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21

Nov.

2019

interview
29 Oct. 2019

「キャンサーペアレンツ」として生きる

2015年、35歳の時にステージ4の胆管がんと診断された西口洋平さん。働き盛りに突如突きつけられた「がん」という現実。当時奥さんと小学校入学前の娘さんがいた西口さんは「こどもにどう病気を伝えるか、どう接するか」という点で悩んだといいます。

がんを患ってからの西口さんの家族との向き合いかた、そしてこどもをもつがん患者のピアサポート(仲間同士の支えあい)サービスを行う一般社団法人キャンサーペアレンツの立ち上げや今後の展望について、現在も抗がん剤治療を行いながら精力的に活動する西口さんにお話をうかがいました。


こどもを持つがん患者として

がん告知当時、娘さんにがんであることを告知できなかったという西口さん。告知から5年近くが経ち、その後娘さんとの関わり方に変化はあったのでしょうか。
「告知当初は娘には自分から病気のことは言えませんでしたね。娘の前ではいいお父さんでいたいんですよ。それで妻から伝えてもらった。娘から直接病気について聞かれることはありませんが、具合が悪かったり、寝込んでいたりすると、こどもなりに気づいている。でも、以前からうちの家族、特に僕と娘には、しんどい時にはそれを笑いに変えるような気づかいがあったように思います。だからわりとあっけらかんとしていますよ」

キャンサーペアレンツの立ち上げにあたって、西口さんは「自分のようにこどもとの関係に悩んでいる同年代の人とコミュニケーションを取りたかった」と言います。
「がんの告知を受けた時、そして闘病中は孤独でした。病気の程度や向き合い方、家族との関係は人それぞれだと思いますが、『がん患者』としてはみんな同じような道を通っている。だからこういうコミュニティを立ち上げたことは無駄ではなかったと思うんです。こんな治療をしているよ、この方法は正しいのかな…話をしてみないと気づかないこともある。同じ境遇の人とつながることで、話すことで気持ちが楽になったんです。『ペアレンツ』という共通項を設けたのは、100万人といわれるがん患者のうち、僕と同じような小さなこどもを持つ患者が毎年6万人も増え続けている。だからお父さん、お母さんにターゲットを絞ることにしました。SNSを使ったコミュニティですから、ユーザーの層とやりたいことが一致しました。今後SNSはもっとニッチな分野になると思います。最初『がんパパ』という名前の候補もあったんですけど、『キャンサーペアレンツ』のほうがエッジが効いてるかなとも思ってこの名前になりました」

キャンサーペアレンツ設立当初の話をする西口さん



2016年4月に同級生と共同出資で「キャンサーペアレンツ」を立ち上げた西口さん。会員は自分一人という状況のなか、会員数を増やし、どこでお金を作って運営していくのかという課題がまず立ちはだかります。手探りのなか旅行会社や食品会社に片っ端からメールを送り、ビジネス化を目指したと言います。同時にキャンサーペアレンツの活動を知ってもらうため、新聞やテレビなどのマスメディアにもメールを送り続けましたがなしのつぶて。さてどうしたものか、という時に一本のメールが西口さんを救います。

「大手のメディアはどこも取り上げてくれない。そんななか、一社だけ反応を示してくれたところがあったんです。週刊誌です。ビジネス誌。ちょうど『死生観』という特集を企画しているところに『僕はもうすぐ死にます。これは最後の仕事です』という言葉がひっかかったみたいで(笑)。その記事が掲載されて、ウェブにも転載されちゃったから、それからの反響は大きかったですよ。掲載されたのが2016年の8月で、会員が一気に200人に増えました。これまで僕の連絡に反応してくれなかったメディアからも取材依頼があったりして。ただ、一気に会員数が増えちゃったもんで、最初にSNSを立ち上げた時に手伝ってくれたエンジニアの子に『これ以上はパンクします。無理です』って言われちゃって。これから、という時にどうしたものかな、と思ったらまた別の先輩が助けてくれました。エンジニアを紹介してくれたんです」

 

リスクファーストの医療現場を患者ファーストに

2019年10月現在でキャンサーペアレンツの会員数は3,300人を超え、がん患者のコミュニティとして大きな成長を遂げました。インタビューの締めくくりにキャンサーペアレンツの今後の展望についても西口さんは語ってくれました。

「キャンサーペアレンツはSNSのコミュニティです。だからもっとオンラインのやりとりを活性化したい。それと同時にリアルなイベントもやっていきたいんです。オンラインでのつながりが、オフ会の後に盛り上がる。そしてまた新しいつながりが広がっていく。2016年に初めて東京でリアルなイベントを開催しました。がん患者で絵を描くワークショップだったんですけど、まず自己紹介をする。自分の病気について語る。泣く人もいたりしてとにかく熱量がすごかったんです。その後会場の手配など、企業にも協力してもらって大阪や名古屋でもイベントを開催しました。今年の初めには福岡でも開催したんですよ。そこで感じたのは地方ほど課題が大きいのではないか、ということでした」

「今年6月に入院した時に、今まで3人だった理事を6人に増やしました。僕がいなくなってもまわるようにマネタイズしないといけないと思っています。あと、複数のプロジェクトからボードに入ってくれる人を探さないといけない。みんなが患者だと難しいので、がんじゃない人をどう取り組むかが課題です。キャンサーペアレンツは今4期目ですが、3期目にようやく黒字になりました。主に調査会社と共同でやっているがん患者への調査サービス『キャンサーベイ』の収入です。僕たちはがん患者3,000人分のパネルがある。製薬会社は患者の協力の見返りとして寄附しかできませんが、ビジネスライクにやった方がバジェットもある。

薬の副作用について、厚生労働省が口コミを禁止したので副作用について知りたいと思っても難しい現状があります。今の日本は患者ファーストではなくリスクファーストだと思いますね。患者さんの日記をテキストマイニングして、悩みや病気の特徴、特性を探る研究もしています。それはマネタイズの先に行くものとして、きっと社会に貢献できるものだと思っています」

がんを「生きる」「活かす」「つながる」

正直なところ、西口さんとお会いするまでは「がんと闘う人にどう向き合ったらいいんだろう」という恐れがありました。しかし、今回お会いして、その目力の強さ、まっすぐさ、そして軽妙な語り口に引き込まれながらのインタビューとなりました。

抗がん剤の副作用で決して体調が良かったわけではないにも関わらず、家族のこと、キャンサーペアレンツのことを力強く話してくださいましたが、最初にがんと告知されたとき、孤独を感じたと西口さんは言います。そして、自分と同じようなこどもを持つがん患者とつながりたいという思いがキャンサーペアレンツの立ち上げにつながり、今や3,300人を超えるネットワークとして、患者同士、患者と家族、患者と社会、多様なつながりを生み出しています。

 

西口さんのお話のなかで、地方でイベントを開催した時に、「地方ほど課題が大きいように思った」という言葉が印象的でした。地方という限られたコミュニティでは、病気というセンシティブな問題が、本人や家族の知らないところでひとり歩きしてしまう傾向があるように思います。そういった社会では患者は好奇の目に晒されることを忌み嫌い、また周囲も腫れ物に触るように接することで、患者の孤独が助長されているのではないかと感じました。キャンサーペアレンツのような、同じ境遇の患者同士がつながる場は地方にこそ必要なのかもしれません。

インタビューを終えて「キャンサーペアレンツ」が「こどもを持つがん患者のコミュニティ」という範疇を飛び越えたひとつのビジネスであり、西口洋平さんという一人の人間の生き方そのものであり、そして日本の医療が直面している課題を映し出す鏡のようなものだと感じました。一言では形容できない、規定することができない、それでいて多くの可能性を持ったもの…それが「キャンサーペアレンツ」ではないかと。特に、これまで拾い上げられることのなかった患者さんそれぞれの悩みや病気との向き合い方を医療や制度に反映させることで『患者ファースト』の社会が実現されるように希望を持たずにはいられません。

ひとりのがん患者が蒔いた種は、それぞれの患者や家族に、地域に、そして社会全体に根を下ろし、それぞれの環境で花開く日を待っているよう感じました。西口さんのお話を通して、私もがんとつながったような気がしています。それは決してネガティブなことではなく、未来を照らす灯りのような、ほんのりと明るい希望のようなものです。

取材陣で西口さんを囲んで

西口さん、ありがとうございました!


西口 洋平 氏

2015年、35歳の時にステージ4の胆管がんと診断され、現在も抗がん剤治療中。こどもを持つがん患者のピアサポートサービスを行う「一般社団法人キャンサーペアレンツ」の代表理事を務める。

(取材・執筆 川田麻記)

取材・文: SCP塾TEAM
Reporting and Statement: scpteam

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