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30 Aug. 2018

「こどもは未来」こども環境学会2018・インタビュー編

「こども環境学会」はどんな想いから誕生したのでしょう。そのクリエイティブな発展を支える先生方にお話を伺いました。

仙田先生
学問領域横断型「こども環境学会」の目指す姿と可能性
– こども環境学会代表理事/東京工業大学名誉教授 仙田満先生-

ユニバーサルデザインを実現し、野球観戦だけではなく「家族でふらっと遊びにいけるスタジアム」としても名高い広島県のMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島の設計者でもある仙田満先生は、こども環境学会の創立者にして、東京工業大学名誉教授、株式会社環境デザイン研究所会長も歴任されていらっしゃいます。

単一または隣接する学術領域での共同研究や学会開催は一般的ですが、こども環境学会は、建築/都市分野(全体の31%)をはじめ、教育/保育分野(31%)、福祉/行政分野(12%)、保健/医療分野(5%)と専門分野が多岐にわたっています。会員の所属も大学機関のみならず、民間企業、小中高等学校、幼稚園・保育園、自治体、NPO、病院・医院と多様です。(※会員構成は2018年4月現在)

なぜこのように学問領域横断型の学会としたのでしょうか。「こどもの環境づくりに50年近く携わり、2001年~2003年は日本建築学会会長を務めました。その中で、例えばこどもが過ごす”園”という環境をつくるときにも、建築や造園だけで課題を解決するのは難しく、自治体や福祉、教育といった幅広い領域の視点で解決しなければならないと強く感じていました。こどもという存在は、大人の作っている”縦割り”の垣根を超える総合的な存在だと僕は捉えています。こどもたちのことを出来るだけ色々な領域の人間が、一緒に考えていく、そうゆう場が必要なのです」と仙田先生は語ります。

仙田先生は「幼少期~青年期に渡って山や斜面がある環境で育つかどうかということが運動能力に影響を及ぼす」という研究結果に関心を抱いています。人間の運動能力は、一般的にその90%が8歳までに完成すると言われていますが、日常的に山や斜面を上り下りするという運動が筋力の発達に大きく影響します。こどもが過ごす環境のなかに、段差や斜面があることを危険だと思われる方もいるかもしれませんが、実は大事な役割を担っていると、仙田先生は考えているのです。

フィジカル面のみならず、メンタル面についても、環境がこどもに影響を与えています。近年は「どのような空間で過ごしているか」が小児のうつ病の要因の一つになると注目されていて、「あそび」や「くらし」のための空間的環境が与える影響に心を寄せています。幼児期の物理的な経験は、フィジカル・メンタルともにその後の生き抜くチカラを身につけるとても大切なものです。先生は今後も「建築×医療」、「建築×保育」、或いは、「建築×医療×保育」といったように、さらに共同研究を活性化させていきたいと熱く語ってくださいました。

「こども」について語る先生方の真剣で優しいまなざしに心を打たれ、今後の展開に向けて期待に胸が膨らむひとときでした。

 

仲先生
あらゆる分野で「こども」が語られる世界に

– こども環境学会2018年大会(埼玉)実行委員長/東洋大学准教授 
仲綾子先生 –

今年の「こども環境学会」の大会実行委員長を務めたのは、東洋大学の人間環境デザイン学科で教鞭を執る、仲綾子先生です。仲さん自身も二人のお子さんを持つ、子育て中のお母さん。日頃から複数の草鞋を履いての生活をされていますが、この一年はその上に更なる大役を背負って日々を過ごしてこられました。

今年の大会のテーマ「こどもは未来」に、仲先生は熱い思いを抱いてこられました。これからの未来を担うのは、当然のことながら「こども」たちです。「こどもは未来そのものであり、こどもたちのことをないがしろにすることは、私たち自身の未来をないがしろにすることです」と仲さんは強調します。「こどもは未来」は、こども環境学会が創設された時から、ずっと学会に通底していたテーマだったのではないか、と思わされますが、仲先生が特にこのテーマにこだわるのには理由があります。

仲先生の専門は建築で、以前よりこどもに視点を置いた仕事をされて来ましたが、「建築」という学界の枠組みの中で、「こども」に関することが、他の分野に比べて軽んじられていると感じることが気になっていました。そして、これをきっかけに、文学や写真など、他の分野でも同じ状況があることに気づくようになりました。「こども」に焦点を当てた研究や仕事は、重要な領域であるにも関わらず、各分野において充分なプレゼンスがないと感じられたのです。

そこで仲先生は、分野の枠組みを越えて、横で連携して行けば、こども事案を世の中でメジャーな分野に押し上げるパワーを創ることが出来るのではないだろうかと考え、同じ思いを持つ様々な世界の人たちとつながってきました。今回の大会でも、研究者、実践者、そして当事者などなど、とにかくあらゆる分野の人たちが、それぞれの垣根を越えて集まって交流をして欲しいと願っていたそうです。二日間の大会を終え、「想像していた以上に学際的な大会になったのではないでしょうか」と、満足そうな笑顔を見せられました。

「連携」と「地域へと開いていくこと」
「学際的」と言えば、今回の大会では埼玉県と川越市が共催者として名前を連ねていたのが目を引きました。仲先生のお話を伺っていると、大会の計画当初から、川越市の担当者のところに足繁く通い、話し合いを重ね、信頼関係を築いた結果、最終的に共催の形で行政が参加をすることになったことが伺えます。現在の子どもを取り巻く諸環境を改善していくために、行政のリーダーシップは不可欠です。その意味で行政が今回の研究大会に参加したことは、とても意義のあることだったといえるでしょう。

今回の研究大会は、川越市の施設「ウェスタ川越」で行われました。学会の研究大会は、大学が会場となることが多いように感じていたので、市の施設で開催することになったいきさつを尋ねてみたところ、「学会を地域に開きたかったから」と答えて下さいました。大学という、ちょっと一般社会からは隔絶された場所ではなく(実際、大学のキャンパスは駅から遠くて、行くのに一苦労というところも少なくありません)、一般市民の皆さんが普通に行き交う場所に会場を設定したということです。会場の選定にも、こども環境学会の神髄である「垣根を取り払う」というプリンシプルが生きていたのを知り、「なるほど」と思わず膝を打ちました。

 

三輪先生
多くの人に伝えたい「まち保育」のススメ
– 2018年大会(埼玉)実行副委員長/横浜市立大学准教授 三輪律江先生-

こども環境学会では毎年、「論文・著作」「デザイン」の二つの分野に対して「こども環境学会賞」を設けています。2017年の「論文・著作表」を受賞した「まち保育のススメ」(萌文社)の編著者のお一人、三輪律江先生にお話を伺いました。

「まち保育」とは「乳幼児期のこどもを地域全体で見守り、育てて行こう」という考え方です。三輪先生はこれまでずっと「こども」と「まち」との関連性を都市計画の視点から研究して来ました。その過程で保育園がまちの中で孤立していることを感じたと語ります。

確かに近年、保育園が町の迷惑施設のように捉えられるケースを度々耳にします。また、保育園のこどもたちがよく使うであろう公園も、こどもたちの声がうるさいなどの理由で苦情の対象になってしまっているのが現状です。一方で待機児童数増加の問題が顕在化する中で、保育園の数は増える傾向にあります。そのような社会の矛盾に気づいたことをきっかけに、三輪先生は調査を始めたのです。

その結果わかったことは、まちづくりの計画の中で、保育園側の声が聞かれる場が設けられていないという実態でした。例えば、公園を整備や管理をする際に、行政は周辺住民への説明や、意見の吸い上げを行います。しかし、実際に公園の使用頻度が高い保育園や幼稚園にはほとんどコンタクトがなく、そこにギャップが生じていることがわかりました。子育ての現場からはまちが必要とされているのに、まちの側からは園やこどもの存在が見えていない状況だったのです。

そこで、三輪先生たちは、「こどもたちの方が積極的にまちに出ていく」という実践を始めました。まちの2つの保育園に協力してもらい、まちに散歩に出かけ、まちのあちこちを訪ね、観察し、更に地元の人たちも巻き込んだお散歩も企画することで、まちの大人たちと、こどもたちとが交流する機会もつくりました。始めはなかなか地元を巻き込むことが難しかったそうですが、防災をテーマにお散歩を実施したり、いつものお散歩道の庭先の花等に楽しませてもらっていることに対して”ありがとうカードを渡すワークショップを実施した際には、地元の人たちから保育園に対するシンパシーが感じられ、地元とつながったという実感があったそうです。保育園の側にも、「自分たちもそのまちの住民だ」という意識が生まれたのだとか。

三輪先生たちは「まち保育」には4つのテーマがあるといいます。「こどもたちをまちで育て」、「こどもたちがまちで育ち」、「まちがこどもたちを育て」、最終的には「まち自体が育つ」というものです。上記のお散歩のケースで、地元の人たちと保育園、そしてこどもたちの間に有機的なつながりがつくられたのは、3つのテーマを経て、4つ目の「まちが育つ」という段階に到達したことを示しているのではないかと感じました。

ところで、この「まち保育のススメ」は、パッと見は絵本のような体裁をしています。中の文章も平易な言葉で書かれていて、私のようなこの分野に知見がない者でも楽に読み進められます。かと思うと、硬い学術論文満載の参考文献リストもきちんと収録されていて、硬軟が相まった作りになっています。三輪先生たちはどのような読者層を想定されていたのでしょうか。

「そもそもは保育者の副読本の性格を持った本で、前半はそのようなつくりになっているけれど、後半は建築の専門家の人たちの参考にもなる形にした」そうで、多分野の行政の人たちの参考書も意図しているという三輪さんの言葉を聞いて、まさに「こども環境学会」の学際的な性格を反映した本だと思いました。

こどもの育成を、町全体で見守る形を作って行くためには「こどもにとってまちは不可欠なものであること、そして誰もが小さなアクションでこどもの育ちに関われるんだということについて、とにかく社会一般の認知度を上げることが急務なのです」と三輪先生は強調します。今回の学会賞受賞が「まち保育」の考え方が広まる新しいきっかけになるのではないかと考えました。

 

取材・執筆 原田容子

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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