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Dec.

2024

interview
20 Jul. 2021

「食」から世界を学ぼう! 学生団体BohNoインタビュー

小川百合
クリエーティブ・プロデューサー
小川百合

食を通して、子どもたちに世界を知ってもらう活動をしている学生団体「BohNo」。その代表を務める立命館大学 樋口陽香さんに「BohNo」を立ち上げた経緯や活動に対する想いを伺いました。

 

自分の知らない世界を知ることは人生を変える

 

学校の授業で世界の貧困について学び、自分の目でも確かめたくなった
樋口さんは高校2年の時にSGHのプログラムに参加してフィリピンへ向かいます。そこで目にしたのはスモーキー・マウンテンというゴミ山で働く
5歳くらいの子どもたちの姿。こんな世界があるのかと驚愕し、自身の価値観が大きく変わる経験をしました。課題意識が生まれ、大学ではラオスや
タイの子どもたちへの教育支援にも参加する中で、ふと疑問がよぎったと言います。


リモートインタビューの様子

「日本の子どもたちには、このように世界の課題を知る機会があるのだろうか」と。そこにはかつての自身の姿も重なりました。
幼少の頃から16年間、勉強よりもピアノを優先した生活を送り、1日3時間以上に及ぶ練習は常に孤独との闘い。コンクールでの輝かしい成績とは
裏腹にピアノを楽しむことができないという葛藤を抱えていたそうです。「当時の私は自分にはピアノしかないと思い込み、ピアノ以外の世界を
知りませんでした。何らかの事情で世界を知る機会がない子どもたちへ、視野が広がるきっかけを作りたいと思いました。」樋口さんのその想いが「BohNo」の活動へ繋がる第一歩でした。

 

身近な食を通し、世界の文化や課題を伝えたい

 

子どもたちに世界の文化や課題を伝える時に、身近な「食」という糸口を通すことで楽しく受け取ってもらえるのではないかと樋口さんは考えました。


規格外のニンジン。不揃いでも美味しさは変わらない。

目を付けたのは「規格外野菜」。大きさや形、色などが市場で定められた規格にあてはまらない野菜です。日本では野菜の生産量の約3割が「規格外野菜」として廃棄処分されています。理由は規格をクリアした野菜で取引や流通をスムーズに行うためですが、見た目が綺麗で美しいものを買いたいという消費者意識も影響しています。
「規格外野菜」は出荷前の廃棄となるため、その廃棄量は政府が統計として出している食品ロスには含まれていません。日本国内でまだ食べられるのにもかかわらず廃棄されている食品は年間600トン(農林水産省及び
環境省『平成30年度推計』より)
といわれていますが「規格外野菜」を
足すとさらに増えることになります。


規格外野菜を知るために住み込みの農業アルバイトへ。廃棄される野菜を目の当たりに。

「味は変わらないのに誰にも気付かれることなく捨てられてしまう規格外野菜をレスキューして様々な国のお弁当を作る。それを子どもたちに食べてもらい、食の多様性を体験しながら、世界の文化や課題について学んで欲しいと思いました。」樋口さんはこのアイデアを関西SDGsユースアイデアコンテストにぶつけたところ、企業賞を獲得することができました。
その副賞としてアイデア実現のサポートがあり「BohNo」の活動は実施に向けて動き始めました。

 

子どもたちに知る機会の平等を

 

「BohNo」の活動で樋口さんが重視したことがありました。それは、子どもたちの「知る機会の平等」です。日本では義務教育があっても学ぶ機会が平等でないという「教育格差」が社会問題となっています。
子どもの貧困率は13.5%という調査結果がでており、これは7人に1人の子どもが貧困状態であるという数字です。(厚生労働省『2019年 国民生活基礎調査』より)貧困による教育機会の格差は将来の選択肢を狭め、
所得格差を生む原因になるともいわれており、日本の教育格差は先進国の中でも極めて深刻というユニセフのデータもあります。

「子どもたちのための公平性:先進諸国における子どもたちの幸福度の格差に関する順位表」
https://www.unicef.or.jp/library/pdf/labo_rc13j.pdf(参照2021/7/14)

「家庭環境に影響されず、どんな子どもたちにも世界を知り視野を広げる機会を届け、「BohNo」で知ったことを今後の進路に役立ててもらえたら嬉しい。」と樋口さんは熱く語ります。
「BohNo」の名前にもその想いが込められていました。

Broaden our horizons, No obstruction

子どもたちも私たちも障がい無く、視野を広げようという意味で、頭文字をとって「BohNo」。「わけありの野菜だって美味しい(ボーノ)!」とのダブルミーニングです。

「BohNo」の活動はさまざまな子どもたちが集まれるように、地域交流の拠点となるこども食堂と繋がりのある淀川区社会福祉協議会に協力してもらい開催することが決まりました。

 

君の一口が世界を知る第一歩

 

今年の2月から2カ月に1度のペースで「BohNo」のワークショップはスタートしました。子どもたちに伝える世界の国々は樋口さん自身の価値観が大きく変わったフィリピンから始まり、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、オセアニア、北アメリカ、南アメリカから7カ国を選定。
子どもたちは規格外野菜を使った各国のお弁当を食べながら、世界一周
気分も味わうことができます。


規格外野菜で料理を作るBohNoメンバー(上)完成した韓国のお弁当(下)

6月に行われた「フランス」がテーマの回に筆者も親子で参加しました。
コロナのためオンラインでの開催となりましたが、全国から20名の子どもたちが集まり、フランスの基礎知識やフランスの食文化に影響を与え始めたヴィーガンについて学びました。

日本の子どもたちには耳馴染みのないヴィーガンですが、「BohNo」メンバーの大学生が楽しく分かりやすく解説。ワークではヴィーガンのお友達が家に遊びに来るという設定で、レシピ集の中から栄養分を考慮しつつ、主菜・副菜・デザートを選び献立を完成させることで、ヴィーガンを身近に感じられる学びもありました。

「自分とは違う考えを知るのって面白い!」

これは、イベントの最後にあった言葉です。ヴィーガンに限らず、自分とは違う考えや行動に出会ったときに自分とは合わないと否定するのではなく、相手の立場に立ってみたり、その考えは面白いと捉えてみようということが子どもたちへ伝えられました。


みんなで声を合わせて「ボーノ!」(オンラインイベントの様子)

 

子どもたちの多様性を育むために

 

世界の文化や習慣の違いを知り、そして、その違いは受け入れて楽しむという「BohNo」から子どもたちに伝えられたメッセージは多様性を受容する上でとても大切な価値観だと思います。違いを否定したり排除してしまうことは様々な社会問題の起因になってしまう可能性があるからです。
子どもの年齢が低いほど、そのような排他的な意識はないと思います。
まずは私たち大人が違いを受け入れ、多様性を尊重する環境を整えていくことが重要だと改めて考えさせられました。

「BohNo」は「食から世界の国や、その国の問題を知ってもらい、子どもたちの理想の社会を考えてもらうこと」をゴールとして掲げています。
未来を担う子どもたちに「世界を知るきっかけ」を作り続ける「BohNo」の活動にこれからも注目してきたいです。
次回の旅先は「ガーナ」とのこと。
おいしい未知の世界への扉が子どもたちを待っています。

 

BohNoの活動内容はこちらから。
https://www.instagram.com/bohno.cafe/?hl=ja
https://peraichi.com/landing_pages/view/bohno/

 


樋口陽香(ひぐちはるか)
立命館大学 産業社会学部 4回生。

立命館中学校・高等学校(京都府)卒業。
特技は5歳から続けているピアノで大学2回生時には、
「ショパン国際ピアノコンクールinASIA」でアジア2位を受賞。
趣味は日本のテレビドラマを見たり、旅行をすること。
社会に出た後も世界と触れ合う機会を子どもたちへ届けたいと模索中。

 

※SGH(スーパーグローバルハイスクール)
 国際的に活躍できる人材育成を重点的に行う高等学校を文部科学省が指定する制度。

 

 

取材・文: 小川百合
Reporting and Statement: yuriogawa

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