BLMは2020年で終わってはいない。 ラッシュが目指す「ダイバーシティ&インクルージョンとは」
- 共同執筆
- ココカラー編集部
2020年10月20日、英国発のナチュラルコスメブランドであるラッシュがBlack Lives Matter(以後、BLM) ムーブメントを受け、ダイバーシティ&インクルージョン(以後、D&I)の観点から一部商品の名称変更を発表。
今回、商品改名までの経緯と実施後の反応、そして今後の展望について、PRマネージャーである小山大作さんとPRアシスタントの青枝奈々さんにお話しを伺いました。
All Are Welcomeの精神
これまでも、ブランドの信念「All are welcome, Always.」の考え方に基づき、LGBTQ+や難民といった社会的マイノリティの方々含め、「誰もが自分らしく暮らせる社会のために」ブランドとして何ができるかを考え続けてきたラッシュ。2017年には、シリア難民の問題を受け、創立以来はじめてブランド信念に次の一文を追加しました。
「Freedom of movement-移動の自由-」
「どんな人でも移動すること、移動する楽しみを享受する権利がある。世界中の同僚やサプライヤーの方々が自由に移動できているからこそ、今のラッシュのビジネスがある。」そんなラッシュの意識を提示するとともに、これまで様々な難民支援を行ってきました。
今一度初心に立ち返る
そして2020年5月末、アメリカから沸き起こった今回のBLMムーブメントを受けてすぐに社内でも議論を開始しました。当初は、グローバル同時キャンペーンという形でこの課題の例示をしようとしていたそうです。しかし、英国のとあるスタッフの「社会に呼びかける前に、社内から見直すべきでは?」という一声でアプローチを抜本的に変えることになりました。
ラッシュ発祥の地であるイギリスのプールは小さな港町で、白人が多いエリアです。ゆえに、役員含め本社の社員構成は白人中心なのですが、意図的に起こったことではないものの、今までは特にそれを問題視してこなかったといいます。しかし、ラッシュは今や世界49の国と地域に展開するグローバルブランド。BLMムーブメントについて社会にメッセージを発信する前に、まず自分たちが変われるポイントはないのかという意識に立ち、その1つのアクションとして、今回ブランドの魂と言える商品の改名に踏み切りました。
本国イギリスで600種類以上の商品名の見直しが今でも継続され、世界の各地域に適用されています。しかし、日本独自の名称を持つ商品の中で11種類の商品名については、今回ラッシュジャパンで見直しを行うことが決まりました。それを受け、日本では社内ワーキングチームが発足。このチームは全社から集まった所属・性別・出身・年齢不問の有志メンバーです。改名基準はD&I観点で、性別や宗教を特定しないなどの幅広い視点でメンバーが時間をかけ、議論を重ねていきました。
商品『パパの足』の新名称は公募制
中でも、ロングセラーかつベストセラー商品でもあるフットパウダー『パパの足』。この名前で長年親しまれて来ている商品です。「そんな商品の改名は会社としても大きなチャレンジだった」と小山さんは話します。しかし、この商品名から男性用商品だと思う人や、パパの足と聞いてお父さんの足の匂いをイメージする人が実際にいるかもしれない。製品名を通じて、このような意図していないメッセージやステレオタイプを誘発することはD&Iの文脈として適切ではない。また、すべての人にとって商品名含めて快適に使用してもらうことが、つくり手の責任であるという考えから、今回の改名に踏み切ることになりました。
その際、今後も親しみを持ってもらえるように新名称を公募で決定することにしたところ、結果SNSに寄せられたコメントは560件以上、名称案は688件というアカウント開設以来の反響を生むことになったのです。そして、先月発表された新名称は「素足のTブレイク」になりました。「Tea For Two」になぞられた原名「T FOR TOES」に日本語の「素足」と原材料「ティーツリー」をうまく盛り込みながら、商品特徴を分かりやすく表現しているというのが選定されたポイントです。
商品改名がきっかけに
話題に上がらなければ、気付きもしないかもしれない視点。話題に上がったとしても、本当にそれがどうなのかについて語られにくい社会。今回の改名に取り組んで「賛否はあるものの、やってよかった」と小山さんは振り返ります。
「会社の商品名改名が考えるきっかけになっていることが素晴らしい」「こういう会話が日本ではもっとされるべきだ」などのポジティブな意見が目立ちました。中には、「ここまで難しく考えすぎなくていい」「ここまで考えてしまうと息苦しくなる」というようなコメントに対して、「それじゃいけないと思う」という消費者同士でのコメントの返しがあったり。繰り広げられた議論を見ていて、何度も鳥肌が立ったといいます。
BLMは日本の外で起こっている問題?
今回のBLMムーブメントでは、「白人としての特権」という切り口や「日本では中々自分事化が難しい」という声が多く聞こえました。しかし、本当にそうなのでしょうか。日本には、約2%の日本国籍ではない方が住んでいます。このような日本社会の中に、「日本人の特権」や「構造的差別」は存在しないのか。ラッシュジャパンではこのように捉え、今回の課題に向き合ってきました。
会話を継続
商品改名とは別軸で、ラッシュジャパンでは今でも会話を継続されているそうです。全管理職による「ダイバーシティとは」「インクルージョンとは」についての議論からはじまり、ワークショップだけでなく、課題図書ならぬ課題映画を見て感想を共有したり、シンクタンクと呼ばれる全社みんながフラットに意見を交わし合う場など、いろんな形で行われているこの議論に終わりはないと小山さんは言い切られていました。
実際、BLMをきっかけに社員内での指摘やフィードバックが増えたそうです。「会話や意識を継続させることによって、これまでの何気ない会話でも気づきが起きる。」と小山さん。例えば、製造の現場で、「男性だから女性より楽でしょう」という発言に対して、「男性だからというのは無意識のバイアスだよね」のようなコメントが入ったり。他にも「あくまで自分の意見なんだけど~」と一言前につける配慮のある話し方が増えたり。「そんな変化が色んなところで起き始めている、それが1番の大きな変化。」と説明しながらも、「本当の意味でみんなが自分らしくいられる環境のためには、これを全社に浸透させなくてはいけない。」と、これからの課題を見据えていらっしゃいました。
「意識の継続」が最重要
D&Iは気付かなくても生きていける、話題に上がらなければ気づくことさえできない性質の課題。そして、D&Iの意味に正解はなく、ずっと意識し続けなければいけない課題。そんなD&Iと向き合い続けるラッシュが目指すのは「ラッシュと関わることで、誰もが自分らしくいられる存在」。
「そう感じてもらうためには、自分たちから変わらなければいけない。信じているものはぶらさず、1人でも多くの仲間を増やし、コミュニティ内でエンパワーメントを大きくする。」そんな想いでこれからも取り組みを続けていくそうです。
インタビューを終えて
社会課題に対して、何かをしないわけにはいかないと考える会社。
今までずっと大切にしてきた信念を疑い、見直すことができる会社。
社員1人の声が役員、そして会社自体を突き動かす会社。
ビジネスを通じて、様々な社会問題に対して、社会を巻き込みながら変化を起こしていく会社。
・・・そんな印象を強く受けました。
今後は商品名だけでなく、発信する全情報についてD&I観点で見直しを行っていくそうです。「完璧はない。気づいたもの、指摘されたものからやるしかない。ただそれらをクイックに対応していくことが大切。」
創業以来、どの企業や社会よりも先駆的かつ継続的に、多様で持続的な社会と環境の実現に向けて事業および活動に取り組んできたラッシュ。どこまでも、真摯で真剣なラッシュの精神を感じる一言でした。ラッシュの考え方や行動をきっかけに、一人でも多くの人や企業の気づきと行動につながることを願います。
執筆者 稲野辺 海(Kai Inanobe)
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