「人」を借りる図書館。欧州発・ヒューマンライブラリーという試み。
- 共同執筆
- ココカラー編集部
来たる11月7日より、渋谷区にて4年目を迎える超福祉展というイベントが開催されます。
「Human Libary(ヒューマンライブラリー)」というのは、欧州最古の音楽フェスと呼ばれるロスキルドフェスティバルに発祥を持つ、市民による対話プログラムです。(脱線しますが、ロスキルドの過去のヘッドライナーのリスト見ると、キンクスとかラヴィシャンカルとかいてヨダレ出ますね、、、2018年のヘッドライナーが先日発表されたそうで こちら BrunoMarsが出るんだとか、、、)
日本では「生きている図書館」との別名を持ち2008年から展開されてきました。図書館に行くとフツー「人」は「本」を借りるわけですが、このHuman Libraryでは「本」を借りる代わりに「人」を借ります。 図書館で”人文”ですとか”科学” “社会” “歴史” など「本」のジャンルがわかれているように、それに相当する「人」のジャンルは”性的虐待” “難民” “ホームレス” などさまざまで、そんな多様なバックグラウンドを持った「本」役の「人」の話を聞く(読む)というコンセプトの企画なのであります。(※今回の企画では、本を読む=対話の時間は30分。)
日本ではシブヤ大学の吉川真以さんが、ものすごい情熱で取り組まれています。とにかくパワフルな実践者です。今年はなんと合計80名近くの「本」役の方をアレンジしています!渋谷の多様なバックグラウンドを持った方々が「本」役として一挙に集結!というわけなのです。 昨年2016の活動実績はこちらから
そして、先週末の合同説明会には(荒れ狂う台風の強風の中・・)「本」役の候補となって頂いている方々にお集まり頂き、こんなリハーサルというかミニHuman Libraryが実施されました。
10/29(日)@渋谷ヒカリエ8F リハーサルの様子
なんでも、音楽フェスの一角で若者たちがドラッグ・アルコール依存の方の話を実際に聞くという小さな催しが起源だったということで。音楽フェスでこういう社会性の高い企画が生まれるあたりがなんとも欧州らしいエピソードだなぁとか思うわけですが、日本では早くからこの概念に共感し実践を積み重ねてきた方々が今年、日本ヒューマンライブラリー学会を開設されています。
その学会の理事長を勤めていらっしゃる駒澤大学の坪井先生のお話(独自に行ったアンケート調査結果について)を伺って、ぼくがとても興味深いなと感じたのは以下のようなことです。
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ヒューマンライブラリーに参加した読者のマイノリティに対する「関心の度合い」は高まる一方、「同情・憐れみ」が低まる。
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「本」役になった方の満足度が非常に高い。
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これまで宗教が提供してきていたような「自助グループ」「カウンセリング」などの機会を、ヒューマンライブラリーは”非宗教的”な方法で提供していると言える。
-1.-について。対話を通じて「排他的」な考えが消えていく、ということだと思います。むしろ対話によって相互理解のエナジーが生まれるということ。デジタルメディアの世界では相手が物理的に見えないがゆえに、ひとはコミュニケーションの対象を攻撃したり、あるいは遠ざけるような言動・振る舞いを起こしがちです。ところが、ひとは同じ屋根の下に放り込まれると、たとえそれがどんなに嫌いな相手だったとしても、一緒に生きていく覚悟が決まれば(覚悟を強いられる場合でも)お互いを理解しようと心を働かせるものなのではないでしょうか。攻撃したり、遠ざけるのは、相手が目の前にいないからであって。実際に触れていないからであって。共に生きることを真摯に考えるとき、はじめてフラットな関係になれるということ。「かわいそうだなぁ」「怖いなぁ」などの感情は消える、ということでしょうか。
-2.-について。別の言い方で ” ナラティブ効果 ” と説明されていました。自身のストーリーを表に出すことで新たな自分に気付いたり、自信につながったりすること。結果的に癒されていく現象。これも、たまにあります。たとえばOB訪問みたいな機会を終えて、どちらかというとその学生より自分の方が自分を見つめ直したなぁ、みたいなことでしょうか。”物語る”行為には、そんな効果があるようです。世界中の作家たちは、もしかしたら自分の救いのために物語をつくっているのかもしれない・・・
-3.-について。そういえば、ぼくの母はカウンセラーで見事にクリスチャンでした。キリスト教の世界では「懺悔」「告白」、仏教の世界では「法話」といった手法で機能していた機会ですね。宗教の違いを超えて対話を機能させるフレームとして、ヒューマンライブラリーはきわめてニュートラルな対話体験の場づくりを目指しているのかもしれません。
先日の第一回日本ヒューマンライブラリー学会に参加した際、欧米で実践されている事例についても議論がありました。今年2017年春、UKではビールのブランドであるハイネケンがHuman Libraryとコラボレーションしたこんな動画作品を展開しています。
高まる欧米の(世界の?)”分断”に対して、対話の重要性を訴えかける試みかなと、最初は大きな期待を抱いて映像を見ていましたが、よくよく調べて行くと一回性のプロモーション/イベントのようでした・・・内容は、見ず知らずの全く立場の違う人間ふたりが突然出会い、対話をさせられる(ビールを真ん中に置いて)というもの。日本でこれを実現したら、「ここでビールかよ!」というツッコミの声が聞こえてきそうなこの動画。とはいえ、社会的なメッセージ発信に企業が肩入れをしている点に、欧米と日本との大きな違いを感じます。CSVの意識の違いとも言えるのでしょうか。
ところで日本では、自分の話を人前で話すことを躊躇する空気があると思います。一概に、それに日本が、というのは危険ですが。とにかく、あまり自分のことをひけらかすことを、美しいとしないと言いますか。一方で、本国デンマークのHuman Libraryの姿勢は「もっともっとみんなのストーリーを話そう!戦おう!」というテンションで、結構アグレッシブです。舶来の概念と、日本の人々に潜む精神性との間にひずみがありますね。ぼくは欧米の概念も、日本の風土も、どちらも素敵だと思っています。必要なのは、こうした舶来のコンセプトを日本式にどう定着(翻訳)していくか、の視点だと思っています。もしかしたら日本ではHuman Libraryと言わなくても、もっと定着しやすい対話のプログラムがあるかもしれないですし。定着というか、独自の変形に向けて、さまざまなハイブリッドモデルが生まれていくと良いなと思っています。今回は、毎日新聞社さんにサポートの輪に入っていただくことができました。市民の手から、メディアや企業、行政など巻き込んだ動きとしてどんどん活動が発展していくと良いなと思います。
というわけで、いずれにしましてもみなさまぜひ11月7日(火)から13日(月)の期間、渋谷の街にお越しの方は渋谷CASTに足を運んで見て下さい。課題たくさんの中で取り組んでいるイベントではありますが、きっとなにか感じて頂けるものがある催しになると思っています。乞うご期待!
※あなたが読みたい「本」の事前予約が、以下HPから可能です。
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