高齢者や車椅子の人も、仲間と一緒にアウトドアを –富士見高原リゾート・ユニバーサルフィールド-
- 共同執筆
- ココカラー編集部
ユニバーサルフィールドという言葉を、聞いたことがありますか?
それは、お年寄りや、高齢者、その介助者や家族が「誰とでも」共に同じ時間を楽しむことのできる地域のこと。2010年からこのユニバーサルフィールドを日本でいち早く展開し、注目を集めているのが、富士見高原リゾートです。
都心からのアクセスもよく、富士山の絶景スポットとしても知られるこのリゾートには、ファミリー連れや団体客など、さまざまな旅行客が訪れます。けれども、アウトドアのフィールドということで、高齢や障害があることを理由に、訪れることをあきらめる人たちも少なくありません。「山や森に行くことをあきらないで楽しめる環境をつくりたい」。従業員の間に、いつしかそんな気持ちが芽生えました。
身体の不自由さを、楽しむことを奪う理由にしたくない
そんな折、営業企画部の藤田然さんは、あるアウトドアの展示会で、ASSYstar’s (アシスターズ)Projectの中岡亜希さんと出会います。
(中岡亜希さん)
中岡さんはキャビンアテンダントとして活躍していましたが、ある日突然、進行性の難病を煩いました。そして、身体が不自由であっても、人生を楽しめる選択肢に開かれた社会を作りたいとの思いが、障害などがあっても支え合い(Assist)、一人ひとりがかけがえのない存在(Star)として、多様性をもつ集合体(Assembly)として存在できる社会を目指す「ASSYstar’s Project」の、そしてその後のDual ski Japanの立ち上げにつながりました。
(アウトドアスポーツを楽しむ中村さん)
中岡さんの想いに共感した藤田さんは、富士見高原リゾートに、アウトドア用車椅子HIPPO(ヒッポ)を導入したいと考えました。そして、実際にリゾート内を歩き回りながら、乗り心地、移動のしやすさ、風景の楽しさなどを考え、HIPPOで楽しめるコースを開拓しました。
「全国にはまだ導入事例がなかったので、中岡さんの協力を得て手探りで検討を重ね、準備を進めました」(藤田さん)。
ちょうどその頃、中岡さんがHIPPOを使った富士山登頂に成功します。その姿はメディアにも取りあげられ、障害を持った人たちに、新しいフィールドへと挑戦する大きな勇気を与えました。「富士山に登れたのなら、富士見高原でも大抵の所にいけるはず」。中岡さんの姿は、富士見高原でのHIPPOの導入を後押しする力にもなりました。そして約1年の準備期間を経て、2010年の秋にユニバーサルフィールド化が始まったのです。
現在、富士見高原リゾートにはフランス製のHIPPO7台に加え、日本製のJINRIKIも20台以上導入されています。体験イベントも好評で、これまで100人以上の人たちが体験しました。
(JINRIKIを使った、ユニバーサルフィールドの体験ツアー)
分かち合う体験が、人生を豊かにする
「家族でアウトドアに行くことができるなんて、これまで考えてもみなかった」と涙する当事者やその家族。高齢のため意識がほとんどないおじいさん・おばあさんが、HIPPOで森林の中を散策し、そのフレッシュな空気や自然の音風に触れ、表情を明るくする姿。こういった体験は楽しい思い出となり、帰った後も、家族の会話が明るくなって、気持ち新たに日常を送れるようになったという声が、全国からたくさん寄せられているそうです。
2015-2016のスキーシーズンには、国内で初めて「デュアルスキー」を導入しました。
デュアルスキーの導入には、操縦者がフランスでトレーニングを受けることが条件となっています。そこで、藤田さんたちが訪れたのは、ヴァルトランスというリゾート。訓練を受けながら、ヴァルトランスの世界標準の山岳高原観光地域を体験し、藤田さんは感銘を受けたそうです。
(車椅子用ゲートがリフト乗り場に整備されたヴァルトランスのスキー場)
「ヨーロッパ各国から、言葉も、スキーのスキルも違う多様な人たちが訪れることを前提に、“誰がきても楽しめるスキー場”として作られていることに感動しました。どこのリフトにも、必ず車椅子用ゲートがあり、障害のある人も高齢者も、当たり前のようにスキーや雪山を楽しんでいるのです」
こうして2015年冬に富士見高原リゾートで日本で初めてリリースされたデュアルスキーは、体験者に大きな感動を与え、体験したある家族から「この感動を他の人たちにも共有したい」と、デュアルスキー1台の寄附がありました。
これまでアウトドアを諦めていた人たち、そしてその家族へとフィールドを開いたこと。そのことは、富士見高原リゾートの新しいファン層の獲得にもつながり、結果としてブランド価値の向上にもつながっています。
共に楽しむことで、乗り越えてゆく
今年4月から障害者差別解消法が施行されることから、この対応に頭を悩ませている事業者も多いといいます。ハード面の対応には設備投資も必要で、この工面が困難な事業者も少なくありません。ましてや、アウトドアをバリアフリーにするとなると、どこまで対応してもしきれない程のスケールとなります。
「地方の施設の多くは、ハード面でのバリアフリー対応に投資をする余力がありません。けれども、そういった設備が整っていないからといって、障害がある人やお年寄りを排除しているわけではなく、むしろ、従業員や地域の人たちが工夫して対応している施設も多くあります。地域にあるさまざまな特技を持つ人たちが、それを持ち寄ることで、地域の魅力に溢れた、誰とでも楽しめるリゾートをつくっていけたらと思います」(藤田さん)。
(JINRIKIで楽しむユニバーサルフィールドについては、NHKでも紹介された)
共に楽しめる関係性が生まれる空間。それこそが、ユニバーサルフィールドという場の持つ可能性なのかもしれません。そして、そのようなフィールドから、スポーツへの挑戦が広がり、パラリンピックに向けて活躍するアスリートが生まれる可能性もありそうです。
オールシーズン、誰とでもアウトドアを楽しむことができる富士見高原リゾートのユニバーサルフィールドを、あなたも、訪れてみませんか?
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