プライドを持って、オープンに :Work with Pride –東京レインボープライド2016-
- 共同執筆
- ココカラー編集部
「work with Pride」。それは、企業などの組織で、LGBT・性的マイノリティに関するダイバーシティ・マネジメントの促進と定着を支援することを目的とする任意団体の名称です。昨年は「2020年に向けた、理想の職場像」をテーマに東京レインボープライドに初出展(参考:多様な性や生き方と出会おう -東京レインボープライド)。2年目となる今年は「職場でオープンにすること」を問う「Open with Pride」をテーマに掲げました。ブースでは「職場でオープンの人を知っているか」「職場でオープンであることをどう思うか」という問いに対し、当事者、支援者(アライ)それぞれの立場から多くのコメントが寄せられました。今年の東京レインボープライドに寄せて感じることは何か。日本IBMに勤務し、work with Prideの運営を担う川田篤さんに伺いました。
職場で、オープンでいられるか?
編集部:
work with Prideが設立してから今年で5年。東京レインボープライドへの出展は昨年に引き続き2年目になりますね。昨年と比べて、どんな変化を感じていますか?
川田さん:
ブースの数が増え、出展者も多様化していると感じます。東京レインボープライドが設立された当初は、出展者も来場者も、LGBT関連団体や当事者がほとんどでした。今年は昨年と比べて、更に一般企業の出展が目立ちます。
編集部:
work with Prideのブースにも多くの方が訪れているようですね。昨年は「理想の職場像とは」がコンセプトでしたが、今年はさらに踏み込んで「職場でオープンであること」についての意見を求めていらっしゃいます。
川田さん:
職場でカミングアウトして、オープンでいることができないのは何故か。もちろん職場の理解も必要ですが、一方で、LGBT当事者からも「オープンにしても大丈夫」というメッセージを広げていくことが大事だと考えました。自分自身はオープンにしたことで嫌な思いをしたことはないですし、むしろ良かったと感じています。そういう、プラスの情報も伝えていきたいと考えたのです。
(職場でオープンにしているかどうかを問うアンケート。青いシールが当事者の回答)
編集部:
それは、川田さんのお勤めの日本IBMでは、カミングアウトを受け入れる職場環境が整っていたということの表れとも言えますか?
川田さん:
IBMは行動規範に「性別違和、被服や容貌その他によって示される性別表現、性的指向」で差別を行うことが禁止されています。具体的な社内の取り組みとしては、1984年の就労規定で、「性的差別禁止規定」が全世界共通に設定されました。日本では2004年に有志による当事者コミュニティがつくられ、2012年には人事制度の見直しも行われました。2014年末からは、福利厚生制度も同性のカップルに対しても適用されるように改正されています。
編集部:
理念として「多様性の尊重」があり、社内の受け入れ体制も徐々に整備されていったのですね。
川田さん:
その背景には、「すべての人が自分らしく生きることによって、よりよい成果をあげることができる」というIBMの姿勢があるのだと思います。
編集部:
社内での環境整備に加え、川田さんご自身も、LGBTに関して積極的に発信をされていらっしゃいますね。
川田さん:
そうした活動の成果もあってか、新卒の採用面接の時に、LGBTであることをカミングアウトされることもあります。今年のレインボープライドで、IBMブースの運営を手伝っているボランティアメンバーのうち半数は新入社員です。LGBTについて若い世代の人たちが関心を持ち、世の中を変える原動力になっていることを感じますね。
編集部:
一方で、IBMの行動規範にあるような多様性を受け入れる考え方が、企業文化として浸透していない企業も、日本には少なくないのではないでしょうか?
川田さん:
確かに、まだ「うちの会社にはそういう人たちはいないから」という声を耳にすることもありますが、LGBTへの否定的な意見は、全体数からは少数で、多くの人たちが、アライ(理解者)だと、私自身は感じています。ですから、本当は当事者ももっと、勇気を出して発信していいはずなのだと思います。
(職場でオープンにすることが難しい理由。用紙を色分けすることで、当事者(水色)とそうでない人のコメントの違いがわかるようにした)
LGBT指標の発表に向けて
編集部:
work with Prideでは、現在、日本版のLGBT指標を準備中だそうですね。
川田さん:
7月に公開予定で、現在(取材時)、素案についての意見を募集しています。今年10月に開催予定のセミナーは「open with Pride」をテーマに、 に、収容人数700人の大きな会場で開催予定ですが、そこでも指標についてご報告する予定です。
編集部:
セミナーに参加する企業も毎年増えているそうですね。その動機はどこにあると感じますか?
川田さん:
他社の取り組みを知りたいと考えている企業の方が多くいらっしゃると感じています。例えば、人事部同士の交流の場はあっても、そういった場では「LGBTについてどう取り組むか」といった深いレベルのことまではなかなか話ができていないようです。ですから、work with Prideに参加することによって、こういったLGBTへの取り組みについて情報を得たり、意見を交換する場を持つことが、いい機会になっているのだとおもいます。
編集部:
work with Prideに参加された企業からの、反響はいかがですか?
川田さん:
早速アクティブに活動されている企業さんもあります。例えば、ラッシュジャパンさんは、2014年のセミナーに「一参加者」としていらしたのですが、翌年には登壇者として、自社の事例を紹介するほどになられました。
編集部:
ラッシュジャパンさんの取り組みは、以前cococolorでも取材しました(参考:ラッシュジャパンのLGBT支援コミュニケーション)が、キャンペーンを通じて、社内外に大きな反響があったと伺いました。
川田さん:
日系企業としては、ライフネット生命保険さんがLGBT向け商品を開発したことをきっかけに、他の日系生保の企業の間でも関心が高まりました。「同性パートナーも生命保険の受取人として認める」というように「具体的なニーズ」が見えてきた分野では、対応する商品サービスの開発が早いようです。
(10月には、都内にて”Open with Pride”をテーマにしたセミナーが開催される)
編集部:
企業がLGBT対応することに、どのようなメリットがあるでしょう?
川田さん:
従業員の方には、多様性が尊重されて働きやすい環境を提供することになりますし、こういった制度があることは、新卒採用時の学生の応募にも影響を及ぼすと感じています。
編集部:
昨年のwork with Prideで予告された、日本版のLGBT指標の準備も進んでいるそうですね。
川田さん:
はい、企業やNPOなど関心を持った方々約40団体の参加のもと、検討を重ねて草案をつくり、現在、ホームページで意見を募集しています。
編集部:
指標提供の狙いは何でしょう?
川田さん:
過去のwork with Prideセミナーのアンケートで多いのは「どこから取り組んでいいのかわからない」という声です。また、既に取り組みを持っている企業にも、「他社と比較した上で、自社の取り組みは評価できるものなのか」、「さらにできることはあるのか」を知りたいというニーズがあります。このような企業にとって、指標は、自社の取り組みを推進したり改善を図る上でのヒントとして役立てていただけると思います。
編集部:
work with Prideとしては、指標をどのように活用していく予定ですか?
川田さん:
一方的な評価とならないように、チェックシート的にも使えるものとして位置付けていただけたらと考えています。できるだけ多くの企業に活用いただきたいので、質問項目も、「大企業にしか対応できないこと」と思われる内容がないように心がけています。
編集部:
公開後の反応が楽しみですね。
川田さん:
そうですね。私たちの活動を取材してくれているあるメディアの方で、「報道するばかりでなく、自社も対応を進めたい」と上司に掛け合い、数ヶ月で役員の決裁を取り付けた話もありました。
編集部:
役員のポジションにあるような方の理解や賛同を得るのは、ハードルが高いという声も聞かれますが、そのあたりはいかがでしょうか。
川田さん:
確かにそういう見方はありますが、そこにはもしかしたら、こちら側の思い込みもあるかもしれませんよね。人は心理的に、不安な情報に影響を受けやすく、10人中1人でもLGBTに関する偏見がある人がいると、「差別されたらどうしよう」と怯えてしまいがちです。もしこれを「9人はサポートしてくれる人がいる」と捉え直すと、状況は違ってきますよね。
編集部:
カミングアウトしやすい社会づくりに向けて、今年は益々、work with Prideからの発信に注目が高まりそうですね。どうもありがとうございました。
(インタビューに協力くださった、Work with Pride /日本IBMの川田さん)
参考:
Work with Pride
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