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25 Nov. 2020

美しくありたいと願う人が諦めない社会を目指して

半澤絵里奈
編集長 / プロデューサー
半澤絵里奈

2020年11月18日、株式会社encyclo(以下、encyclo)より、下肢リンパ浮腫の方へ向けた第一弾商品として、医療用弾性ストッキング(一般医療機器)の発売が発表された。

このストッキングは、がんの手術や治療の影響でリンパ浮腫という症状を抱える人のおしゃれやファッションを楽しむ気持ちをサポートするために、医療機器メーカーと共にリンパ浮腫の当事者・医療者との議論も経て、機能面・ファッション面どちらにもしっかり配慮された商品だ(発表や商品の詳細はこちらから)。

 

商品ブランド名は「前へ!」という気持ちを込めてMAEÉと命名


ポーラ・オルビスグループの社内ベンチャー制度を活用してencycloが誕生したのは、今年5月。代表の水田悠子さん(以下、水田さん)と取締役の齋藤明子さん(以下、齋藤さん)はともに創業者。今回は商品発表に伴い、このお二人にお話を伺った。


15年前に出会っていた共同創業者の二人

二人の出会いは約15年前の2005年、水田さんがポーラ・オルビスに入社したときに遡る。当時、人事部で新入社員の育成担当を務めていた齋藤さんは、水田さんにとって会社で最初に出会った女性の先輩だったという。一方、齋藤さんはポーラ・オルビスに入社する前に数社でキャリアを積み、20代で病気も経験し、会社の環境や人生の様々な状況で人のモチベーションが大きく変わると感じていた。ゆえに、今後は生きにくい社会のなかで頑張っている女性を解放し、多様なサポートをしていきたいと考えていた。

新人研修を終え、現場で商品開発やマーケティング業務に携わっていた水田さんが齋藤さんと再会したのは2012年の子宮頸がん罹患がきっかけとなる。つらい闘病生活を経て、なんとか社会復帰したものの2~3年間働き方に悩んでいた水田さんは会社の人にすすめられ、齋藤さんを訪ねた。

当時の水田さんの様子を齋藤さんは「あの時の水田は、ものすごく闇の中にいた」と語る。一方、水田さんは「あのとき、齋藤さんが『私、20代の頃に病気になって何もかもいやになって会社を辞めちゃった』と教えてくれて。その一言を聞いて、”そういう生き方があってもいいんだ”と、勇気づけられた」と振り返る。

 

グラデーションで取り戻していった自分の生き方

水田さん(左)と齋藤さん(右)異なる背景を持つ二人が事業パートナーに


罹患から5年という節目、齋藤さんとの再会。水田さんは少しずつ自分を取り戻し始めた。
リンパ浮腫による脚への負担を避けるために封印していたヒールのある靴を履いてみて「あ、履けた」という日、丈の長いズボンではなく、スカートを着て過ごしてみて「あ、スカートもいける」という日。小さなチャレンジを重ねながら、自分の状況を受け止め、自分が「こうしたい」と思っていたファッションや生活に自信を取り戻す日々が訪れた。

加えて水田さんには、思春期の頃から感じていることがあった。

「自分が自分で良いと思える、堂々と自身の考えを述べられる、選択肢があったときにチャレンジングな方を選べるというのは、”今の自分が素敵だ”と自分自身が思えないと出来ない。だから、美容やファッションなどによってありたい自分でいられることも人生において重要なことの一つだと感じていました」

自信を取り戻し始めると同時に本来自分のやりかった美への追求をやらねば!と使命感スイッチが入るように。「まだ叶えられていない美しくありたい想い」の発掘と実現に取り組むため、社内ベンチャー制度への応募に挑戦する決意を固めた。

 

美しくありたい気持ちを「仕方ない」と諦めない社会に

2019年2月、CancerX Summit 2019というイベントで行われたAYA世代(※)に関するセッションに水田さんは登壇し、治療後履いているストッキングを手に掲げ、「リンパ浮腫という後遺症のために、私にはこの治療効果優先のストッキングしか選択肢がない。もっと自分が履きたいと思うものがあったら…」と訴えた。

美への追求は、このストッキング作りからスタートするというのは水田さんのなかにずっとあったが、ベンチャー企業を立ち上げるとなると単一の商品の設計だけではなく、その企業の価値やいかに経営していくかが問われる。会社以外に、起業や事業開発を学ぶプログラムに通い、友人たちやがん経験のある仲間たちとの数多くのディスカッションなども通して、自身の企画を固めていく試行錯誤の日々が続いた。

同時期に齋藤さんも健康領域で社内ベンチャーに応募しようとしていた。お互いがチャレンジしようとしていたことを知った二人は、互いのアイディアを持ち寄って社内ベンチャー応募の審査に挑戦することを決意。それから何度もビジョンや提供価値など、議論を重ねた。

事業開発のプランは二人で何度も議論を繰り返して、練り直した

 

同じ夢を描き、そこに向かって走り始めた二人は、お互いの葛藤も見守り続けた。立案中に何度も壁にぶつかっている水田さんの姿を目撃した齋藤さんは「あのとき何度も乗り越えた苦労があるから今の水田はきらめいて見えるかもしれない。身近な人しか知らない彼女のストーリーがたくさんある」と振り返った。

複数の苦難を乗り越え、社内ベンチャー制度での審査を突破。
美しくありたい気持ちを「仕方ない」と諦めない社会実現への切符を二人で手にすることができた。

 

ビューティー選択の自由を提言したい、という想い

「美とは、外見のことだけはなく内面のことも含む」と考える二人にとって、美(ビューティー)への選択肢が見えている社会をつくっていきたいという想いがある。

もちろん、美が二の次になるシーンも人生のなかにはあるが、あらゆる人に美への追求・課題に対して「選択肢がありますよ」と伝えていけるようになりたいと二人は願っており、まずは、リンパ浮腫を皮切りに、ビューティー選択の幅を広げていく予定だ。

 

取材では、お二人がお互いの生き方を尊重し合いながら、それぞれの美に対する価値観を真剣にぶつけ合える関係であることを強く感じたものでした。罹患から5年が経過した水田さんと、がん治療後のQOLや健康領域の課題に強い関心を寄せていた齋藤さん。お二人が企画開発・発表する商品やサービスに今後も注目していきたいと感じました。

水田さん、齋藤さん、どうもありがとうございました。

 

 

※AYA世代(あやせだい)…がんに罹患する年齢が、Adolescent&Young Adult(思春期・若年成人)期、具体的には15歳から39歳の患者を示すことが多い。

取材・文: 半澤絵里奈
Reporting and Statement: elinahanzawa

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