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Nov.

2024

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4 Mar. 2022

【後編】自分や周囲のメンタル不調に気づくには。キーワードは「斜めの存在」|並河進さん×医師 鈴木裕介さん

渡邊はるか
メンタルヘルスラボ /クリエーティブ・プロジェクト・プロデューサー
渡邊はるか

メンタルヘルスラボ主催の「並河進さんと鈴木裕介先生に聞く!メンタル不調体験とその付き合い方」レポート後編です。

【前編】メンタル不調で仕事を休んで気づいた、自分と仕事との付き合い方 はこちら
【中編】 「もうダメかも」不安に対処し自分のニーズを満たすための、回復魔法とは はこちら

後編は、部下への声のかけ方や不調への気づき方はじめとする、具体的なメンタルヘルス事例についての質疑応答です。

部下のメンタルヘルスケアで大事なのは、本当のことを言っても嫌な思いをしないこと

―――  マネージャー層の方がたくさん参加されていて、「部下のメンタルヘルスに気を配っていますが、どう声をかけていいか分かりません。余計な負担になるのではないかと考えてしまいます」というご質問が来ています。

鈴木: 上司というのは評価者なので、弱み、何かできていない部分を見せることは非常に勇気が要ります。だから、そもそもそれをキャッチすることは非常に難しいということが原則だと思います。

要はどうやって本音を聞けるかという話になるのですが、メンタル不調はまず体に来ます。頭痛や胃痛が増えたり、じんましんになったりもします。

睡眠の調子が崩れてくるのは 高い確率で起こりうるので、「疲れてるように見えるんだけど、寝れてる?」と聞く方が本当のことを言ってくれる確率が高いかなと思います。

うちでは週1でストレスチェックをしています。 共有しやすいカルチャーをつくるのも一つの手ではあると思います。オープン過ぎるものに抵抗を感じる方もいるので一概には言えないのですが。

あとは認知行動療法でやられるような、今日の体調は100点満点中80点、メンタルは70点という点数を毎日Slackに上げるという方法もあります。

これも結局、正直度ベースになるので、一番大事なのは、本当のことを書いても嫌な思いをしないという対応です。

部下が自分がネガティブな状態であるということを表現したときに、「これを話してよかったな」とか「少なくとも伝えて悪いことはなかったな」となることがゴールです。

そのために、僕は率先して自分が「今日疲れてるわ」など、体調が万全ではないという話を普通にするようにしています。

 

イラスト:渡邊はるか

並河: なるほど。すごく参考になります。

パフォーマンスの承認と存在の承認は別のもの

並河: 僕が悩むのは、後輩が仕事を抱え過ぎてしまっていて、見ていて仕事を外さなければ難しいなというときに、後輩が「もう期待されていないのかな」と誤解しないかということです。

だから、僕はとにかく伝えるようにしていて。めちゃめちゃ期待している、でも、だからこそ体調が良くなってほしいし、無理をしないで、絶対にもっと合っている仕事もあると思うしという話を一生懸命しています。

ただ、自分が調子悪かったときの立場でも話すと、仕事を外されたときに感情的になってしまうことがあるかもしれないなと思うんです。でも、一生懸命伝えていれば、いつか分かってくれるというか、そういう気持ちで接していくしかないと思って接していたりはしますね。

ただ、その瞬間に素直に「仕事を外していただいて感謝しています」とすぐには言えないだろうな、と。自分がそういう経験をしたときにも、「外されちゃったんだ」と思って多分顔にも出ていただろうし、そういう表情をされると上司はつらかっただろうな、と。今考えると申し訳ないと思います。

鈴木: ネガティブなときに仕事を外されるというのは、本当に居場所の危機を感じますよね。

並河: でも、そうしてくれないと自分からはやめられないときがあるじゃないですか。

鈴木: そうなんですよね。マネジャーとしては、タオルを投げざるを得ないときは、どうしてもあると思うのです。

でも、今まさに並河さんがおっしゃったように、能力や現段階のパフォーマンスに対しての承認と、存在に対しての承認というのは別なので。存在の承認というのをベースにして、その人間関係から降りないということを態度で示せば、その関係の改善の道は閉ざされないと思います。

仕事ができないのは自分のせい?と思っている時点でミスマッチかも。斜めの存在をつくる。

――― 次は、「仕事がうまくできない、終わらないことが、自分の能力のせいなのか、環境や仕事のせいなのか分かりません。そういう葛藤があって相談もうまくできません。他の人は周囲にどう相談しているのでしょうか」というご質問です。

並河: 能力というのは、「その環境の中で発揮できる能力」という話なので。だから、そこで発揮できていないとしたら、環境を変えれば発揮できる可能性はかなりあるのですよ。

例えば、そのプロジェクトのリーダーに相談すると、そのリーダーの差配できる範囲でしか環境は変えられないので、プロジェクトリーダーに言って駄目だったら部長、部長に言っても駄目だったら局長、違う局でもいいです。

違う人に相談すると、全然違う環境の変え方ができて、新しく能力を発揮できることがあると思うので、相談する相手をどんどん変えてみるというのが、具体的なアドバイスの一つです。

もう一つは、僕も若いときに、自分が出した案を先輩から否定されると、人格を否定されているような気持ちになってつらかったときもあるのですが、仕事で発揮できている何かというのはその人のほんの一部分なのですよね。

仕事というのはone of themにすぎないというか。その人の人格と仕事で発揮できる能力は関係ない、別のものなので、仕事で何か自分が否定されたという気持ちになるとしたら、全然そんな風に感じる必要はないと思います。

鈴木: 斜めの存在」といって、直接の利害関係はないのだけれど、人間的に安心できて相談しやすい人を組織の中で持てるといいのではないかと思います。

鈴木: 能力の問題か、自分の環境の問題かと悩んでいる時点で、大体ミスマッチではあるのですよ。個人がパフォーマンスを発揮できないというのは、基本的にはミスマッチがあるものだと考えていてよくて。

能力を付けることでミスマッチの解消にはなるかもしれませんが、それに自分で気付くはとても難しいので、複数の相談相手をもつのがいいと思います。

できれば、会社コミュニティの外にも斜めの存在を持った方がより安定しやすいと思います。コーチングや、自己理解を深めるためのいろんな枠組み、心理学的なツールも役に立ちます。

いったん引いた目でもう一回自分のことを見つめ直してみると、ミスマッチに気付きやすいのではないかと思いますね。

周囲の人に頼ることと、周囲の人が気づくこと

――― 次は、「休職するほどのメンタルダウンをする前に、自分の限界をどのように判断したらいいでしょうか。自分をそこまで追い詰めないよう、気を付けるといいことはありますか」というご質問です。

鈴木: これは難しくて、転びながら学んでいくものだと思うんですが、ひとつはやはり自分の調子が悪くなっているぞという客観的なサインに気付くことですね。

流しが散らかっているなとか、案件が6個を超えたら危ないぞとか。それは経験の中で得ていけるものだと思うのですが。

あとは、自分に対しての観察眼が優れた人にも頼りたいですね。並河さんの場合、多分それが奥様だった。

並河: 自分のことを普段見ていて異変に気付きやすい人ということですね。

鈴木: そうです。周りの人と「何かおかしいな、らしくないなと思ったら言い合おうぜ」みたいな協定を結んでおくのもいいのではないでしょうか。

並河: でも、そういうことに気付くのって結構難しいですよね。

周りの人がメンタル不調になると、「何でもっと早く気付いてあげられなかったんだろう」と、自分を責める人もいるかもしれませんが、それは気付けなくて当たり前だと思うのです。

鈴木: 本当に難しいです。

ただ、敏感に気付けるタイプの人がいるんですよ。そういう人の協力を仰ぐのもよいと思います。痛みの経験がある人、幼少期にご苦労された方などは、他人の痛みにも鋭敏に気付ける能力を持ちあわせている事が多い。

得てして非常に繊細だったりするのですが、そういう素晴らしいセンサーを持っていることはとてもクリエイティブだと思いますし、もっと活かされていい。

周囲からの声かけで嬉しかった言葉

――― 並河さんに、パートナーからのこういう接し方や声かけがうれしかったというお話があれば、お伺いしてみたいという声が来ています。

並河: 「とにかく生きてさえいてくれたら、それでいいから」は、結構ずしんときましたね。この言葉は、すごくうれしかったかなと思いますね。

心の病気には、自分が変わってしまうのではないかという不安があります。

そんな変わった自分になったら嫌われるかもしれないし、こんな変わった自分だったら何を言うか分からなくて、もしかすると自分の大切な人を傷付けるかもしれないし、失望させるかもしれないし、という恐怖がすごくある。

でも、「生きてさえいてくれたら、それでいい」というのは、どんな人になったとしても関係ないよ、横にいるよ、ということで。それはすごく助かりました。

メンタルヘルスを考えることは、人生を考えること

――― 最後の質問は、「コロナ禍で仕事観(価値観)が変化し、たくさん働くことがよしとされている環境に違和感を覚えることがあります。この葛藤にどのように折り合いをつけていけばいいでしょうか」というものです。

鈴木: コロナ禍になって、効率や量以外のものも重要視されるようになってということですよね。

こういう葛藤は人生の中では何度か必ずあることで、葛藤がなければ本当の成長ってないんじゃないかとも思うんです。

労働や人生について、自分がこれと疑っていなかった価値観に対して疑いを持つのは、正常な成人発達の過程だとも思います。AとBの間で真剣に葛藤することで、AでもBでもない、自分なりのCという答えを見つけだしていくのだと思います。

それでもなかなか抜け出せないときは、自分の視野の中に答えがないかもしれないので、新しいインサイトを得るために人に相談してみたり勉強してみたり、それこそ、そもそも自分のハピネスとは何なのか、自分の中に答えを探し、それを最上位に考えるといいのではないでしょうか。

並河: そうですね。幸せが一番ですよね。幸せが一番なので、仕事は2番だと思うのですよ。

働いている中にも、ちょっとした瞬間に、細かいささやかな幸せというのは実はたくさんあったりすると思うのですよね。

クライアントからの信頼という幸せもあれば、しょうもない冗談を言う幸せもあるかもしれない。そういう幸せを仕事の中でもつくっていくことができるとよいのではないかと思います。

――― ありがとうございます。最後、お一言ずつ頂戴してもよろしいでしょうか。

並河: 自分が何かできると思ってやっているわけではなくて、自分のことを話したぐらいですが、初めての試みができてよかったです。今日は来てくださってありがとうございました。

鈴木: メンタルヘルスのことを考えるのは人生のことを考えることに結構等しいから、本当に大事なことだと思います。貴重な機会を頂いてありがとうございました。

イベントを終えて(渡邊)

お二人のお話は、まさに私自身が休職していた時に聞きたかった内容です。自分だけじゃないという心強さに、包み込まれる感覚になりました。

メンタル不調や休職経験者に耳を傾けてみても、不安や孤独感、「自分ってダメなのかな」という気持ちになるという声が、多く聞こえてきました。

そのような時、同じような環境にいる人の似たような経験談と、働く社会人に理解のある専門家のお話が力になるのではないかと考え、今回の企画に至りました。

イベントに参加された方からは、 並河さんですらメンタル不調になるなら、自分も大丈夫かもしれないと思えた」という安堵の声や、「周囲への気遣い方を具体的に知れて参考になった」という声が、400件近く寄せられました。

「同じ文化を共有する人が、メンタル不調体験を率直に語る」ことは、組織内の心理的安全性を高め、メンタルヘルスを自分ごと化するきっかけになるかもしれません。

この記事を読んだ方にも、「大丈夫」という気持ちになっていただければ幸いです。

 

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【前編】メンタル不調で仕事を休んで気づいた、自分と仕事との付き合い方|並河進さん×医師 鈴木裕介さん はこちら

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メンタルヘルスラボは、メンタル不調経験や、それに起因する働く上での制約があっても、負い目や不安を感じすぎずに、自分らしさを活かして働ける社会を目指して、みなさんと一緒に考えるラボです。

今後も、今回のような体験談を共有するイベントや、不調経験のある方同士で話す場を作り、そこで得たリアルな声を元に、メンタルヘルスに関する発信をしていきたいと考えています。

取材・文: 渡邊はるか
Reporting and Statement: harukawatanabe

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