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7 Jan. 2022

可能性や選択肢が広がる社会をつくりたい〜 車いすバスケットボール・香西宏昭選手〜

パラアスリートや、パラスポーツを支える人たちに取材し、彼らと一緒に社会を変えるヒントを探るシリーズ「パラスポーツが拓く未来~パラスポーツ連続インタビュー~」。第7回目は、プロの車いすバスケットボール選手として活躍する、香西宏昭選手に聞きました。

 

車いすバスケットボール 香西宏昭選手

 

千葉県出身/4度目のパラリンピック出場となる東京2020大会で、銀メダル獲得。先天性両下肢欠損の障がいがある。12歳で車いすバスケットボールに出会う。高校1年生でU-23日本代表。高校卒業後渡米、イリノイ大学に編入。全米大学選手権優勝、2度の全米大学リーグのシーズンMVP受賞。ドイツ・ブンデスリーガのRSV Lahn Dill(ランディル)所属、日本ではNO EXCUSE所属。

 

 

 

 

■東京2020パラリンピックを振り返って

 

リオでの予選リーグ敗退。

「このままではいけない」と、すぐに気持ちを切り替えた

 

「このままだと、東京2020大会でメダルとかもあり得ない。そのコートに自分が立っていることも、代表に選ばれることもないかもしれない」と思ったのが、リオパラリンピックでした。悔しい思いはしたのですが、気持ちはすぐ東京2020大会に向いていたと思います。

 

バスケットボールにおいて、一番必要なものは「状況把握と判断」だと思っています。1秒で攻守の局面が大きく変わるスポーツだからこそ、状況把握をしながら、その時々で最適な判断をして、その判断に基づいて正確なスキルを実行する。その連続だなと思います。東京2020大会でも「とにかくチームが勝つための最適な判断をしよう」と心がけていました。

 

 

東京2020大会、決勝のアメリカ戦

僕の中には、複雑な感情が入り交じっていた

 

日本代表チームの中には、決勝のアメリカ戦が最後の試合になる選手たちもいました。なので、試合が終わった時には、その選手たちともうバスケットボールができないと思う淋しい気持ちと、素晴らしい経験ができてよかったという気持ちが入り交じっていました。

 

一方で、対戦相手のアメリカ代表チームの選手のほとんどが、イリノイ大学時代のチームメイトや相手チームの選手たちなんですね。彼らと決勝で戦えるというのは、本当に光栄だった。知った顔ばかりだったので「豪華な同窓会」ではないですが面白いなと思いました。

 

東京2020大会 車いすバスケットボール 男子決勝 アメリカ vs 日本 ©フォート・キシモト

 

東京2020大会は、感謝する気持ちが

強く芽生えた特別な大会

 

大会中の選手村では、まったくストレスなく過ごしたのですが、何よりも、たくさんのボランティアの方々の応援は一生残る思い出です。移動の時、すれ違うボランティアさんたちが「頑張ってください」「応援しています」「いってらっしゃい」とたくさん声をかけてくださった。チームメイトとともに「もう一生分、頑張ってくださいって言ってもらってるね」と話しながら、本当に多くの人たちが関わってくださったからこそ、大会が成り立つのだということを、心から感じました。

 

コロナ禍で一人の時間がすごく増え、よく思ったのが「当り前のことは、ひとつもない」ということ。普通にトレーニングに行くことも、パラリンピックが4年に1度あることも、自分が勝手に思い込んでいただけ。そう強く思った時から、いろいろなところに感謝をする気持ちが強く芽生えました。

 

だから今回、僕たちが目標に向かって挑戦する機会をいただけたということは本当に感謝していますし、その中でたくさんの方々が支えてくださったこと、テレビやインターネットを通じて応援してくださったことを、本当に嬉しく思っています。

 

 

■パラリンピックの魅力について

 

オリンピック選手との一番の違いは、

バックグラウンドの違いが大きいこと

 

僕は先天性の障がいですが、事故や病気で後天的に障がいを負った人、戦争で地雷を踏んで足が吹き飛んでしまった人、いろいろな人がいます。また、学生時代からその競技をしていたわけではないなど、オリンピック選手とはまた違った形のバックグラウンドの在り方だと思います。いろいろなバックグラウンドがある中、それぞれの選手の特徴があって、それが集結しているのがパラリンピックであり、それが魅力だと僕は感じています。

 

 

車いすバスケは、障がいのクラス分けが

戦略・戦術に組み込まれているのが面白い

 

そしてパラスポーツの中でも、特に車いすバスケでは、それぞれの選手の障がいの特徴、プレーヤーの特徴を「使って、活かして」戦っていく。相手は弱点を狙ってくるだろうから、そこをどうカバーするか。こうした点はもちろん通常のスポーツと同じですが、車いすバスケでは、その戦略・戦術に障がいのクラス分けが組み込まれていて、そこが一番面白いところだと思います。

 

また、車いすバスケをあまり知らない人たちにとっても、わかりやすくて五感で楽しめるのもこの競技の魅力のひとつ。最初からクラス分けや戦略を理解するのは難しいので、激しい攻防とか、あの選手かっこいいとか、まずは関心を持ったところから入って、スポーツとして楽しんでもらった後に、クラス分けのところまで見ていただけたら、見方が広がる感じがすると思います。

 

 

SNSのフォロワー数が一挙に増え、

車いすバスケのファンが増えたのは大きな変化

 

東京2020パラリンピックで印象的だったのは、勝ち進むにつれて、SNSのフォロワー数がどんどん増えていったこと。たくさんの方に見てもらえていると感じました。いまはドイツリーグに出場していますが、試合が日本時間の深夜にもかかわらず、ライブで見てくれている人たちも出てきました。今回のパラリンピックを見て、車いすバスケにハマってくださった人たちがいるというのは、大きな変化だと思います。

 

©Armin Diekmann

 

■パラスポーツ、パラアスリートのこれから

 

障がいによって可能性や選択肢が

狭まることのない社会づくりを進めていきたい

 

普及活動におけるキーワードは「可能性と選択肢」だと思います。障がいのあることが理由で、選択肢や可能性が狭まることのない社会づくりを目指す方向に進んでいきたい。僕自身も、「Jキャンプ(車いすバスケの真の楽しさを伝え、人間の可能性を追及するNPO法人)」と12歳の時に出会って、イリノイ大学への挑戦、そこからドイツに行ってドイツのブンデスリーガへの参戦と、子どもの頃には思ってもみなかった可能性や選択肢を広げてもらいました。今度は僕が、それを次の世代の選手たちに伝える番だと思って、Jキャンプのスタッフとしても関わらせてもらっています。

 

 

これからの日本で大切なことは、

「試合を増やすこと」と「目的を合わせること」

 

パラスポーツや車いすバスケの置かれた環境を海外と比較すると、たとえばドイツでは、地域に根差したスポーツクラブがたくさんあって、その中に車いすバスケのチームがあるというのが特徴です。

 

また、アメリカには、10歳ぐらいの子どもから車いすバスケをやれる環境があります。しかも同年代と一緒にできて、年齢が上がるにつれてディビジョンが上がっていく。大学リーグ、社会人リーグと同年代と一緒に徐々にステップアップできる、というのが魅力です。

 

そのようなシステムを、必ずしも日本もやった方がいいということではないのですが、これから日本で車いすバスケを定着させるために大切なことは、「試合を増やすこと」と「目的を合わせること」だと思います。

 

目的を合わせるとは、「ディビジョン制」を取り入れること。たとえば、パラリンピックを目指す人はトップリーグへ。そんなにガンガンやらなくても試合はやりたいという人は、2部リーグへ。生涯スポーツ、レクリエーションとして週1ぐらいは車いすバスケをして楽しみたい人は3部リーグへ。というように、目的を合わせたうえで、リーグなどで試合を増やすことが望ましいのではないかと思います。

 

 

■これからの目標

 

まずは、ドイツでの二冠

目標を1年ずつ達成して、パリパラリンピックにつなげたい

 

今後の目標としては、現在、ドイツのチームRSV Lahn Dill(ランディル)に所属しているので、まずはドイツリーグでの優勝と、ヨーロッパ選手権の優勝を目指しています。このドイツでの二冠と、来年の世界選手権(ドバイ開催)で代表として選ばれることを目標に頑張っていきたい。その先の目標として、しっかりとパリパラリンピックを念頭に置いた強化を図っていきたいと思っています。

 

©Armin Diekmann

 

新しいホーム会場のアリーナを満員にしたい

 

また、ドイツのリーグでは、応援も地域密着でチームには熱狂的なファンが付いていますが、そうなるまでには、さまざまな活動を長い期間をかけて行ってきました。

 

実は、僕の所属チームでも、ホーム戦の会場が4000人を収容できる大きなアリーナに変わったんです。なので、「ここを2、3年で満員にしたいね」とチーム内で話していて、そのために学校に行って子どもたちに車いすバスケを体験してもらうというプロモーション活動を行っています。子どもたちが体験して、その子どもたちが親御さんに伝えて、家族で「今度見に行こうよ」ということが、今後起きることを期待しています。

 

 

すそ野を広げていくために、いつか全国をまわり、

「バスケットボールクリニック」をやってみたい

 

東京2020大会で車いすバスケに興味を持ってくれた人は、全国にたくさんいると思います。そうした思いを大切して、「まだ小さくてできない」とか、「そんなことできるわけがない」と思っている子どもたちやその親御さんたちに、泊まりがけの「バスケットボールクリニック」などもやってみたい。僕が次の世代に渡していきたいものを伝える機会を作り、「いろんな可能性があるんだ、選択肢があるんだ」と前向きな考え方を広げる活動ができたらいいですね。

 

 

可能性と選択肢を広げていくことは、共生社会のひとつの目指すべき姿

 

最後に、「いろいろな人にとって住みやすい社会」の構築のためには、「尊重」が大切だと思います。僕にとって当たり前なことが、僕以外の人にとって当たり前だとは限らない。それぞれの当たり前を話し合い、尊重するということです。ハード面での整備などどうしてもすぐに解決できない問題も、さまざまな意見を尊重し、一緒に解決方法を探す。共生社会というのはそんなところから始まっていくのではないかと思っています。

 

 

――――――

海外でのプレー経験や4回のパラリンピック出場など豊富な経験を有する香西選手。日本代表チームをけん引してきた確かな知見をベースに語られる“日本における車いすバスケットボールの発展のためのアイデア”は、お話を伺っていてとてもワクワクするものでした。

香西選手が目指されている「障がいによって可能性と選択肢が狭まることのない社会づくり」は、私たち誰もが生涯にわたって、自分の可能性を追い求められる社会に繋がるものだと思います。記事を読んでくださった皆さんも一緒に、実現に向けて一歩一歩進んでいきたいですね。

 

 

《参考情報》

・香西宏昭選手 公式情報

オフィシャルサイト:https://www.hiroaki-kozai.com

Twitter:https://twitter.com/hirojuniorpanda

Instagram:https://www.instagram.com/japanda55/

 

 

 

取材・執筆:桑原寿、吉永惠一、斉藤浩一

編集:鈴木陽子

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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