社会問題を自分ゴト化するきっかけを与えてくれる問題解決型学習とは?授業へ潜入!
- ソリューションプランナー
- 菅巳友
■PBL型授業とは?
「PBL(Project Based Learning)」という言葉を聞いたことはありますか?
PBL(問題解決型学習)とは、学生自らが問題を見つけて解決する能力を養うための学習方法です。
従来のように、教員が多くの情報量を授業時間内にテキストや黒板を使って生徒に伝えていくものとは異なる点で、近年注目されています。
■都立大泉高等学校・附属中学校の取り組み
今回は、このようなPBL型授業の一環として先進的な取り組みとも言える、都立大泉高等学校・附属中学校の探究の取り組みについてご紹介したいと思います。
同校は公立の中高一貫校であり、学生自らが様々な社会問題をテーマに、問題解決に向けたアイデアを主体的に模索し、実際にアクションまでつなげる、探究型のカリキュラムが導入されています。
中学1年次から開始され、最初は自己探究を通して自分の興味・関心ごとから研究を始めつつ、最終的に中学3年次には、様々な社会問題の中から自身が関心のあるテーマを見つけ、問題解決に向けて他者を巻き込んだアクションを加速させていく取り組みです。
■取り組みの背景にある思い ~社会問題の自分ゴト化~
近年、様々な社会問題がメディアで取り上げられる中、単にそうした情報を目の当たりにするだけでは、なかなか身の回りの社会問題を自分ゴト化して捉えることは難しいように思います。
同校ではこうした状況に着目し、探究活動を通じて中学生のうちから社会問題を自分ゴト化するきっかけを与えることで、さまざまな状況下にある他者の声に耳を傾け、対話し、自分で考え、行動に移せる大人への一歩となるようなプログラムを提供しています。
■実際の報告会の様子
今年の1月下旬に行われた実際の学生達による活動報告の様子です。
実際の報告会では、多種多様な社会問題がテーマとして取り扱われていましたが、その中でも学生の関心が最も強い分野として、DEIをテーマとした報告が多くみられました。
今回は、その一部をご紹介します。
- あなたはどうする?~子どもにLGBTQ+だとカミングアウトされたら~
これは、実際にある班が保護者向けに作成した、LGBTQ+に対する理解を促すためのリーフレットです。
LGBTQ+をテーマにしていた班でしたが、子ども世代と親世代でのLGBTQ+に対する理解度の差に着目し、親世代のLGBTQ+に対する差別意識をなくすべく、リーフレットを作成するアクションを取っていました。
リーフレットを受け取った親からは、「ニュースやSNSでの情報はそのまま流してしまうが、子どもからもらったものだと興味を持って読み込むことができた」「自分には関係ないと思いがちだったが、もしかしたら子どもが苦しんでいるかもという視点をもらった」などの意見が出たことで、今回のアクションが親世代のLGBTQ+に対する差別意識をなくすことに貢献したという報告を行っていました。
- ラベリングしていませんか?~創作絵本で幼児期から伝える多様性~
ラベリングとは、個人の先入観や固定観念を通して、人物や物事の評価を決めつけたり、固定的に定めてしまったりすることを指します。
こちらの班は、「ラベリングは幼少期の経験に基づいて形成される」という仮説のもと、学生自らが性の多様性について触れられる絵本を作成し、実際に幼稚園児に読み聞かせを行うアクションを取っていました。実際に作成した絵本がこちらです。
あえて性別に関する直接的な表現を避け、多様な生き方や選択肢があることを提示する構成にするなどの工夫が施されており、作成した絵本をより多くの人に手に取ってもらうにはどうすれば良いか、といった部分まで検討が行われていました。
全体の報告を通して、あらゆる社会問題に対する解決策・アクションが見られましたが、どれも中学生ならではの視点と、独自の切り口から課題が設定されていました。
その中でも、特に親世代のLGBTQ+に対する偏見や、差別意識に違和感を抱いている生徒が多くみられ、こうした「親世代との認識のズレを解消すること」に課題を設定していた報告がいくつかみられました。子どもは親の価値観にある程度影響を受けて育つといった側面もありますが、一方で、今回の報告会の中では、親の価値観と自分の価値観を照らし合わせたうえで、誤った認識があればそこに対して疑問を抱き、アクションを起こすといった生徒達の姿も見受けられました。
また、同じテーマを扱う班もいくつかありましたが、同テーマだったとしても、どこに課題を置くか、解決に向けてどのようなアクションを取るかといった方針は、各班で異なり、発表にもそれぞれの個性が出ていました。
■学校側の取り組みについて
同校の教員である三好健介先生は、こうした授業を継続して実施していくうえで、生徒自身のモチベーション向上のため、さまざまな取り組みを行っています。
今回の報告会では、外部からカメラマンを呼んで生徒達の発表の様子を撮影したり、生徒達の発表内で引用された研究を実施する調査機関や専門家、民間企業などが招待され、生徒達の発表に対して、関係者からのフィードバックを行う機会を設けました。
また、発表内では、生徒同士で互いの報告に対する評価を行い、最終的にはランキング形式にして校内で発表されるようになっています。
このように生徒達自身で考え、取り組んだことが校内外で評価される仕組みづくりが徹底されており、生徒達はただ授業に取り組んだだけで終わるのではなく、自分達の発表がどう良かったのか、また改善すべき点があるとしたらどこなのかといった部分をしっかりと振り返ることができます。
加えて、PBL型の授業を行うにあたっては、取り組みにおける更なる質の向上を狙い、授業の冒頭に、実際のコンサルティング業務で利用されているような考え方におけるフレームワークの基礎を教え込むといった工夫も行っていました。
■学校側が抱える問題
都立大泉高等学校・附属中学校では、生徒が社会問題を自分ゴト化し、保護者の理解を得ながら、地域と協働した取り組みを行えています。
しかし、様々な現場の先生方は、
このような取り組みを学校として継続していくべきなのか?
今まさにこうした問題に直面しています。
このような探究型のプログラムにおいて、特に進学校などでは、大学受験で必要とされる科目として直接的に関与しないことから、多くの保護者から取り組みへの理解を得ることが難しい問題があります。
三好先生も、プログラムの実施当初は、受講した生徒から取り組みの意義について質問を受けたと言います。
プログラムの成果を明確に数値化できないため、この取り組みの意義が曖昧になってしまい、結果として保護者や他の学校からの理解が得られない状況が生じているのです。
■改めて考える、PBL型授業の意義とは?
こうした取り組みの意義については様々な観点から考えることができますが、今回の発表を拝見して強く感じたのは、問題について深く掘り下げて考え、自力で解決の糸口を見つける経験を積むことができるという点です。
多くの人がテスト勉強やあらゆる知識を身に着けることに集中してしまいがちですが、PBL型授業は蓄えた知識を活かして、本当の問題はどこにあるのか分析し、どうしたら解決まで導けるかについて考える力を養うことができます。
また、これまで学んだ知識のみならず、新たに必要な知識を自らの力で取得したり、外部の人とコミュニケーションを取ったり等、社会と自分の距離が一歩近づき、普段の授業では身につかない力・経験を得ることもできます。
一つの問題に対してあらゆる解決方法が存在し、様々な切り口から解決策を検討することで、異なる結果が得られるということ、正解は常に一つではないということを実感と共に学べることも貴重な経験です。
このように、ある問題と向き合って習得した知識を応用しながら、解決に近づくといった経験を学生時代に持つことが、今後の人生においてもアクションを起こす際のモチベーションや勇気へ繋がるのではないしょうか。
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