子どものやりたいを引き出す、インクルーシブな環境。
- グラフィックデザイナー/UDプランナー
- 田代浩史
「海山時間」は2021年に神奈川県逗子市にできた放課後等デイサービス。小学生から高校生までの発達障害、知的障害、ダウン症などの子どもたちが放課後に利用する施設。一人ひとりの個性や特性が違いダイバーシティ&インクルージョンを実感できる場所です。
New Horizon Collective(以下NH)も2021年に誕生。電通のミドル・シニア世代の社員が早期退職し、個人代表や法人代表となり、NHと業務提携し、人生100年時代の新たな価値想像にチャレンジしています。
多様な個性の子ども達と、新たな道を歩み始めた湘南にゆかりのある6人の大人達が、サマーウィークを一緒に過ごしました。海や山に恵まれた湘南ならではの取り組みをご紹介します。(2022年8月2日〜4日に実施しました。)
- 前回のクリスマスの記事はこちら→ https://cococolor.jp/umiyamajikan_220414
大人が作る子どもの秘密基地
私たちNHメンバーが行う体験プログラムは3回目になります。今回は子ども達がどんなことがしたいか施設の方に事前にアンケートを取っていただいたところ、秘密基地を作りたいとの答えがありました。秘密基地と聞いて私達も子どもの頃を思い出しみんなでワクワクしました。
材料はできれば自然の素材が良いと思い、地元葉山の海の家にご協力いただき、使わなくなった竹をいただきました。設計はメンバーの一人が子ども達のサイズなどを考えながら、色々な遊び方ができるように工夫しました。
8月2日、竹を搬入して、お庭の木陰の辺りに製作を開始。基地にぶつかりそうな枝を取り払い、場所を確保しました。元々の設計通りに行かないのですが、そこは現場で創意工夫です。
私達はアート・工芸・デザイン・DIYが得意なメンバーもいますが、ノコギリ初挑戦のようなメンバーもいます。大人の方も今までやったことなかったことにチャレンジして成長しています。
穴を掘って土台の竹を埋め、メインの梁を渡し、形が見えてきました。とても暑い日でしたがここまで1日で作ることができました。
大人がやっていると子どもも一緒に作り出す
大人達が一生懸命作業をしていると、興味を持った子どもが近寄ってきます。そして自分もやってみたいと言いますね。この時はインパクトドライバーで竹に穴を開けていたのですが、注意深く見守りながらやらせてみました。子どもが興味を持ったことに挑戦できるようにするには大人の配慮と成長を喜ぶ姿勢が必要になります。そして何より一緒に同じものを作るというのが楽しいのです。
子どもの個性・いろんな才能があることに気付いて生かす
私が秘密基地に掲げる旗を描いていたら、絵の大好きな子が自分も描きたいと言い出しました。彼は普段から施設にいる間は室内で絵を描いています。庭での基地作りには興味を持っていなかったのですが、旗を一緒に作ってくれました。
普段使わないアクリル絵の具が楽しかったようで、一枚で良かったのですがその後も止まりませんでした。
また、飾り付けになるようにタコの枕に絵や模様を描いてもらう用意もしていました。このタコノマクラは葉山の漁師さんにいただいたたものです。漂白すると真っ白になり良いキャンバスです。個性的なものが出来上がりました。
子ども達が喜ぶ姿が本当に嬉しい
今まで会社員として働いていた時はどうしても仕事優先になってしまい、地域の活動はほとんどできませんでした。個人事業主になり、NHに参加したからこそ時間や精神的な余裕も生まれ、地域の課題にも気づくことができました。
一人では踏み出すことができなかったこのような活動にも同じ思いを持つ仲間の存在があったからできたのだと思っています。私だけでなくどのメンバーも海山時間での子ども達との関わりに喜びを感じています。
ここに来る子ども達は、学校では評価されず生きづらさを感じているそうです。
しかしここでは私たち大人に媚びたりしません。自分がやりたいと思わなければ絶対にやりません。そんな彼らが喜ぶ姿は本当に嬉しいのです。
竹で楽器も作りました、音楽は子ども達を優しく育みます
メンバーの一人がヴァイオリニストで、他のメンバーも音楽好き。せっかく竹があるので楽器作りにも挑戦しました。一つは竹で作るオカリナです。ヴァイオリニストのメンバーが資料を探して、必要な材料と作り方をノートにまとめています。オカリナ本体とリードの間に隙間がないように作らないと良い音が出ないのですが、すぐに上達する子もいました。
もう一つは打楽器。2種類の音が出るので、とても楽しい楽器です。作るのが難しい部分は大人がやりましたが、叩くだけなら子どもも楽しめます。
最後にみんなでヴァイオリンに合わせて「富士山」を合唱。庭全体に音楽が広がり、この音楽が世界中に広がるような気がしました。
子どもを楽しませるにはまず大人が楽しむ
今回の秘密基地作りは、子ども達に新しい遊び場を提供できたことに加えて、コロナ禍で施設の中だけではどうしても手狭になってしまうという課題も解消することができました。私たちの活動のモットーは「まず大人が楽しんで作っていると、子ども達もやってみたくなる」です。それはこの施設の考え方からヒントを得たもので、すべての子が同じことをできるわけではなく、同じことをやりたいわけでもありません。だから、無理に何かをやらせるのではなく、やりたいと言って来た子にやってもらいます。
子育ては親や学校だけでなく地域ぐるみで行うべきです。湘南の海や山の恵みと、地域の人達に支えられて、障害のある子ども達が胸を張って生きていける世の中を目指したいと思います。
また少し余裕のできた大人達が地域の子ども達とのコミュニケーションを楽しむ機会が少しでも増えると世の中も温かくなっていくと思います。
二階建ての秘密基地ができました! Photo:H.Tashiro
放課後等デイサービス「海山時間」
https://umiyamajikanhouday.wixsite.com/umiyamajikanhouday
ニューホライズンコレクティブ合同会社
https://newhorizoncollective.com/
取材・文: 田代浩史
Reporting and Statement: Hiroshi Tashiro
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31 Oct. 2023
アクセシビリティーを担保しながらも、場の雰囲気を大切にするフィンランドのユニバーサルデザイン。
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