参加したくなる場をつくる~地域コミュニティを強くするには~
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- SCP塾TEAM
■街が、まるごとキャンパス。
シブヤ大学は、渋谷の若者に地域や社会に関心を持ってもらうべく、行政が担っていた生涯学習事業を受託し、2006年からNPO法人として活動を開始。渋谷の街全体をキャンパスに、誰もが無料で参加できる「授業」を通し、性別・年齢・職業・国籍を超えて、人々が主体的に交じり合う場をつくっています。「シブヤでまなぶ・シブヤであそぶ・シブヤをつくる」といったシブヤ大学による様々な取組は、渋谷に限らず多様性のあるコミュニティづくりのヒントになるはずと考え、シブヤ大学の学長である左京さんにインタビューしました。
シブヤ大学の授業は、若手社会人のキャリア形成や渋谷の地域性を活かしたカルチャー講座などを中心に始まっていましたが、個人の豊かさに資するだけでなく、社会にとって必要な学びをつくることも大切という観点から、防災・ダイバーシティ・環境(エコ)などにもテーマを拡大し、行政とは違った切り口による、シブヤ大学ならではの生活者意識に寄り添った社会教育を実現しています。
■地域コミュニティを活性化させる挑戦:渋谷おとなりサンデー
2017年からは、シブヤ大学の枠組みを超えた地域振興の課題にも取り組み、渋谷に集う人々が社会階層やコミュニティの垣根を超えて顔見知りになることを目的として、パリの隣人祭り(アパートで起きた高齢者の孤独死をきっかけに、住人同士が隣人同士で顔の見える関係性をつくるべく、中庭で食事の持ち寄り会をはじめた)をヒントに「渋谷おとなりサンデー」を運営されています。
シブヤ大学運営の知見を活かしながら、渋谷に住む人・働く人・学ぶ人・訪れる人など誰でも、自分たち自身で地域での交流や活動を自由に企画できるWEBプラットフォームを立ち上げ、お祭りのようにみんなで楽しんで参加できる場づくりをサポートしています。
初回は39の交流の場が生まれ、翌年以降、期間を6月の1カ月に延長したところ、3年目を迎えた昨年は96の交流の場が生まれました。
初年度からの参加者が自ら実行委員会となり、おとなりサンデーを通じて知り合った人たちと一緒に公園で開くマルシェを企画した事例が以下動画にまとまっています。
近所の人たちと気軽に出会える場になるのみならず、イベントを通じて新しいコミュニティが生まれ、それぞれの持つ才能を生かしあいながら、自発的な「やってみよう」を創出できる場になっています。
■地域の居場所をつくる挑戦:まちのリビングをみんなでつくろうプロジェクト
おとなりサンデーのようなハレの日のイベントに加え、日常的に人々が関係を構築できるような場をつくる、ケの日のための活動も必要と考え、左京さんが所属する(一社)渋谷未来デザインから、区へ提案して行われたのがこの企画です。
まちのリビングをみんなでつくろうプロジェクトロゴ
有休施設を地域の人に開放することで、どんな人がどんな使い方をするかの活用状況を調査する実証実験として、閉館した旧笹塚敬老館を2019年7月から9月に期間限定で開館。
コンセプトは「屋根のある公園」。公園であることのポイントは、予約も占有もできない公共のスペースであるということです。
結果、もとは地元の人でさえ施設の存在を知らなかった場所に、口コミを通じて日を追うごとに来訪者が増加。朝は保育園送り後のお母さんや赤ちゃん、そしてお年寄り、午後には下校後の小学生、夕方にはもう少し大きい子どもたちが次々に訪れ、様々な年代が混ざり合う憩いの場となりました。
また、施設の受付をシルバー人材センターの登録者が、清掃員を若年性認知症の方が担われるなど、施設で過ごすだけでなく、社会との接点を持てる場としての機能も有していました。
地域のつながりが希薄になっていると言われていますが、左京さんたちの取組によって次々に生まれている、お互いを見守り、助け合える小さなコミュニティの原型を見ると、人は人と関わるきっかけや場を求めているのではと思いました。
そんな“場”をどうやってつくるか、多様なニーズを抱える人たちが暮らす社会において、それは本来一つのセクターだけで対応できることではありません。
地域の人自身が自分の暮らす場所や隣人に関心を持ち、主体性を持って自治活動に取り組むこと。
それを、誰かによる強制ではなく「楽しんで」実施できるよう企画にする、多様な民間のプレイヤーが地域に参入すること。
これを行政も積極的に受け入れること。
異なる視点を持つ、たくさんの人が協力し合うことが必要なのではないでしょうか。
「どれか一つではなく、Government(行政)・Market(市場)・Community(地域)それぞれにおけるソリューションが必要なのだと思います」と左京さんは語ります。
■左京さんのネクストステップ
今後、左京さんがさらに力を入れて踏み込もうとしているのが、福祉領域への取組みです。
それは、例えば介護、引きこもり、貧困、ネグレクトなど、問題を抱える家族への支援を行政が提供しようとする場合、それぞれ異なる部署の管轄になってしまい、包括的な対応をすることができない体制になっていることへの問題意識から派生しました。
民間での解決策の一つとして、地域の中で集約した軽作業(商店街の看板の架け替え、空き地の草むしり、洗車など)を、担い手となる地域の人とマッチングすることで、様々な人の居場所となるような、地域で見守り合える組織づくりのためのNPOを新たに立ち上げようとしています。
左京さんによる取り組みはいずれも、多様なプレイヤーが集まって、誰もが自主的に参加したくなるような楽しめる企画によって、地域の課題にアプローチする仕組みです。
そして、渋谷の課題は渋谷だけではなく、多くの地域に共通するものだと思います。それぞれに合った方法で、地域に関わる人同士がお互い助け合えるきっかけになるような小さなアクションが、たくさんの地域で生まれることが、強いコミュニティにつながっていくと感じました。
■左京泰明氏
1979年、福岡県出身。早稲田大学卒業後、住友商事株式会社に入社。2005年に退社後、特定非営利活動法人グリーンバードを経て、2006年9月、特定非営利活動法人シブヤ大学を設立、現在に至る。著書に『シブヤ大学の教科書』(シブヤ大学=編 講談社)、『働かないひと。』(弘文堂)がある。
(取材・執筆 岩橋里朗)
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