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Nov.

2024

interview
16 Jun. 2014

Ability not Disability 〜「切断ヴィーナス」という「出会い」〜<1>

<「障害」という言葉を越えて>

『切断ヴィーナス』。この力強く美しい言葉から、あなたはなにを想像するでしょうか。2014年5月、この言葉をタイトルに掲げた一冊の写真集が出版されました。手がけたのはパラリンピックを撮影する写真家、越智貴雄さん。モデルは、義肢装具士・臼井二美男さんのつくる義足を身にまとう、11人の個性溢れる女性たちです。

『切断ヴィーナス』と名付けられた作品が最初に世に発表されたのは、2013年4月。東京で開催された写真展でした。それから一年。「カッコイイ」「衝撃的」などとインターネットや雑誌を通じて話題となったこの作品は今、「写真集」という形でより多くの人たちの手に届くものとなりました。

「『障害』という言葉に対して人々が勝手に抱いている『かわいそう』『がんばっている人』『支援が必要な人』といった思いこみの壁を壊したい。だからこそ、ひとりでも多くの人たちに、写真を通して、彼女たちが前向きに生きる姿を伝えたい」。そう願う越智さんの思いが、実現されたのです。

切断ヴィーナス・カバーver2OL

<義足を得たことで拓かれた人生>

 本の出版を記念して写真展が開催されています。5月31日に開催されたトークイベントには、9人のヴィーナスが集まり、越智さんと臼井さんによる司会進行で、撮影時のエピソードや、写真集に参画した理由、感想などが紹介されました。そのうち3名の方にお話を伺いましたのでご紹介します。

トークショー風景
トークイベントの様子。越智さん(左手)、義肢装具師の臼井さん(右手)がヴィーナスたちを囲んで

 
【小林久枝さん】
小林久枝さんは、先天性の病気が原因で2010年に右ひざ下を切断し、義足生活となりました。以前は病気による足の痛みや奇形が気になり、人に自分の足を見せることがコンプレックスだったという小林さんにとって、切断は「希望でしかなかった」そうです。そして、義足をつけることをきっかけに「自分には何ができるのか」ということを以前よりさらに積極的に考え、神輿担ぎ、着物、サーフィンと、それまで諦めていたことに次々とチャレンジし、活動の幅を広げていきました。今は、義足であることを誇らしくも感じているとのこと。

「障害のある人たちの中には、まわりの人の反応や社会からの無言の圧力のようなものを気にして、身体を隠さなくてはならないと感じている人たちもいます。そういう人たちが、この写真集を見ることで、何らかの前向きなきっかけを得てくれたら嬉しいなと思います」。

切断ヴィーナス・カバーver2OL
小林久枝さん / 撮影:越智貴雄

【大西瞳さん】
義足アスリートとして活躍する大西瞳さんは、病気が原因で2000年に右足を切断。心臓にはペースメーカーを装着しています。義足歴も長く、明るい笑顔が印象的な大西さんですが、切断直後は「もう人生は終わった」と考えるほどひどく落ち込んでいたそうです。そんな大西さんを変えるきっかけとなったのが、臼井さんの主催する「ヘルスエンジェルス」という切断者スポーツクラブとの出会いでした。

自分に合う義足を身に付けて、存分に活躍する切断者たちと知り合うことで、前向きな気持ちを取り戻すことができたのです。現在は公務員として働く傍ら、NHK障害者情報バラエティー番組「バリバラ」の司会者としても活躍している大西さんですが、実は人前で話すことはあまり得意ではないとのこと。「普通に生活している人たちが、義足をつけている人たちを目にする機会が少しでも増えれば」という思いから、メディアに積極的に出演しているそうです。

「自分を変えたきっかけがそうであったように、今楽しんで生活している自分を見てもらうことが、障害というものに対するイメージが前向きに変わることに少しでもつながればと思っています」。

大西さん最終
大西瞳さん / 撮影:越智貴雄

【佐藤陽子さん】
「切断ヴィーナス」の表紙を飾る写真のモデルとなった佐藤陽子さんは、6年前に事故で左足を失い義足となりました。入院中、女性として生きていくことを悲観していた佐藤さんは、偶然、義足の女性が義足でミニスカートを履き出演する番組を目にして衝撃を受けます。「瞳さんの前向きな姿を見ているうちに、自分の悩みがばかばかしく思えてきたんです」。

佐藤さんは義足を得たことによって、「ふたつの世界」を生きる感覚を得たと言います。ひとつは、義足になる前の、今まで当たり前と感じてきた世界。そしてもうひとつは、義足になってからの世界。

「義足になったことで、素直な、飾らない自分になれたように思います。本当のやさしさというものを身にしみて感じられるようになりましたし、人の持つやさしさ、葛藤、悩みといったことを、以前よりも気づけるようになりました。写真集は、これまでお世話になってきた人たちに、ていねいに届けていきたいと思っています」。

佐藤さん最終
佐藤陽子さん / 撮影:越智貴雄

次回は、越智さんに伺った「切断ヴィーナス」への想い、そして「障害」についてのお話を紹介します。

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「切断ヴィーナス」写真展
日時:5月23日(金)から6月27日(金)午前10時〜午後6時(土日祝休み)
会場:ハッセルブラッドストア東京(東京都渋谷区)
入場料:無料
展示枚数:大型銀盤プリント13点
★詳細:越智貴雄ブログ
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-この連載の記事-
Ability not Disability 〜「切断ヴィーナス」という「出会い」〜 <2> 

越智さんプロフィール

越智貴雄
1979年、大阪生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業後、ドキュメンタリーフォトグラファーとして活動。ライフワークとして、2000年から国内外のパラリンピックスポーツの撮影取材に携わる。
2004年よりパラリンピックスポーツ情報サイト「カンパラプレス」を主宰。写真は、報道、広告、写真展など数多くの媒体で使用されている。2013年より、義肢装具士・臼井二美男氏の作成した義足を使用する女性たちにフォーカスした「切断ヴィーナス」の撮影に精力的に取り組んでいる。

越智貴雄ブログ  http://www.ochitakao.com/ 
カンパラプレス http://www.ochitakao.com/

取材・文: co-maki/今井麻希子
Reporting and Statement: co-maki-imaimakiko

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