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26 Oct. 2022

カンヌライオンズ2022から 考える クリエイティブとダイバーシティ -ヘルスケア編-

徳永栞
プランナー
徳永栞

世界最大級のクリエイティブの祭典であるカンヌライオンズ2022が、3年ぶりにリアル開催されました。社会課題の解決を目的にした受賞作品も多く見られたので、2年目社員5人が受賞作品に関して連載形式でお届けしていきます。

今回は「ヘルスケア」というカテゴリーで受賞2作品をご紹介します。



「これからも大切な人と生きていきたい」という想いに寄り添う

I Will Always Be Me (ブランド:DELL Technologies・Intel、国:アメリカ)

運動ニューロン疾患(MND)が、家族など大切な人に自分の想いを伝えながら自分の声を録音することができる施策です。

※運動ニューロン:脳の運動神経のみ障害を受けることで発症する病気の総称。運動ニューロン疾患の中で代表的な病気として「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」がある。
(参考:健康長寿ネット「運動ニューロン疾患を伴う認知症」)

MNDは症状が進行するにつれて話す力を失うこともある疾患のため、ボイスバンクという人の自然の声に近い音声を合成するツールを用いてコミュニケーションを取る患者もいます。
しかし、ボイスバンクを利用するために最低1600のフレーズを録音する必要があり、ボイスバンク利用者はMND患者の12%に留まっていました。
つまり、ボイスバンクを使いたいのに諦めてしまうMND患者が多く存在するという問題がありました。

ボイスバンク利用率を高めることを目的に、30分以内で読めて必要なさまざまな音の組み合わせが入っている本「I Will Always Be Me」が作成されました。この本は、ベストセラー作家とイラストレーターで協力してつくられており、「私はこれからも私のままで、これからもあなたを愛し続ける」といった言葉が綴られています。
「I Will Always Be Me」を愛する人の隣で読むことで、自分の声を録音しながら「私はこれからも変わらない」という、これまでなかなか伝えられなかった言葉を愛する人に伝えることができます。

この施策の結果、最近MNDと診断された人の72%が「I Will Always Be Me」を利用してボイスバンクを実施するようになりました。

本施策のポイントは、患者の「症状が進行するにつれて将来話せなくなるかもしれないが、大切な人に自分の想いを伝えたい」というインサイトと、「患者とどんなことがあっても、これからも変わらず一緒に過ごしていきたい」という周囲の人のインサイトを突いていることです。「I Will Always Be Me」の存在は、患者と大切な人との絆を強固にしています。

患者は診断前も大切な人と一緒に生きてきて、病気発覚後も大切な人の協力を得ながら治療に取り組み生きていきます。そんな患者・その大切な人の心に寄り添った取組であることがポイントだと考えています。

こちらの作品はPharma部門のグランプリを受賞しています。



小児患者とプロフェッショナルの想いをつなぐ

Little headhunters powered byLinkedIn (ブランド:PUBLICIS WORLDWIDE POLAND、国:ポーランド)

次にご紹介するのは、病院のデジタル化のため、入院している子どもがヘッドクォーターとしてLinkedIn上で優秀なプロフェッショナルをボランティアとして募集する施策です。

ポーランドの病院は古いためデジタルソリューションが不足していました。その一方でデジタル化に取り組むうえで病院や財団に資金がなく、病院のデジタル化に対応できるプロフェッショナルを取り込むことに苦心しているという問題がありました。

その中でK.I.D.S.財団とLinkedIn の協力をもとに、一流のプロフェッショナルに向けて採用ビデオを録画し、LinkedIn上で小児患者が想いを直接伝える取組を実施しました。
ポーランドのトップビジネスマン、政治家などを募集した結果、合計103人のプロフェッショナルが4690時間以上のボランティア活動に取り組み、化学療法におけるVR、ポッドキャスト、翻訳ツール、モバイルアプリなど、病院において革新的なデジタルソリューションが誕生しました。

本施策のポイントは、「どうにか病院を改善したい」という小児患者のインサイトと「自分の持っているスキル・ノウハウを社会に役立たせたい」というプロフェッショナルのインサイトそれぞれを突いていることです。
これまで接する機会がなかった小児患者とプロフェッショナルの想いがテクノロジーの力で合わさり、病院環境の改善に寄与している点が魅力的だと感じました。

Health & Wellness部門でブロンズを受賞しました。

 

患者とサポートする人の想いをつなぐクリエイティビティ

上記2事例に共通するのは、患者とサポートする人との関係性にフォーカスしている点です。

「I Will Always Be Me 」では、ボイスバンクのため自分の音声を録音しながらも、変わらぬ想いを伝えることで、患者・大切な人との関係を強固にしています。
「Little headhunters powered by LinkedIn」では、LinkedInというプラットフォームを使いながら小児患者とサポートする一流のプロフェッショナルをつなげています。

私自身も、クリエイティビティを使いながら、人と人をつなげるようなソリューションをプランニングしていきたいと思います。

次回は、子どもに関する施策をご紹介します。

取材・文: 徳永栞
Reporting and Statement: shioritokunaga

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