者の気付きや課題をもっとビジネスや日常生活に活用できるのでは?」と考え、ユニバーサルデザインのコンサルティングを主な業務として設立されており、「インクルーシブ・ナチュラル(=インクルーシブが当たり前)」というビジョンを掲げている。安藤さんと浅野さんは弱視で外谷さんは全盲であり、それぞれ様々な特徴を持っていることをはじめの自己紹介で語った。

安藤さん (2)

株式会社19代表の安藤さん

浅野さん株式会社19の浅野さん

外谷さん株式会社19メンバーの外谷さん

 

 また、今回サイン環境の改善ツールとして採用されたBraille Neueは、指で点字を読む人と目で墨字を読む人のいずれもが、同じ文字を読むことできるようにと開発された新たな書体である。これを発明した高橋さんは、あるとき街で触れる点字には、実は欠落や誤字が多いと知った。また、点字が読める人も読めない人も使える文字があれば、そこからコミュニケーションが生まれるのではないかと気づき、インクルーシブな書体であるBraille Neue(新しい点字)を開発した(注)。今では公共施設や民間企業の社内設備でも採用されている。

注)Braille Neueは既存のJIS規格に適合した点字に対して、目で読む墨字を重ね合わせた書体であり、点字自体を操作するものではありません。

※関連記事:「Braille Neue」発明日記。そのはじまり。

 

高橋高橋さん

Braille Neue

 

見え方の異なる4人の方による徹底リサーチ

 電通社内の環境改善にあたり、まず視覚障害者4人の方に電通本社ビルを歩いてもらった。その一人が外谷さんだったが、駅からに本社ビルに来るまでのルートがわかりづらく迷子になったと言う。そして、施設内でもシャトルエレベーターがどこにあるかが分からない、エレベーターを呼ぶボタンが見つけられない、見つかったボタンが非常ボタンかと勘違いして押せない、など多くの課題点を発見した。

 しかし、課題点と同じくらい良いポイントも見つけてもらった。外谷さんは本社ビルを歩いた感想を「美しかった」と表現した。社内を歩いていて、高い天井のあるおしゃれな雰囲気を感じたりしたと言う。

movie1電通社内を歩いている様子 

movie2エレベーターの呼び出しボタンを探すがこれがそうだと確信が得られない

movie3外谷さんを含め見え方の異なる4人の方によるリサーチ

 19の方々は口をそろえて、「かっこよく改善したかった」と述べた。なぜなら、自分たちへの配慮のために、社員からかっこ悪くなったと言われたくなかったからだ。

 

リサーチから得られたヒントを散りばめて

 こうしたリサーチを経て、第一期として電通本社ビルの10基のシャトルエレベーターおよびエレベーターホールのサイン環境がリデザインされ、「INCLUSIVE HINT!」のキックオフと同時に2月4日にお披露目された。

entranceエントランスにて「INCLUSIVE HINT!」の企画展示

 改善後エレベーター内得られたヒントをもとにエレベーター内に設置された新しいサイン

 EV内HINT得られたヒントをステッカーにしてシェア(エレベーター内)

 カフェHINTインクルーシブ・デザインの知識などもヒントとして各所に設置

ソーサボタンエレベータの操作ボタンであることが認識できるように工夫

 evhallそこに工夫が必要であることを気づかせ考えることを促すヒント

・書体は点字と一体化したBraille Neueを採用

・レストランフロアや非停止階を表示

・反射やグレアを防ぐ色味調整

・ボタンと点字サインの繋がりを分かりやすくするために一体化

・ボタンの下についていた点字を、触れやすいボタン上部に移動

その他、得られた多くの知見を活かしてデザインされた。

 

触れるフロアマップ

 さらに、外谷さん達のリサーチから得られたフロアの特殊な形状を想像することの難しさについての意見をもとに、電通本社のフロアプランを分かりやすく紹介するための「触地図」が用意され、本社で働く全ての社員と本社を訪れるお客様にも配布された。

 

Map共用フロアの概要を伝えるために特殊印刷を用いた「触地図」を作成し配布

 

 「INCLUSIVE HINT!」では今後パッケージ化したビジネスモデルとして社会に還元していく方向だ。「ハード・ソフトファクト⇒人材ファクト⇒ビジネス⇒ファクトベースド戦略PR」という流れを描いている。ポイントとしては、環境改善に社員を巻き込むことで、ファクトを作りながらビジネスをプロトタイピングしていくことだとしている。

 

モデレーターを務めた、cococolor林編集長は「19の方たちとぜひ一緒に仕事をしてみてほしい。それぞれが持っている常識が違うから、自分が思いつかないアイデアと出会える」と述べた。

 会場が終始笑いに包まれ楽しい雰囲気だったのは、特に19の方々がアイデアに出会うチャンスとして場を面白がっていたからだと感じた。
 「インクルーシブ」とは「ユニバーサル」の概念とやや異なり、誰にも利用可能なモノという以上に、様々な突出したものも価値として積極的に巻き込でしまうことでむしろ多くの人にとって価値のあるイノベーティブなモノゴトを生みだしていこう、という考え方でありプロセス論だ。

会社や仕事をよくするヒントを様々な人と一緒に探す中で、他者と自分との差異を楽しく気付く仕組みとして「INCLUSIVE HINT!」を活用できるのではないだろうか。

 

<お問い合わせ> 電通ダイバーシティ・ラボ diversity@dentsu.co.jp

 5人

取材・文: 八木まどか
Reporting and Statement: yagi

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