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7 Dec. 2022

カンヌライオンズ2022から考えるクリエイティブとダイバーシティ -子ども編-

仲尾 郁子
メディアプランナー
仲尾 郁子

2022年6月、世界最大級のクリエイティブの祭典であるカンヌライオンズ2022が3年ぶりにリアル開催されました。今年は87カ国から合計2万5464作品のエントリーがあり、社会課題の解決を目的にした受賞作品も多く見られました。

2年目社員5人が受賞作品をお届けする連載の1回目は、ヘルスケア関連の作品をご紹介しました。2回目となる今回は、「子ども」に関連する2作品をご紹介します。

 

タブー視されてきた自国の社会問題に切り込むキャンペーン

The Missing Chapter (ブランド:P&G、国:インド)

 

最初にご紹介するのはSDGs (SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS)部門のグランプリを受賞した、インドのP&Gによる、生理用品ブランドWhisperのキャンペーン、「The Missing Chapter」です。

 

インドでは、生理はタブーとされているため母親ですら話をせず、学校の教科書にも記載がないそうです。そのため少女たちの7割以上が始まるまで月経のことを知らず、自分は病気なのではないかと困惑し、学校を退学する生徒が毎年2300万人もいるといいます。

そこで、Whisperは#KeepGirlsInSchool(女子を学校にとどめよう)をキーワードに、キャンペーンを開始。生理がごく当たり前の生物学的現象であることを説明した赤色のチラシ「The Missing Chapter」を作成し、この紙を学校でばらまく3人の果敢な少女のムービーを公開しました。また、インドの伝統的な芸術様式に落とし込んだ壁画をつくり、学校や村の壁に掲示しました。

さらに、製品のパッケージに生理の知識と生理用品の正しい使い方を記載した限定カバーを付けるなど、生理に関する知識や教育の欠如が社会にもたらしている影響を伝えました。

キャンペーンはSNSでも拡がり、ニュースやゴールデンタイムのテレビでも紹介されました。その結果、インド政府はついに生理に関する内容を学校のカリキュラムに追加することを決定しました。

 

この施策からは、自国が長年抱えてきたタブーを変えていくことが、自分たちの使命だというブランドの強い想いを感じます。生理用品ブランドのWhisperならではの取り組みではないでしょうか。

 

遊びを提供し、健康と人種の問題にアプローチする

Lil Sugar – Master of Disguise (ブランド:Hip-Hop Public Health、国:アメリカ)

 

次にご紹介するのは、Health Grand Prix for Good部門のグランプリを受賞した施策です。

加工食品には多くの砂糖が含まれていますが、そのほとんどがマルトース、グルコース、デキストリンなど砂糖だとは分からない名前でパッケージに表示されており、その数は150以上にのぼるといいます。この偽装により、知らずに砂糖を過剰摂取した子どもたちの健康が脅かされていること、また、2000~2014年にCDCのレポートが「糖尿病による黒人の子どもの死亡率は2倍」と示していたように、人種によって健康状態に差が生まれていることが社会問題になっています。これらを解決しようとしたのが、Hip Hop Public HealthというNPOです。

Hip Hop Public Healthは、砂糖の偽装(disguise)を暴いて、子どもたちに砂糖の過剰摂取の危険性を伝えるための教育コンテンツ、「Lil Sugar – Master of Disguise」を制作。ミュージックビデオや絵本、ゲームなど子どもたちが興味を持つコンテンツを通して、問題の理解促進を試みました。

有名なラップグループRun-D.M.C.のDARRYL “DMC” MCDANIELSと、ヒップホップのオリジナル楽曲を共同制作。親しみやすい砂糖のキャラクターで、ラッパーのLil Sugarがさまざまな食べ物に潜み、糖尿病などをもたらそうとする邪悪な計画を歌うことで、子どもたちに成分への興味を持たせるミュージックビデオをつくりました。

アプリゲームも制作し、食品パッケージに記載されている原材料欄をスキャンすると、含まれている砂糖成分のキャラクターが表示されて、コレクションしたり、友達と対戦したりする内容で、どの食品にどんな砂糖成分が含まれているかを遊びながら学べるようにしました。また、小さな子ども向けに絵本も作成するなど、いずれもコンテンツを通じて楽しんで栄養の勉強ができるものになっています。

 

このキャンペーンは、ヒップホップの大御所たちの支持を集めたことや、沢山の地域でのイベントや授業を行ったことで、数百万人もの子どもたちにリーチすることができました。

 

実際に動画や作品を見ると、軽快な音楽やポップで可愛いキャラクターが出てきます。目や耳で楽しめる、遊び感覚の教育コンテンツになっていました。著名アーティストも巻き込んで大がかりな施策をローンチしたことで、一過性で終わらない社会性のある取り組みになっていると感じます。

 

子どもたちの今と未来を救うためのクリエイティビティ

ご紹介した2つの作品に共通するのは、隠されてきた子どもたちの社会問題に、正面から光を当てている点です。

「The Missing Chapter」では、国全体でタブーとされてきた生理に対する問題にアプローチすることで、結果的に国の教育プログラムを変えることができました。
「Lil Sugar – Master of Disguise」では、見過ごされてきた食品パッケージの落とし穴と、人種間の健康格差が引き起こす子どもたちの問題に着目しています。

問題提起も大事ですが、課題そのものをどのように改善し、変えられるかが最も重要です。カンヌライオンズで賞を獲った上記の作品は、クリエイティビティを持って課題の解決を図ろうとした点が素晴らしく、広告やコミュニケーションの力の大きさを感じました。

次回は、人権に関する施策をご紹介します。

取材・文: 仲尾郁子
Reporting and Statement: ayakonakao

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