ガンバ大阪のプライドマッチ~パナソニックグループのLGBTQ+アライアクション~
- 副編集長 / クリエーティブディレクター/DENTSU TOPPA!代表
- 増山晶
スポーツにおけるダイバーシティ尊重の取り組みが進んでいます。国際オリンピック委員会は2014年、オリンピック憲章に「性的指向による差別禁止条項」を追加しました。2021年に行われた東京オリンピック・パラリンピックでは、LGBTQ+を公表しているアスリートの出場がそれぞれ2016年リオデジャネイロオリンピック・パラリンピックの約3倍と、史上最多になりました。しかし、その中に日本選手はゼロでした。
日本サッカー協会は、JFAサッカーファミリー安全保護宣言やJFAセーフガーディングポリシーにおいて、LGBTQ+を含む差別禁止を明文化しています。誰もがスポーツを安全に、安心して楽しむためには「LGBTQ+アライ*マインド」が大切なのではないか?10月21日、そんな思いを形にした、パナソニックホールディングス株式会社がスポンサーとしてサポートするガンバ大阪のプライドマッチ(スポーツの試合を通じたLGBTQ+理解促進の取り組み)が、パナソニックスタジアム吹田で行われました。
*LGBTQ+ のことを理解し、支援のために行動するLGBTQ+フレンドリーな人。英語の「ally(同盟、仲間、味方、支援者)」が語源。
ガンバボーイはレインボーカラーのTシャツ、宇佐美主将はレインボーカラーのキャプテンマークを付けた ⓒGAMBA OSAKA
今回のイベントの企画に携わられた、パナソニックグループでDEI推進に取り組む金子由利子さん、内田賀文さんに取材しました。
パナソニックグループ金子さん(右上)、同内田さん(左下)、cococolor福居、増山
■そもそもパナソニックグループはダイバーシティにどのように取り組んでいるのでしょうか。
(金子さん)パナソニックグループにおいては、「パナソニックグループ コンプライアンス行動基準」で、各国の法令を踏まえ、性的指向、性自認に関する差別的言動を行わないことを明記しています。多様な人材がそれぞれの力を最大限に発揮し、だれもが働きがいのある環境づくりを目指しています。
「パナソニックレインボーネットワーク(Panasonic Rainbow Network)」(以下PRN)は、LGBTQ+の当事者と、その支援者・サポーターであるアライのための社内コミュニティです。先日の関西レインボーフェスタでは、グループから参加した約250名がプライドパレードに参加しましたが、これは昨年の約30人の8倍以上となりました。しかし、イベント参加での盛り上がりの一方で、日常の職場でのアライマインドは、まだ十分に根付いているとは言えない段階だと思っています。
(内田さん)社外からはパナソニックグループのDEIの取り組みを評価していただくことは多いのですが、自分たちではまだまだだと感じることも多いです。ただ、アライイベント等への参加者の増加もあり、世の中のDEI尊重の傾向もあり、しっかり推進していかねばと考えています。LGBTQ+に限らず、国籍、障がいの有無に関わらず、多様な人々が本当に生き生きと働けるように取り組んでいます。
■今回のガンバ大阪の試合でのLGBTQ+アライアクション実施のきっかけはなんでしょうか。また、今回のイベント企画と実施に至るまでのエピソードをお聞かせください。
(金子さん)PRNとパナソニックグループは昨年、ガンバ大阪マスコットキャラクターのモフレムのキーホルダーを配布するアライの理解促進イベントを共催し、今年は2回目となります。ガンバ大阪のホームゲームにおいて、場外ステージやフィールドでのプログラム、シールブック配布など、多くの接点でアライマインドを伝えるイベントを実施しました。
スタジアムの外でも多くのブース出展が ⓒGAMBA OSAKA
レインボーTシャツは、事前レクチャーでひとりひとりがきちんとレインボーカラーやアライについて理解したうえで身にまとい、エスコートキッズは堂々とフィールドを歩き、ガンバガールはLGBTQ+クイズや応援を盛り上げました。
レインボーカラーのTシャツのガンバガールとモフレム ⓒGAMBA OSAKA
パナソニック ホールディングス株式会社の楠見雄規CEO、パナソニック株式会社の品田正弘社長のツートップによるキックインセレモニーや、レインボーのキャプテンマーク着用、選手からのメッセージボードなど、プライドマッチのシンボリックなアクションを行いました。トップ登壇による発信は、社内外への大きなアピールとなったと感じています。
ツートップによるキックインセレモニー ⓒGAMBA OSAKA
■「LGBTQ+とALLYブック」は、どのような思いで作られましたか。
(金子さん)先着18,000名に入場ゲートで配布した「LGBTQ+とアライブック」は、楽しく遊びながら学べるシールブックです。子どもたちにLGBTQ+とアライマインドについて知ってほしいという思いで作りました。子どもが読めば大人も一緒に読みますし、サッカーについての記事もある、モフレムや選手のシールもあるにぎやかなシールブックなので、ファミリーに限らず、だれもが手に取りやすいものとなっています。
(内田さん)言葉の細かな説明の前に、大きな意味をくみ取ってもらえるよう、同時に間違った情報を発信することがないよう、有識者であるプライドハウス東京にデザインや構成を監修してもらいました。
「LGBTQ+とALLYブック」
■電通ダイバーシティ・ラボ発行の「アライアクションガイド2023」も参照していただき、ありがとうございました。
(金子さん)アライアクションガイドは、work with Pride*で紹介されて知りました。特に「性のあり方はひとそれぞれ」という部分が、分かりやすくて参考にしました。
*企業などの団体において、LGBTQ+、すなわちレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーなどの性的マイノリティに関するダイバーシティ・マネジメントの促進と定着を支援する団体。
■イベント当日は私もスタジアムにお邪魔しましたが、スタジアム場外でのガンバガールのLGBTQ+クイズでは、思っていたよりも子どもたちの正解率が高く驚きました。
(金子さん)LGBTQ+クイズでは、全問正解されたお孫さんと一緒に参加した祖父の方から、自分の時代はこんな話を聞く機会はなかったが、孫との会話の中で自然にこういった話題に入れるのは良いことだという感想をいただきました。幅広い年齢の方に届けられて良かったです。
ガンバガールによるLGBTQ+クイズ ⓒGAMBA OSAKA
また、「LGBTQ+とALLYブック」について、数組のご家族にインタビューをしました。未就学児や小学校低学年の子どもに対しては、説明が難しい、まだ理解できない部分もあるかもしれないという声がありましたが、子どもたちが触れて楽しめるシールブックであり、保護者が自分なりに考えて説明をする中で、大人にとっても気づきのあるものになったのではと思います。
「LGBTQ+とALLYブック」を楽しむ親子 ⓒGAMBA OSAKA
■最後に、これまでと今後のアライアクションについて、思いをお聞かせください。
(金子さん)LGBTQ+の理解促進、アライマインドの醸成は、知るきっかけをつくる、アライの表明を促す等、地道に続けていくことが大切だと考えています。今回のプライドマッチや、関西レインボーフェスタ、東京レインボープライドといったイベントは、きっかけづくりのひとつに過ぎません。アライを知る、アライの輪を広げるといった草の根のアクションと、キックインセレモニー等で会社の姿勢を示す会社側のアクション、それらの両輪が必要だと思います。
(内田さん)一過性のイベントをやって終わりではなく、参加者からの提案を次につなげ、仲間を増やしていくことが大切です。一気に増えていくものではないですが、継続するなかで、次々にアイデアが発信され、アライの存在が可視化され、仲間が増えていくことにつながると考えています。
プライドマッチが行われたスタジアムには、いい笑顔がたくさんありました。アスリートであれ、観客であれ、スタッフであれ、スポーツを楽しむ時に大切なのは、LGBTQ+を含むすべての人の心理的安全性を保障することではないでしょうか。それはもちろん、すべての人の人権をまもることでもあります。この日ひとつのスポーツマッチで提案されたアライマインドが、スポーツのフィールドで大きく広がっていくことを願います。
共同取材:福居亜耶
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