松村亜里先生から学ぶ、 心理的安全性を高める方法
- クリエーティブ・プロデューサー
- 小川百合
2012年にGoogleが「心理的安全性は、生産性の高いチームに重要」と発表したことで、注目を集めた「心理的安全性」という言葉。社内会議などでも度々耳にしますが、具体的にどういう状態なのか?なぜ必要なのか?そもそもどうやって「心理的安全」な状態をつくるのか?ポジティブ心理学者の松村亜里先生を社内セミナーにお招きして教えていただきました。本記事はそのセミナーレポートになります。
心理的安全性とポジティブ心理学
心理的安全性とは「たとえ対人的なリスクをとってもこのチームは安全である」という共通の認識をメンバーが持ち、言いたいことが言え、勇気を持って挑戦ができる人間関係の質を指します。心理的安全性が高いと生産性が高くなるだけでなく、幸福度も高い状態になります。
一方、ポジティブ心理学は何が問題なのかではなく、何が上手くいっているのかを研究するという心理学のパラダイムシフトが起きたことで生まれた学問です。
ポジティブ心理学で幸せな人を研究してわかったことは、心が健康で、体が健康で、社会的にも満たされた状態の人はみな良い繋がりがあり、仕事にもやりがいを感じていることでした。
講演中の松村先生。ニューヨークよりオンラインでの開催でした
1946年にWHOがウェルビーイングを「病気でない、弱っていないということだけでなく、心理的、身体的、社会的にバランスよく満たされた状態」と定義しました。
ウェルビーイングという言葉は医学の分野で使われており、心理学の分野では使われていませんでしたが、ポジティブ心理学の研究で幸せな人はウェルビーイングということがわかりました。ポジティブ心理学には強みを知って使っている人が幸せという考えがあり、そのコンセプトがウェルビーイングにはないという違いがあります。
ウェルビーイングの6つの分野
ウェルビーイングは6つの分野に分かれるという研究があります。心理的、身体的なウェルビーイングと4つの社会的なウェルビーイングです。ウェルビーイングな側面は多い方が幸せという累積効果があり、病気にもなりにくいです。またキャリアウェルビーイングが高いと他も高まりやすく、つまり仕事のやりがいはとても大切です。
キャリアウェルビーイングの指標「ワークエンゲージメント」
職場でのキャリアウェルビーイングを考えたときに外せないのがワークエンゲージメントです。ワークエンゲージメントが高いこと=キャリアウェルビーイングが高く、ワークエンゲージメントは熱意、活力、没頭の3つの要素からできています。
ワークエンゲージメントが高い社員は幸せで精神的に健康な傾向が強く、組織へのコミットメントが高く、主体的で積極的で向学心が高いといわれ、イノベーションも起こりやすく、売り上げも上がるという良い循環が起こります。欠勤も少なくなり、離職も減るため、会社が負担する離職に関する経費も減ります。
ワークエンゲージメント調査では、企業で働いている人のワークエンゲージメントは低いという結果が出ています。苦しむ代償でお金をもらっているという考え方があるのかもしれません。
もうひとつ面白い研究があります。職場には4つのタイプの人がいるという仮説です。
縦軸は活力が高いか低いか、横軸は楽しみが高いか低いかで、ワークエンゲージメントが高いのは右上の活力も楽しみも高いタイプ。同じように活力が高くワークエンゲージメントに似ているけれど楽しみが低いのは仕事中毒タイプ。楽しみは高いけど活力は低い9時5時タイプは仕事に対して受け身。楽しみも活力も低い燃え尽きタイプは仕事中毒が続いた後になることが多いです。
他にも指標がありチャレンジとスキル、熱意のつり合いです。エンゲージが高い人はどれも高いところでつり合っている状態で、スキルが高いのにスキルに見合ったチャレンジする仕事がもらえないのが9時5時タイプです。
ワークエンゲージメントと仕事中毒は表面上、似ています。しかし、エンゲージメントは熱意から仕事をし、仕事中毒はちゃんとできないと価値がないという恐れから仕事をします。
この研究では親子関係まで遡っていてエンゲージメントが高い人は親から無条件に愛された人で、仕事中毒の人はちゃんとできた時だけ愛された経験から、条件付きの自己肯定感が育った人と発表されています。
仕事のストップルールにも違いがあり、ワークエンゲージメントは楽しくなくなったら、仕事中毒は十分にできたら。つまり、いつまでも出来ないことで燃え尽きてしまいます。
今日からすぐできる心理的安全性を高める方法
心理的安全性が高まるとワークエンゲージメントが高まり、だれでもどこからでも高めることができます。例えば、毎朝挨拶するなど、ちょっとした行動が心理的安全性を高めることに繋がります
心理的安全性は成長も幸せも両方を推進しますが、「あなたはそのままでいいよ、何も挑戦しなくていいよ」というのは心理的安全性ではありません。自分のコンフォートゾーン(不安がまったくない状態)から出て、挑戦することでも高まります。
関係性・自己効力感・自律性・目的意味・多様性・強みの6つの要因を意識することが大切で、真ん中にある強みは全部を高める万能薬です。
その中から、関係性、自己効力感、多様性、強みについてご紹介します。
①関係性を良くする
職場の人間関係はとても大事で、関係性は心理的安全性の土台です。職場での人間関係が良い人はワークエンゲージメントも高くなるという調査結果があります。良い関係性があると失敗を恐れずに挑戦ができ、人に助けを求め、求められ、どんどん関係性が良くなるという相互関係があります。職場では仕事だけをしていればいいのではなく、上司と部下、横の関係も大切ということです。
関係性を高める方法のひとつにACR(積極的建設的反応)があります。良い関係性を作るときに、相手が困っているときに話を聞いてあげるのがいいと思いがちですが、実はそうではなくて相手の良いニュースにどれだけ一緒に喜び、関心を持つかで人の関係は決まります。最近あった良かったことをチームで共有し、関心を持ち一緒に喜ぶことで関係性はとても良くなるので、ぜひやってみてください。
②自己効力感を高める
自己効力感とは「やればできる、できないかもしれないが挑戦してみよう」という気持ちです。ワークエンゲージメントには自己効力感が影響しますが、世界と比べると日本はとても低いです。
怖いけど挑戦し、その場が安全だと気付いたときに心理的安全性が高まり、心理的安全性が高いとリスクを恐れずに挑戦できて自己効力感は高まるという相互関係があります。
自己効力感の高め方は「能力は生まれつきではなく、練習すれば伸びる」という考えを持つことです。方法としてプロセスにフォーカスすることをご紹介します。上司が部下を褒める時に、結果を褒めることがあります。すごく出来が良いとか、早くできたとかです。そうではなく、どのくらい頑張ったか、どう工夫したのか、そのプロセスを褒めることが大事です。人格や能力を褒められると、次の結果が悪いと否定されるという不安が生まれて怖くなりますが、努力を誉められると努力することに価値があると思えるのでまた頑張れます。
③多様性を尊重する
多様性は組織の生産性を高めることがわかっており、多様性に優れる経営陣を持つ企業は収益が高いという調査結果があります。
多様性を歓迎することが大切で、個人のニーズ(価値観やライフステージなど)を尊重し、みんな違ってみんないいというのが多様性に優れたチームです。
④強みを知る
上司が部下の強みをみているとワークエンゲージメントが高まります。弱みではなく強みに注目することが大切です。
また自分の強みを知って使うことも、ワークエンゲージメントを高めるひとつの方法です。無料の強みの調査を受けて、ぜひあなたの強みを知ってください。
https://www.viacharacter.org/Survey/Account/Register
「ACR(良いニュースを喜ぶ)」、「プロセスにフォーカス」、「ニーズの表明と尊重」、「強みに注目」の中の出来そうなところから取り組んでみてください。本日の講演内容が今後の働き方に役立つと嬉しいです。
セミナーを終えて
心理的安全性はリーダーがつくるのではなく、だれでもつくることができ、今日からすぐできるアクションもいろいろとあることを知りました。
仕事は人生の一部に過ぎないといわれる時代ですが、自分自身の働き方に対する視点を見直すことは自分の生き方を考えることにも繋がるように思いました。
松村亜里
医学博士・ポジティブ心理学者
母子家庭で育ち、中卒で大検取得。朝晩働いて貯金し、単身渡米する。
英語学校卒業後、NY市立大学に入学。首席で卒業後、コロンビア大学院修士過程(臨床心理学)、秋田大学大学院医学研究科博士課程(公衆衛生学)修了。NY市立大学、国際教養大学でカウンセリングと心理学講義を10年以上担当。2013年、NYライフバランス研究所を設立。
現在は、世界中を旅しながら、オンラインや世界各国でセミナー開催し、世界中に住む日本人を対象にポジティブ心理学を様々な場所に応用する方法を伝えている。自分の人生の舵を取り、幸せな人生を創造できる人を増やすために、最新のエビデンスを毎日の生活にとり入れやすい形で提供中。
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