いろんな子どもと、いろんな大人、 一緒に遊んで、何ができるかな?
- グラフィックデザイナー/UDプランナー
- 田代浩史
放課後等デイサービス「海山時間」の子どもたちと、New Horizon Collectiveのメンバーでクリスマスウィークに一緒に遊びました。
「海山時間」は2021年に神奈川県逗子市にできたばかりの放課後等デイサービス。小学生から高校生までの発達障害、知的障害、ダウン症などの子どもたちが放課後に利用する施設。一人ひとりの個性や特性が違いダイバーシティ&インクルージョンを実感できる場所です。
一方New Horizon Collective(以下NH)も2021年に誕生、電通のミドル・シニア世代の社員が早期退職し、個人代表や法人代表となり、NHと業務提携し、人生100年時代の新たな価値想像にチャレンジしています。
いろんな個性の子どもたちと、新たな道を歩み始めた湘南にゆかりのある6人の大人たちが、クリスマスウィークを一緒に過ごしました。海や山に恵まれた湘南ならではの取り組みを、ご紹介します。
「特性の強い子達ですので、健常な子どもたちのようにできないことも少なくありません。」
私がアートディレクターだったこともあり、クリスマスを盛り上げるオーナメントやリースなどを子どもたちと一緒に作り、施設の飾り付けをやろうと考えました。そして私たちの指導のもと子どもたちみんなが工作をする姿を想像していました。
考えたメニューを「海山時間」の責任者と打ち合わせをしたところ、返ってきた のは上(小見出し)のような言葉でした。普通の子どもにとってはこのぐらいならできるだろうと考えていたことも、そう簡単にはいかないことに気付かされました。特に工作では紐を結んだり、素材を貼り付けたり、色々な道具も使います。色塗りも綺麗にできるようにどうやって指導をしたものかと悩みました。
さらにヒントとして「海山時間」が大切にしていることを教えていただきました。
・作ることを楽しむ。
・自分を表現することに喜びを感じる。
・想像する面白さを味わう。
「学校では評価されるばかりで、自分はダメだ、うまくできない、よくない意味で特別だと感じている子がほとんどです。」
・どんな子も、どんな作品も素晴らしい。
・出来不出来とは違う価値観を大切にしている。
私は、それぞれの観点に大いに共感しつつも、少数派の子どもたちが社会の中で生きづらさを感じている現状に、胸が詰まりました。
難解だった「想像する面白さを味わう。」
いくつかの観点をいただきましたが、自分の中でどうしてもうまく解らない難しいものがありました。それは「想像する面白さ」です。36年間も電通にいて、クリエイティブに所属していましたし、企画などではイマジネーションを大事にして来たはずなのに、「想像することの面白さ」をすっかり忘れてしまっているようでした。仕事ではつい正解を求めてしまう癖がついていて、頭と気持ちが固くなっていたのです。
それからNHのメンバーにも何をやろうか以前に、どういう気持ちでやろうかということを話し合いました。「大人が楽しそうに何かを作っている。それを見た子ども達が興味を持ってくれれば一緒につくる。」そんな感じで良いじゃないかなと。何かを教えてあげようとか、目標を立ててそれに向かって成功か失敗かみたいなことも考えないようにしました。
流木トナカイの作り方は、子どもの想像力に教わった
クリスマスの飾り付けは、海や山で拾ってきた素材で作ろうと考えていました。貝殻・木の実・蔓・流木などです。中でも大物は流木トナカイです。サーファーのメンバーが中心に集めたたくさんの流木を持ち込み、実物大の自立するものを考えていました。当然ネジや釘を使わざるを得ません。
そんな時、中学生の男の子たちが流木を使ってテントやキャンプ場を作っていました。物干しの土台をうまく使い釘などは使わずに自立していたのです。子供たちの想像力に感動しました。それを見た時に、ネジはなくても自立させられそうだと想像でき、麻紐だけで組み上げることにしました。何度も土台から直しましたが、その姿を見て興味を持った子どもがもっとこうしようと意見をくれるようになりました。
工作に興味がないのではなくて、遊び道具が欲しかったんです。
「海山時間」は曜日によって利用する子どもが違います。最初の月曜日はオーナメントの工作をする子がいたのですが、火曜日以降は子どもの特性によってなのか、少なくなりました。木曜日に小さな女の子がガラガラ音のするおもちゃを引っ張って一人で遊んでいるのを見つけました。「もしかするとクリスマスの飾り付けには興味を持たなくても、遊び道具なら興味を持ってくれるかもしれない。」そう思って、枝を麻紐で繋いで蛇のように引っ張って遊ぶオモチャをつくりました。するとそれを見た男の子が貸してくれと言って来て、振り回して遊び出しました。ヌンチャクのような感じです。
クリスマスだからクリスマスらしいものを作るという大人の押し付けよりも、子ども達は自分が遊びたいものを作りたかったのです。そして遊びを通じて仲間とコミュニケーションがしたかったのです。
音楽は子どもも大人も、柔らかくしてくれる力がある。
クリスマスの飾り付けをやりながら、毎日のようにクリスマスソングも演奏しました。仲間のヴァイオリンと僕のギターで。曜日によってはキーボードを弾いてくれる先生もいらして、みんなでセッションして歌いました。ヴァイオリンの音が部屋の中に響いているというのは、落ち着くというのか、固くなったものを溶かしてくれるように感じました。普段は音楽ムーブメントに参加しなかった男の子が、初めて参加したほどです。自分を表現してもいいんだと感じたのかもしれません。
子どもの想像力は、大人の想像力も刺激してくれる。
子どもにとって「遊ぶ」ということは、その子の想像力を育むことであり、仲間とコミュニケーションをとるために本当に大事なことだと実感できました。また大人には「本気で子供と遊ぶこと」で、硬くなった殻がパッと割れていきます。
このクリスマスウィークはアート体験プログラムとして障害のある子どもたちのために企画したものです。お互い初めての経験で、準備段階からやり取りを丁寧にやって来ましたが、やってみて思うのは障害のある子どもと我々のようのシニア世代はとても相性が良く、お互いが触れ合うことできちんと繋がりを持てるということです。日本全国には子育てで悩む保護者の方も多いと思います。子どもは地域ぐるみで育てていく、そこに自分の得意なもので子どもたちとコミュニケーションを取る大人が増えてくれることを期待します。
放課後等デイサービス「海山時間」
https://umiyamajikanhouday.wixsite.com/umiyamajikanhouday
New Horizon Collective合同会社
https://newhorizoncollective.com/
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31 Oct. 2023
アクセシビリティーを担保しながらも、場の雰囲気を大切にするフィンランドのユニバーサルデザイン。
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