みんスポ・ソーシャルドリンクスVol.11–スポーツを切り口に地域とコミュニティを活性化させる
- 共同執筆
- ココカラー編集部
ゲストスピーカーによる「おもしろそう」な実践事例ヒントに、ゆるく飲みながら、みんなのスポーツ(みんスポ)を広げるためのアイデアを語りあう「みんスポ・ソーシャルドリンクス」。第11回目は「スポーツを切り口に地域とコミュニティを活性化させる」とテーマに、株式会社R.project(アールプロジェクト) 代表取締役の丹埜倫(たんの ろん)さん、NPO法人CRファクトリー代表の呉哲煥(ご てつあき)さんをゲストに開催されました。
<”合宿事業”で地域の価値を引き出し、育てる>
株式会社R.projectは、日本各地で見落とされている魅力を再発見し、地域と共に新しい人の流れをつくることをミッションに掲げ、2006年に創業した社会的企業です。創業者・代表取締役の丹埜さんは、大学卒業後、ドイツ証券やリーマンブラザーズ証券で日本株トレーダーとして勤務する傍ら、スカッシュの日本代表として世界選手権にも出場したというユニークな経歴の持ち主。そんな丹埜さんが注目したのが、地方地域に多く存在する、未使用不動産の活用です。
(R.project 丹埜さん)
地方には、公共事業で何十億もかけて建てられた大型施設が多く存在します。しかし、施設の老朽化による維持管理費の増加、人口減少や高齢化に伴う利用者の減少により、地元の行政機関にとって重荷となっているケースが少なくありません。また、80年代に多くつくられた民間の宿泊施設・民宿には、施設の老朽化や後継者不足を理由に、事業継続を諦めたところも多く存在します。都市部においても、時代の流れで産業構造が変化したことなどを背景に、使われなくなったビルや倉庫などの物件の活用が課題となっています。
一方、日本の地域や都市部には、歴史や文化・自然など、個性あふれる素晴らしい魅力がたくさんあります。そこで、未活用不動産を地域の魅力の再発見と結びつけることで、社会課題を解決し、市場に新たな価値を提供することができると考えられました。
R.projectの主力事業のひとつが、合宿事業です。ターゲットとするのは、アマチュア向けのスポーツ合宿。仮に全国の小学校〜大学生の数を1800万人、年間の平均合宿数を5泊、民間宿泊施設の割合を70%、平均単価(1泊3食)を6,500と想定すると、そのマーケティング規模は、およそ4000億とも推測されます。
さらに、企業研修や社会人の同好会活動など、他にも多様な合宿ニーズが存在することから、市場規模はかなり大きいと言えます。
そこで、R.projectでは、既存の施設をリノベーションし、民間ならではの発想で、顧客満足度向上や地域の活性化に貢献する運営サービスの提供を行うことで、合宿市場の活性化をはかりました。
2007年11月に千葉県鋸山町のサンセットブリーズ保田は、少子化の影響で閉鎖となった臨海学園をR.projectが千代田区から譲り受け、リノベーションやスカッシュ、フットサルコートの新設した施設です。かつては年間1000泊ほどだった利用は、現在は18,000泊以上にも増えました。また、2013年には、かつて企業が保有していた保養所を一棟貸しができる宿泊施設にリノベーションしたサンセットビーチハウスをオープンしています。
2014年4月から運営を開始した昭和の森フォレストビレッジ(千葉県千葉市)は、これまでの、市が指定管理料を運営事業者に支払うという方式を、R.projectが市に賃料を支払うモデルに切り替え、代わりに施設運営上の規制を緩め、より自由な運営の許可を得ました。これによって、市の行政負担軽減に貢献したではなく、顧客満足度の高い施設運営が可能となりました。
スポーツ合宿によってもたらされる地域へのインパクトは大きく、人口の3倍もの来訪者が生まれた地域もあるそうです。地域の課題を解決しながら、新たな市場をつくりだす、R.projectの合宿事業。今後ますます成長が期待されるインバウンド観光の観点からも、注目すべき動きと言えます。
<共感から愛着を高める>
続いてのゲスト、呉哲煥(ご てつあき)さんは「すべての人が居場所と仲間を持って、心豊かに生きる社会の実現」をミッションに、2005年、NPO法人CRファクトリーを設立しました。
現在、日本の社会には自殺者3万人、うつ病100万人、児童虐待相談6万人、孤独死3万人など多くの課題が噴出しています。この解決のためには、人とひとのつながる、コミュニティ(居場所と仲間)をつくることが大切ではないかと呉さんは考えました。そして、中でも、人々が意欲的に楽しくつながり合い成果をあげているコミュニティの特徴として「愛着」に着目します。
一般的に非営利組織の場合、ボランティアのスタッフが多く、参加者全員が主体性や責任感、モチベーションを持って活動を続けることが難しく、そのマネジメントは困難だと言われています。一方、非営利でありながら成果をあげている団体は、皆が組織に愛着を感じ、団体やチームが好きで、共感をベースにつながりあっているという特徴が見受けられます。そこでCSファクトリーでは、愛着と関係性のマネジメント:つまり「団体・組織への愛着」や「スタッフ・仲間との関係性」を高める上での技術・ノウハウを研究し、社会へ還元しているのです。
三菱総合研究所の研究によると、組織へのエンゲージメントと職場の業績には相関関係があると言われています。また、MITのダニエル・キム教授は「成功の循環モデル」において、関係の質は、思考の質、行動の質、さらには結果の質にも影響を及ぼすと紹介しています。
では、関係性の質に影響を与えるものは何か。それは「相互理解」といわれています。互いへの理解を深め合う機会をつくることで、互いへの愛着感を増し、よい成果をうみだす組織をつくる。「合宿」もその上で大きな役割を果たすそうで、CRファクトリーが行った、組織愛着度の高い22団体を対象とした調査では、16団体から「合宿をしている」と回答したそうです。
上智大学とCRファクトリーの共同研究プロジェクト「コミュニティキャピタル研究会」では、コミュニティの状態とパフォーマンスの関係を調査しています。調査の結果、愛着の高い組織には1)理念共有と貢献意欲、2)自己有用感、3)居心地の良さが高いという傾向が見られることがわかりました。愛着は組織運営や社会課題の解決にも有効であると言われながら、見えないだけに政策予算もつきにくいのが現状です。今後、こういった研究の成果が社会的に認知されることが、社会が課題の解決に向けて動き出す契機となると言えるでしょう。
CRファクトリーは2016年2月に、これまでの活動の集大成とも言える「NPOの組織マネジメント ノウハウコレクション」を発表しました。「強くてあたたかい組織」を育てるヒントは、地域とコミュニティの活性化の上で、大きな気づきを与えてくれそうです。
全体セッションでは、経営合宿を取り入れている日本ブラインドサッカー協会の松崎代表を交え、事業を通じて地域に入っていくコツや、居心地よさの質とは何かなど、活発な討論が行われました。
最後に、会場に集まった方々に感想を紹介します。
「最近イベントの企画を手がけるようになり、”現場の居心地のよさ”という話から、組織の運営について考えるきっかけを得ました」(NPO法人Ubdobe曽我部さん)「合宿事業、非営利組織の運営、ともに興味深いテーマでした。会場の皆さんの反応からも、団体運営の奥深さというものを、改めて感じました」(日本ブラインドサッカー協会塩嶋さん)
参考
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