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17 Nov. 2020

カミングアウトが必要ない世界へ。Netflixと電通がカミングアウトデーに込めた願い

秋田ゆかり
ビジネスプロデューサー
秋田ゆかり

(この記事は2020年11月11日に「電通報」に掲載された記事を転載したものです。)

 

カミングアウトしたくてもできないLGBTQ

 

「私、レズビアンなの」

先日、友人が緊張した面持ちでこうカミングアウトをしてくれました。お互いの恋愛の話をしている際のことです。私自身、個人の恋愛は尊重されるべきと考えているので、特に気にしないことや、「好きな人とうまくいくといいね」という旨を友人に伝えると、「よかった。否定されなくて」とほっとした表情を浮かべました。

その彼女の発言を聞いた瞬間から、私は「アライ」(=LGBTQを含めた性的マイノリティーの人々を理解し、支援する人たち)を目指そうと思いました。LGBTQというだけで、自分の恋愛、ひいては自分自身を否定されるのではないか、という不安があるとしたらそれはおかしい、その不安を取り除きたい、と強く思うようになったのです。

 

彼女がカミングアウトをしてくれるまで、私の身近にはLGBTQをカミングアウトする人はいませんでした。

今、皆さんの身近にLGBTQに該当する方はいますか?

ひょっとしたら、「自分の周りにはいない」という方もいるのではないでしょうか。

 

LGBTが実は身近な存在であることは、データを見れば明らかです。電通ダイバーシティラボ(以下DDL)が行った「LGBT調査2018」では11人に1人がLGBTに該当すると答えており、この割合は左利きの方の割合とほぼ同じです。

 

(お断り:電通の調査は設計上、LGBTの中に「性自認や性的指向を決められない・決まっていない人」を含むため、実質的にLGBTQとほぼ同じ意味となります)

同調査では、「誰にもカミングアウトしていない」と回答した方が、過半数の65.1%に上ることも分かります。

このデータが示すのは、LGBTQの「該当者はいない」のではなく、「いるけれど、その方たちがカミングアウトをしていない」ということです。

また、カミングアウトに抵抗がある理由として「カミングアウトしやすい環境にはなっていない」「偏見を持たれたくない」など、周囲の環境に対するネガティブな意見が多く見受けられます。LGBTQの方に対する偏見や無理解が、カミングアウトを妨げている大きな要因になっていることを感じ取れるのではないでしょうか。

 

国際カミングアウトデーって?その日に込めた思い

 

こうした社会環境を改善したいという思いから、私は電通社内のメンバーに声をかけて、有志のLGBTQアクションチームを組みました。私たちが注目したのは、国際カミングアウトデー(英語:National Coming Out Day)です。

この日は1988年アメリカで、心理学者Robert Eichberg氏やロサンゼルスのLGBT活動家Jean O’Leary氏らによって制定されました。日本ではまだ有名なモーメントになっていませんが、自身の性的指向や性自認をカミングアウトした人々を祝い、人々の認識向上を目指す世界的な記念日になっています。

 

私たちが今回、国際カミングアウトデーに注目した理由は大きく二つあります。

一つ目は、カミングアウトデーを「秋」のLGBTQモーメントとして盛り上げたいと考えたからです。

LGBT関連の祭典で、日本で最大規模かつ知名度が高いものといえば「東京レインボープライド」(TRP)が挙げられます。毎年4~5月の「春」に開催されているイベントで、動員数を年々増やしており、2019年には、2日間で延べ20万人が来場しました。2020年はコロナの影響でリアルイベントとしては中止、オンラインイベントとして「#おうちでプライド」を開催し、45万人を動員しました。この春のモーメントに合わせてメディアも大きく取り上げ、LGBTの話題を春先に聞く機会も多かったかと思います。

ただ、今年は東京レインボープライドのリアルイベントに限らず、多くのLGBTコミュニティーのイベントや企業でのLGBT研修イベントが中止になるなど、新型コロナウイルスが原因でLGBTQの話題が形成されにくくなっていました。危機感を覚えた私たちは、2020年中にLGBTQ関連の話題醸成を図るため、春のTRPとは真逆のタイミングの秋の国際カミングアウトデーに、モーメントを創出したいと考えたのです。

 

二つ目は、「カミングアウトという行為自体をなくしていきたい」というチームの思いです。

自分の恋愛や好きな人のことについて話すことは、ごく自然な会話のひとつではないでしょうか。しかし、LGBTQの方が自分の恋愛や好きな人のことを話そうとすると、その行為は「カミングアウト」という大きなイベントになってしまっているのが現状です。

ゆくゆくはカミングアウトという形式が必要のない世の中に、という思いの下、カミングアウトデーをきっかけに、まずはLGBTQについて考える機会を世の中につくることを目指したいと考えました。

 

Netflixと取り組んだ「カミングアウトデー ブランドキャンペーン」

 

そんな私たちと同じ思いで、キャンペーンを通じてメッセージを発信したのがNetflixです。NetflixではLGBTQがテーマの作品や、LGBTQが登場人物の作品など、ジャンル豊かな作品を配信しています。それらのコンテンツが、理解や啓発に大きな役目を担ってきたことは言うまでもありません。私たちの企画にも賛同していただき、今回タッグを組むことになりました。

その思いを下記のタグラインで表現しています。

———————————-

10.11 COMING OUT DAY
この日、観てほしいシーンがある
 
 
どんな相手を愛し、どんな恋愛を望み、
どんな自分らしさを求めるのか。
それは、一人ひとり違う。
 
自分らしく、ありのままに生きることは、
誰にも否定できないということを、
このシーンは教えてくれる。
 
10月11日は、カミングアウトデー。
いろんな性のあり方を認め合い、
誰もがオープンにできる世界を語り合おう。
 
違ってあたりまえ。
そう思う人が増えれば、
カミングアウトなんていらない。
それは、自然な会話のひとつになっていく。
 
 
あたりまえのことを、あたりまえに言える時代へ。
NETFLIX

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※10月5〜11日 渋谷駅OOH

※同性パートナーシップ条例が日本で初めて成立したのは渋谷区

 

※10月11日朝日新聞 見開き広告(30段)

 

Netflixは今回の施策に対して下記のようにコメントしています。「一人一人が違ってあたりまえと理解する方々が増えることで、カミングアウトを取り巻く不安や緊張、さらには、カミングアウトという形式すらなくなるかもしれない。そんな未来を思い描き、『あたりまえのことを、あたりまえに言える時代へ。』というタグラインを掲げます。このキャンペーンをきっかけに、より多くの方々がLGBTQに関連するストーリーに触れ、お互いへの思いやりをもてる世界へ近づく一歩となることを願っています」

 

当事者の気持ちに寄り添う表現

 

私たちが、今回のクリエイティブで気を付けた点は、二つあります。

 

一つ目はカミングアウトデーだからといって、カミングアウトを推奨したり強制したりするつもりは決してない、という意思をきちんとメッセージとして伝えることです。

 

カミングアウトはとてもパーソナルな問題であり、カミングアウトを行うこと自体が正しいというわけではありません。したくなければする必要はないものです。だからこそ、施策によって言葉だけが独り歩きして、カミングアウトを推奨していくべきだという誤解を招くことだけはないように、丁寧な表現を心掛けました。

 

二つ目は、バランスよく作品を選定することです。

 

LGBTQである登場人物のバランスを軸に考えたことに加え、コピーとなるせりふを、ネガティブな気持ちになるものではなく、本人の誇り、強さ、本音が感じられるかを基準に選出しました。カミングアウトは決してネガティブなものでないことを伝えたかったからです。せりふをコピー化していく際には、違和感のある表現になっていないか、当事者の方にヒアリングを行いながら丁寧に進めていきました。さまざまな人の視点に立つことで、力強いメッセージを伝えることができたと思います。

 

実際に当日の様子を見ていると、このメッセージに共感したLGBT活動家や当事者、アライの方々を中心にキャンペーンがシェアされ、複数のメディアにも取り上げられました。また、たまたま広告を見た方からも「Netflixの広告を見てカミングアウトデーを知った」という声や、「胸を打つ広告」といった反響もあり、人々の心を揺さぶることができたと感じています。

 

MeltwaterによるTwitter投稿の分析も行ってみたところ、今回のキャンペーンに関連する投稿のインプレッション数は50万に達しており、1キャンペーンとしては大きい数字を出すことができました。また、カミングアウトデーに関連する投稿インプレッション数も2019年の500万から2500万と5倍ほどに伸長していることも分かりました。「#あたりまえのことを、あたりまえに言える時代へ。」というハッシュタグを使用した意見も多く見られ、キャンペーンの目的である「カミングアウトデーを通じたLGBTQの話題創出」を行うことができたと考えています。

 

「あたりまえのことを、あたりまえに言える時代へ。」

 

昔も今も多様な人々がこの社会には存在しています。

しかし残念ながら、その多様性を受け入れる環境が整っているとはまだまだ言い難い状況です。

 

これまで、日本ではダイバーシティ&インクルージョンの推進やLGBTQの理解浸透を目指した大規模な取り組みはまだまだ少ないのが現状でした。今回のNetflixの取り組みは、今後のダイバーシティ施策の試金石となるものだったのではないでしょうか。

 

このような取り組みが今後も続いていくことで、私の友人が何の恐れも抱かずに、自分の好きな人について自然に語れるオープンな世界が待っているのだと思います。

 

さあ、「あたりまえのことを、あたりまえに言える時代へ。」

一緒にこの時代をつくっていきましょう。

取材・文: 秋田ゆかり
Reporting and Statement: yukariakita

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