命をつなぐ選択肢・妊孕性温存について知る・考える~WCW2022 セッションプログラム取材レポートCancerX AYA~
- プランナー
- 徳永栞
一般社団法人CancerX主催のWorld Cancer Week 2022(以下WCW2022)について、ポータル記事を起点に、WCW2022公式メディアパートナーのcococolorでレポートしています。
「Exchanging ideas & Sharing views」をコンセプトテーマとして、1/30-2/5の7日間の間で28以上のセッションが実施されましたが、6件目となる今回は” 【CancerX AYA】~命をつなぐ選択肢・妊孕性温存について知る・考える~ ”というセッションをご紹介します。
AYA世代とは15歳~39歳までのことを指しますが、本セッションでは就学・就職・結婚・出産等、ライフイベントに直面することも多いAYA世代のがんとの向き合い方、特に妊孕性(にんようせい)温存についてディスカッションされました。
※妊孕性(にんようせい):妊娠するための力のこと。がんの治療では,妊娠に関わる臓器にがんができた場合だけでなく,一見妊娠と関係のないような臓器にがんができた場合でも,抗がん剤や放射線治療による影響で妊孕性が低下したり、失われたりすることがあり、女性にも男性にもかかわること。※
将来にいのちをつなぐ選択肢の1つとして妊孕性温存。
もし自分ががんになった時、妊孕性についてどう知り、どう判断すればいいのか。家族・パートナーと妊孕性についてどのように話せばいいのか。AYA世代の一人として知りたく、記事を執筆しました。
以下4名の方が登壇されました。
鈴木 直さん(聖マリアンナ医科大学産婦人科学講座教授)
御舩 美絵さん(若年性乳がんサポートコミュニティ Pink Ring 代表)
宮原 由紀さん(家庭でできる性教育サイト「命育」代表 / Siblings合同会社 CEO)
モデレーター:岸田 徹さん(NPO法人がんノート 代表理事)
ⒸCancerX
命をつなぐ選択肢・妊孕性温存とは
鈴木さんからは妊孕性温存の方法・国としての妊孕性温存治療の支援について伺いました。
妊孕性温存には男女それぞれ3つの方法があります。
女性の場合は、月経周期がある場合に実施する「卵子凍結」、パートナーがいる場合に実施する「受精卵凍結」、月経周期がなくても実施可能な「卵巣組織凍結」があります。
一方、男性の場合は、射精可能で精子がいる場合実施する「精子凍結」、射精はできるが精子がいない場合実施する「TESE(精巣内精子回収術)」、射精できず精子形成も未熟な場合実施する「精巣凍結(臨床応用で成功した報告なし)」があります。
2004年には妊孕性低下の可能性があった悪性リンパ腫の患者が、卵巣組織凍結・移植によって世界で始めて妊孕性温存治療が成功しました。これをきっかけに、小児・AYA世代がん患者の将来に向けた選択肢の1つとして世界で妊孕性温存が注目され始めました。
日本でも、令和3年から小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業が始まり、妊孕性温存療法に対する費用助成が実施されています。
妊孕性温存を将来の選択肢の1つとして行うのかを患者・家族が自身で判断するために、医師・看護師・薬剤師・胚培養士等、多職種連携でサポートを実施していると鈴木さんから伺いました。
小児・思春期のがん患者が妊孕性温存について意思決定するには
本セッションでは小児・思春期のがん患者の妊孕性温存についても言及されました。
鈴木さんからは、ご自身の医療従事者としてのお仕事の中で痛感した、小児・思春期のがん患者・家族に妊孕性温存の話をすることの難しさをお話いただきました。
家族でできる性教育サイト「命育」代表である宮原さんからは、子どものがん患者が自分の身体をどうしたいのか判断するために、大人が情報を伝えサポートすることが重要だとお話されました。
そのための手段として、絵本を使いながら幼児期からの家庭での性教育を紹介されました。
幼児~児童期のうちに絵本を読みながら性について会話を行うことで、性の会話をする関係性をつくったり、からだや性の基礎知識を身に着けられたりできます。
上記を通じて、小児・思春期のがん患者の意思決定を大人が支援できると発信されました。
80%以上の患者が妊孕性温存を実施していない
御舩さんから、妊孕性温存の現状についてご説明がありました。
ⒸCancerX
御舩さんが実施した調査によると、80%以上の患者が妊孕性温存を実施していません。御舩さんからは妊孕性温存によってがんの治療が遅れることに患者は不安を感じることが多いため、がん治療医と生殖治療医のスムーズな連携が必要だとお話されました。
妊孕性温存の意思決定をサポートするには
ディスカッションを通じて、妊孕性温存について患者、パートナー・家族が意思決定をするうえで、課題が2点浮彫りになりました。
1つ目は妊孕性温存に関して相談できる場所が不足していることです。
御舩さんは結婚直前にがんが発覚しました。その後受精卵凍結を実施し、お子さんを2人出産されています。御舩さんご自身が妊孕性温存をするか意思決定するうえで、患者の迷い・不安を相談できる場所がなく、辛かったとお話されていました。だからこそ医療従事者・ピアのサポートが重要だと仰っていました。
また、妊孕性温存はゴールではなく、妊孕性温存後にがんサバイバーが育児を相談できる場所が必要であると御舩さんは発信されました。がんの再発の可能性があり不安な中で、がんサバイバーが安心して妊娠・出産・育児ができるようなサポートが重要です。
2つ目は、特に男性の妊孕性温存に関しての情報が少ないことです。
岸田さんはがん診断後、精子凍結を実施され、現在妊活をされています。ご自身のご経験を通じて、特に男性が妊孕性温存に関して意思決定をする際、情報が少ないことを課題と思われています。
宮原さんは、情報提供側として性差の情報格差に関して注意して活動されています。
世間的に「性教育は母親のもの」と思われがちですが、男性を取り残さないよう意識しており、性差問わず、情報を提供されています。
ⒸCancerX
将来にいのちをつなぐ選択肢は、多様だ
本セッションを通じて、将来の選択肢として多様な選択肢があることが分かりました。
実際、セッションでも、いのちをつなぐ選択肢として妊孕性温存だけでなく特別養子縁組という選択肢も紹介され、いろいろな家族の在り方が紹介されていました。
一方で患者・家族だけで将来の選択肢を選ぶのは難しいことだと思います。
がんと診断されると、患者はどうしてもがん治療のことばかり気にかけてしまい、将来のことまで考えるのが難しいこともあるのではないでしょうか。
多様な価値観を持つ患者・家族自身が、将来について多様な選択肢の中から意思決定し進むためのサポートが必要なのだと思います。
そのために費用助成等の物理的サポートはもちろん、不安な気持ちを相談できる場の提供等の精神的サポートも大切です。
「がんと言われても動揺しない社会」のために、患者が将来にいのちをつなぐためにどんなサポートができるのか。私自身考え行動していきたいと思います。
※引用:「【CancerX AYA】 主催セッション~命をつなぐ選択肢・妊孕性温存について知る・考える~」(https://cancerx.jp/summit/wcw2022/program/day01/cancerx-aya/)
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