みんスポ・ソーシャルドリンクス Vol.3 みんなの遊びの未来系を考える。
- 共同執筆
- ココカラー編集部
<超えて、つなげる、スポーツの力>
国境や立場を超え人々の心を結びつける効果があると言われているスポーツ。もし「障がい」も超えて「みんな」が楽しめるスポーツがつくれるとしたら、そこにはどんな可能性が広がっていくのでしょうか。ゲストスピーカーによる「おもしろそう」な実践事例ヒントに、ゆるく飲みながら、みんなのスポーツ(みんスポ)を広げるためのアイデアを語りあう「みんスポ・ソーシャルドリンクス」が、今、注目を集めています。
主催するのは、日本ブラインドサッカー協会の有志メンバーを中心とする「みんスポ・ソーシャルドリンクス実行委員会」の皆さん。「ブラインドサッカー世界選手権のソーシャルインパクト(2014年12月)」、「スポーツを育てることもスポーツだ-マイナースポーツや障がい者スポーツのキャパビル(2015年3月)」と回を重ね3回目となる今回は「みんなの遊びの未来系を考える。“おもちゃ”と”ゆる”で、スポーツはどこまで広がるか」をテーマに、3人のゲストスピーカーを招いて開催されました。
<誰もをつなぐ「おもちゃ」>
一人目のゲストは、公益財団法人共用品推進機構専務理事の星川安之さんです。星川さんは長年おもちゃメーカーでバリアフリー商品開発に携わり「共用品」という考え方と商品の普及を促進してきました(星川さんについては、cococolor「子どもと、おもちゃと、ダイバーシティ その2」で紹介しています)。多くの商品が社会的多数者(例:右利き、”健常者”)を対象に作られるのに対し、共用品は「みんな」が使えるようになることを前提に開発されたものを言います。少数の人向けに開発されたものは割高にならざるを得ず、収益性の観点からも軽視されがちですが”みんな“を前提に置くことで、まったく別の捉え方ができるのです。
(ゲストスピーカーの星川さん(左)、澤田さん(中)、岡さん(右))
例えば、左利きの人も使えるトランプや、戦争で片腕を失った人も使えるようにデザインされたライター、容器に触れただけで中身が選別できるよう立体的なラインが描かれたシャンプーのボトルなど。実は江戸時代にも、あんの種類によって柏餅の葉の包み方を変える(味噌餡は裏、こしあんは表を葉の上になるように包む)というインクルーシブデザインの考え方があったというから驚きです。
こうして生まれた「共用品」を社会に広めるためには、規格を定め標準化することが必要です。そして、大切なのは「商品の企画の段階から『みんなで』一緒に行うこと」。当事者を交えて話し合っていくことで、さまざまな気づきがあり、商品開発のアイデアが広がります。
<「ゆるめる」ことから革新が起きる?!>
二人目のゲストは、コピーライターの澤田智洋さん。「日本バブルサッカー協会」を設立し、日本にバブルサッカーを広め、ブラインドサッカー選手権のキャッチコピー「見えない。そんだけ。」を開発するなど、スポーツの概念を覆すさまざまな提案を続けています。(スポーツができない=モテない)ことから、嫌いな言葉だったスポーツも、バブルサッカーがみんなに愛されるのを見るうちに好きな言葉に変わったという澤田さん。現在は「スポーツ弱者を、世界からなくす」というミッションを掲げ、「世界ゆるスポーツ協会」の設立に向け、日々ゆるスポーツの開発に励んでいるそうです。
(バブルサッカーはさまざまなメディアで取り上げられ、半年で5万人を超える人たちに楽しまれた。澤田さん(左))
例えば、ものすごく滑りやすいソープを手につけてプレイする「ハンドソープボール」。手にソープをつけて泡立ることで、ハンドボールから圧倒的にスピードが奪われ、誰にがスローにゆるく楽しめる、みんなのスポーツに変身します。ボールを取られたりコート外に出したりすると「ソープの追加」というペナルティが加えられるなど、めちゃくちゃなルールが設定されているこのスポーツ。試合終了後にプレーヤーが集まり「誰もが楽しめたか」という観点からミーティングし改善を加えているというのも、とてもユニークなポイントです。この、どうみてもふざけているようにしか見えないハンドソープボール。実はこれがきっかけで、ハンドボールに興味を持つ人口を増やすという裏の目的にもしっかり応えているのだとか。
視覚障がいのある人たちによるサッカーゲーム「ブラインドサッカー」をゆるくし、ゾンビマスクをつけてゾンビを真似てプレイする「ゾンビサッカー」というゆるスポも開発されました。他にも「エレクトリック温泉」「手錠バレー」など、名前を聞いただけでもゆるさの伝わるユニークなスポーツが続々と開発されているそうです。「ゆるくすれば、みんなのものになる」。澤田さんのその言葉に今後次々発表されるというゆるスポへの期待が高まります。
(ゾンビサッカーに呆れる(?!)日本ブラインドサッカー協会の松崎さん)
<2015年ジャパン、これでいいのか>
三人目のゲストは、医療福祉エンターテインメントを掲げるNPO法人Ubdobe(ウブドべ)理事長の岡勇樹さんです。今後、医療福祉分野のニーズはますます高まり、圧倒的に人材が不足することが予想されています。にも関わらず、介護現場の持つ重苦しいイメージが定着しているためか、難しいこと、関わりにくい分野と感じている人たちが多いのも実情です。Ubdobeでは、医療福祉に音楽やアートを融合することによって、あらゆる人たちが積極的に社会参加する機会を提供しようとしているのです。
(キャラの濃いUbdobeメンバー。各自治体や企業へのプレゼンでもラップを披露しているのだとか)
医療福祉に必ずしも関心がなさそうな人たちにアプローチするには、エンターテインメントが一番。例えば、福祉にまったく興味のない子たちが集まるライブ会場に医療福祉の専門家を招いたり、フェスの会場にキッズ向けのアートイベントを開いたり。
(ライブ会場でいきなりプレゼン?!奇想天外な視点で展開されるUbdobeのイベント)
その突き抜けた発想力と動員力が着目され、厚生労働省にプレゼンしたり、行政と一緒に福祉人材の雇用促進による地域活性化のイベントを企画したりと、手堅くもファンキーな企画をたくさん展開しているUbdobe。「介護の現場に関わりながら、2015年のジャパンなのに、こんなのでいいのかなと思った」ことがきっかけでUbdobeを立ち上げたと、と代表の岡さんが言うように「当たり前」「そんなもの」を疑い、自分が心から楽しめるスタイルを追求するところから、楽しさ、ゆるさが育まれ、個々人と社会の元気に結びつくのかもしれません。
<超えるものはなんなんだ?!>
「共有具」「ゆるスポ」「福祉×エンタメ」。強烈な個性と突き抜けた発想力を持つゲストの皆さんのトークの後の会場との対話セッションでは「行動する上で一番の障壁は?」「2020年に目指すものは?」などさまざまな問いが投げかけられました。2020年のパラリンピックの会場が満員にしたい、パラリンピックの開会式を車椅子を使ったカラフルなアートで飾りたい、社会の価値変容のスピードをあげていきたい・・・。それぞれの想いを「みんな」で形にできる日を夢見て、ソーシャルドリンクスの熱い夜は幕を閉じました。
会場に集まった方々に感想を聞いてみました。
「直球だけでなく、切り口を変えて取り組むヒントをいただきました。今日得たアイデアを活かし、行政としてできることを考えていきたい」(NPO支援や地域課題解決に取り組んでいる文京区の阿部さん、境野さん)「今日の話を聞いて、世界観が変わりました。まだまだ自分にできることがある、もっと動けるなと勇気づけられました」(車椅子ソフトボールを日本で広げる夢を持つ大学生・井上さん)
「跳び箱を飛ぶことと同じで、目線ひとつで人は変われるのだと改めて思いました。”みんなが楽しめる”ものをつくるという着眼点がとてもいいですね」(会社員の上新さん)「障がいのある人とどう接していいかわからないという学生が、実際に触れてみることで『壁をつくっていたのは自分たちの方だった』 と気づくことがよくあります。心の目が開かれるような体験を伝えていきたいですね」(早稲田大学競技スポーツセンターの橋谷田さん)
次回の開催は5月1日。日本サッカー協会グラスルーツ推進部部長の松田薫二さんをゲストに迎えて開催される予定です。今後、cococolor編集部もこの企画に協力し、引き続きレポートをお届けしていく予定です。どうぞ、お楽しみに!
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