多様性を言葉だけでは終わらせない。ーサステナブルな育児支援に取り組むフローレンス岩井さんインタビュー
- ソリューション・プランナー
- 海東彩加
今回は、病児保育やひとり親、待機児童など育児をとりまくさまざまな社会課題を事業・政策提言などで解決する認定NPO法人フローレンスの岩井さんにお話を伺った。
オンラインにて取材を行った
サステナブルなフローレンスの活動
フローレンスは、代表駒崎さんの原体験から、2004年より病児保育問題への取り組みを始めた。もちろん、当時から病児保育に取り組む団体はあったが、数は少なく、資金面などの問題から継続することが難しい状況であった。そこで、場所を持たない訪問型病児保育という形をとり、さらに共済型にすることで、継続できる仕組みづくりを行ったという。
その後も活動を行う中で、利用者やスタッフが直面した育児の問題に取り組んだり、さまざまな親御さんからのSOSに耳を傾け、多方面から子育てと仕事の両立可能な社会の実現を目指している。
フローレンスの特徴の一つは、「問題を一時的に解決するだけでなく、常に継続可能な仕組みをつくる」こと。継続できる仕組みづくりで問題の抜本的解決を目指し、子育て領域の新しいあたりまえをつくり続けている。
問題を知った人が取り組まないと解決しない
岩井さんご自身もフローレンスでの活動をはじめたきっかけは自身の幼少期の体験だという。小学生~中学生の頃に学校に通えない日がある中で、担任の先生と親のサポートにより、望んでいた高校進学を実現できたという経験がある。先生や親がどんな状況であれ、いつでも信じてくれたこと、何かあった時にはいつでも頼れる存在であったことが支えになった経験から、岩井さんも教育支援を通して、誰かの力や支えになることで恩返しをしたいという思いが芽生えた。
当初は国際協力に関わる活動を行なっていたが、ある時、子どもの貧困、教育格差など国内の子育て・教育に関する社会課題を知り、自国のことなのに知らなかったことに衝撃を受けた。これをきっかけに、知った人間として、自分は国内の課題にも向き合うべきではないかと感じ、様々なNPOに関わっていき、その後フローレンスに所属し国内の社会問題の解決に取り組み始めたという。
子育ての選択肢があっても選べないと意味がない
岩井さんが病児保育などの問題の解決に取り組む中で意識していることは「病児保育などが必要のない社会になること」。フローレンスの支援がなくても、困る人がいなくなることを目指している。
ただ、それを実現するには、まだ多くの問題があるという。そのうちの一つは子育てに対する考え方をアップデートすること。「育児の問題は家庭内で解決すべき」「親がすべて面倒を見るべき」「ベビーシッターには頼ってはいけない」など、たくさんの“べき”や思い込みを取り除くことが必要だという。
実際にひとり親の支援をする中でも、「もっと困っている人がいるのに私なんかが利用していいのか」「周りに知られたら恥ずかしい」といった声を聞くことも。フローレンスが提供する取り組みをはじめ、さまざまな支援の選択肢があっても、それを“選べる”土壌がないと意味がない。フローレンスでは、その土壌をつくるための取り組みも行っている。
さらには、具体的な困難を抱えてから選択肢を知るのではなく、困難を抱える前に選択肢を提供できることが大切だという。そのためには、例えばファッションなど、育児とは一見離れたものを入り口に、育児を始める前の層に情報発信をして、届けていくこと必要だと考えている。
2019年に行われたフローレンス15周年イベントの様子
リアルな声を大切に、本当に必要な支援を
コロナ禍に入り、育児をとりまく状況も大きく変わったという。休園、休校が始まった2020年3月、約1万人に育児状況のアンケートを行った。フローレンスで大事にしているのは「実際の声」を聞くこと。自分たちだけで仮説を立てるのではなく、実際の声を拾い上げることで、支援を必要としている人たちに“本当に必要なサポート”を届けるようにしている。
アンケートでは、ひとり親家庭、経済的に困難を抱える家庭、医療的なケアが必要な家庭の状況がより大変になっていることがわかり、すぐに緊急支援プロジェクトを立ち上げた。明日の生活もままならず、声を上げることもできない人が増える中で、声が上がるのを待つのではなく自ら支援の必要な人たちに届けるよう心掛けたという。
多様性を言葉だけでは終わらせない
子どもたちの家庭環境が多様化する中で、岩井さんは「多様性という言葉だけで終わらせない」ことを意識しているという。多様性を大切に…と言葉でいうだけではなく、フローレンスでは、自分たちで実際に行動を起こしている。
そのうちの一つが、「インクルーシブ保育」。障がい児と健常児の子どもたちの交流保育、また外国籍の子どもの受け入れなどの取り組みである。実際にこの取り組みを行う中で、自分でごはんを食べれずにいた子が他の子の様子を見て、自らごはんを口に運べるようになるなど、子どもたちの変化を目にすることがあるという。
インクルーシブ保育を既存の枠組みで実現していくことは簡単なことではない。その中でも、どうすれば形にできるかを常に考え、自ら動いて一つのモデルケースをつくり、さらには情報発信を続けていくことが大切だという。
広報チームによるTwitterライブの様子
岩井さんからのメッセージ
「頼ってはいけない」「こうすべき」をなくしていくことが、子育てはもちろん、多くの社会課題を解決するためのキーワードになるかと思います。今の世の中、一人で抱え込むのは苦しいし、つらいときは頼ってもいい。当たり前だって常に変わり続ける。
一人一人の考え方や意識が変わっていくことで、子育ては悩ましいものではなく、きっと楽しいものになっていくはずです。
さいごに
フローレンスさんの取り組み、岩井さんの思いを伺う中で印象的だったのは、「自ら行動に起こすこと」「続けられる仕組みをつくること」。その根底にはもちろん問題解決への強い思いがあるのだが、それを言葉にするだけでなく、行動にする。そして、問題の抜本的解決となるように仕組みをつくる。これはどんな社会問題を解決するのにも大切なことかもしれない。
注目のキーワード
関連ワード
-
ネグレクトneglect
無視すること。ないがしろにすること。子どもに対する養育を親が放棄すること。例えば、食事を与えない・衛生環境を整えない・病気やけがの治療を受けさせない・泣いている乳児を無視するなどの行為。身体的虐待や性的…詳しく知る
-
こども食堂Kodomo Shokudou
地域住民や自治体が主体となり、無料または低価格帯で子どもたちに食事を提供する場。「子どもたちへの食事提供の場」としてだけではなく、高齢者や共働きの家族などが集まって食事をとることも可能で、地域のコミュニ…詳しく知る