家族のカタチ3.0:妻の姓を名乗る男
- 副編集長 / ストラテジックプランナー
- 岸本かほり
本日は、妻の姓を名乗る男、和田さんにインタビューしたいと思います。
■なぜ、仕事上奥さんの姓を名乗っているのか?
岸本:戸籍上は「佐藤」という苗字ということなのですが、現在なぜ「和田」を名乗っていらっしゃるのですか?
和田:僕の妻、僕と結婚する前に離婚をしていて、「和田(旧姓)」⇒「柳沢(前回結婚時)」⇒「和田(離婚時)」⇒「佐藤(現在)」と苗字が変わるのが3回目だったんです。
男性の場合だと、離婚・結婚は、紙を1枚出せばいい話なのですが、多くの女性の場合、苗字が変わることによって、戸籍が変わり、その他にも様々な手続きをしなければならなくて、いろいろな場面で生活が変わるんですよね。結婚した時点で男女間でこの部分の差って大きくて平等性が保たれていないと思い違和感を感じました。僕自身、結婚したときに、紙を出したところで戸籍上は佐藤のまま名前は変わらないしあまり実感が沸かなかったので、より平等性を保つためにはどうしたらいいんだろうと考えました。
とはいっても、僕が今「夫婦別姓を!」とデモをしたところですぐに変わるようなものではないし意味はないと思ったので、柔軟に自分が今表現できることとして、自分が職場で妻の旧姓である「和田」を名乗ることにしました。
女性は旧姓で仕事をしていいし、男性だって、新姓で仕事をしてはダメっていうことはないと思うので、じゃあやってみよう!ということで、「和田」始めました。(笑)
■名乗ってみて気付いたこと。良かったことと、苦労したこと
岸本: すごく面白いし、めちゃくちゃ共感します。いろいろなご活動をされている和田さんですが、仕事上の自分の姓を変える、というのは、結構大変なことだったのではないでしょうか?変えてみて、良かったこと、苦労したことを教えてください。
和田:いいことで言うと、両方の家族をちゃんと大切にできるようになった気がしました。
結婚したという意識はめちゃくちゃ強くなりました。それに伴って、プレッシャーや責任感を感じるようになりました。この意識って離婚率とかにも関係するんじゃないかと思います。離婚によって、子供や妻を失うかもしれないというのはありますが、姓が変わることでその苗字で積み上げてきた実績やキャリアや思い出などを喪失する恐怖心があります。女性っていうのはその責任感を常に持ってるんじゃないかな、いうことを感じました。
同時に、自分が佐藤として積み上げてきた27年間を失ってしまったような、そんなアイデンティティの喪失感を味わいました。佐藤時代に作っていた音声ガイドや取材・インタビュー記事もあったのですが、それを手放してしまうような、また0からリスタートするような感覚でした。
ただ、そこにとらわれなくなったことが今の自分にとって強みになっていると感じています。
佐藤でもない、和田でもない、“ヒロアキ”という人間がどうしたいのか?ということに落とし込めたということが大きくかったです。外側のフィールドではなくて、内側の意識の部分で自分のやっていることが一続きにつながっていることに着目できたのは、姓を変えたことによって得られたプラスの面です。
姓や名前をもう一度見直してみる、ということによって、本当の自分が何をしたいのか?いかに自分らしくいきられるか?を深く考えることができました。
岸本:姓に着目し、こだわったことによって、逆に姓へのこだわりが薄れたということでしょうか?
和田:そうですね、姓を変えたことによって、外側のことじゃなくて、内側の自分の主軸を見直すというきっかけを与えてもらったと思います。28歳にしてもう一度自分を深く知れる体験につながりました。
一方で、なぜ和田に苗字が変わったのか?という周囲への説明は苦労しました。人によって、説明の仕方を変えました。特に同性である男性に一番理解されなくて、どんな方向で説明しても理解されなかったのは残念でした。そういう経験も積んで、婿入りしたということで済ませている場合も多々ありました。(笑)
それは歴史的に根付いてしまっている意識があるから、もう少しオープンハートにしていかないとそこの意識差は解決できないのかな、と思います。
昔は、女性は男性の家に入って専業主婦、男性は外で稼いで女性を面倒みる時代だったから、女性が姓を変えるのが合理的だったのかもしれないですが、今は女性も男性もそれぞれのキャリアを形成して共働きが当たり前の世の中なので、この考え方は時代に合わせて考えていかなければならないなと思います。
苗字を変える、たったそれだけです。たったそれだけなんですが、とても大切な要素だと思ったんです。だから、僕は男性が妻の苗字に変えるべきとかそういったことを言っているのではなくて、ほとんど話し合われないまま、姓を当たり前に変える状態をやめて、納得いくように会話したうえで、お互いの姓と向き合ってほしいと思いました。
岸本: 日本の社会は、“普通”とか“当たり前”という言葉で人が動いている感じがしますが、和田さんはそうではなく、自分自身で考えて行動を起こしているんですね。
和田: “普通”という言葉でなんでも押し付けないでほしいんです。一度立ち止まって普通ってなんで普通なの?と考えてみてほしくて、しきたりっていうものは大事な文化なんだけど、それは、文化として大事なのか?夫婦として大事なのか?育児として大事なのか?ということを見極めてチョイスして、しっかり自分たちで納得した回答を出していくことが大事だと思います。
■新しい家族の在り方。夫から父へ。変わったことと変わらないこと。
岸本:お子さんが誕生されたとのことですが(おめでとうございます!)。ご家庭でのご自身の変化と、これからの社会で、どうやって子育てをしていきたいか?どういう夫婦・家族でありたいか?思いがあれば、教えてください。
和田:ありがとうございます!ひと昔前まではお母さん一人で育てて、旦那は仕事して夜遅く帰ってくるのが当たり前の世の中だったと思うんですが、最近は男性ももっと、育児に参加しよう!という動きが出てきました。それは、村社会が崩壊して、地域で子供の世話をするということができなくなったから、という社会と時代の変化からだと思います。
さっきまで女性側だったのに急に男性側に立って物を言いますが、女性は出産によって、生物学的に母に進化するのですが、生物学的に進化していない男性にとって新たな仕事が一つ増えるということでもある。仕事しながら子育てに参加するというのは難しいんです。
僕はおむつ替えやあやすことはできますが、どうあがいても、母乳はでないし、今は感覚としては母子がひとつのもので、父親は少し蚊帳の外であるような気持ちを持っています。今まで妻と一緒にパートナーとして走っていたところだったのに、母子というものになったら、一緒に走っていた存在がいなくなってしまった孤独感というのは、ちょっと理解してほしいです。もちろん妻も24時間大変なんだけれども、実はパートナーが同じ場所にいなくなってしまった孤独感に襲われて、かつ新しい育児という仕事を任されて、男性側も苦労しているんだということをちょっとわかってほしいなあと思います。この時代は、お互いに非難し合うんじゃなくて、みんなが相手のいいところを称え合って、支え合うようなパートナーになれるといいなと思います。男性にも、エールを送りたいです。
岸本:最後に、世の中の夫婦や家族に、今後の夫婦や家族の在り方について、提言したいことはありますか?
和田:子育てや夫婦の形に正解はないと思うので、正しさではなく、心地よさをしっかり自分たちで話し合って追い求めなければなりません。昨日正しかったことが今日は間違っている可能性もあると思います。わからないからこそ、自分たちのフィット感、わだかまりのない生き方を夫婦・家族で模索していければと思います。
岸本:和田さん、貴重なお話をありがとうございました!