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Oct.

2024

interview
15 May. 2020

バングラの教育改革のために、若き日本人校長先生がつくった学校

吉澤彩香
プランナー
吉澤彩香

世界的に猛威を奮っている新型コロナウィルス。各国では、感染対策として外出禁止や自粛などの措置をとるなど “Stay Home”が浸透しています。こんな時こそ、普段はなかなかお話をお伺いできない方にインタビューできるチャンスと捉え、バングラデシュで学校(narayankul dream model school & college)を設立し校長を務める、公益財団法人School Aid Japan(スクール・エイド・ジャパン)の古澤 勝志(ふるさわ かつし)さんにリモートインタビューさせていただきました。

School Aid Japanは、「一人でも多くの子どもたちに、人間性向上のための教育環境と教育機会を提供する」ことを目的とした国内外での活動を行い、特に海外ではカンボジアやバングラデシュでの教育支援調査や学校建設等を支援されています。今回は、バングラデシュ(以下:バングラ)で古澤さんがゼロから学校を設立し、国の教育改革にいたるまでのお話を伺いました。

 

バングラの教育の現実

古澤さんがバングラにやってきたのは2012年、29歳のとき。バングラの経済学者でノーベル平和賞も受賞している、ムハマド・ユヌスさんが教育の大切さを語られていたことをきっかけに、バングラの子どもたちが平等に学べる教育環境を整えるプロジェクトを開始しました。まずはバングラの教育事情の調査をしたところ、大きく2つの問題点がみえてきました。

問題①:貧困家庭の経済

国の定めている義務教育期間は9年となっていますが、経済的な事情から充分に教育を受けられない子どもたちがいます。子どもの結婚相手を親が決める慣習から、結納金や経済的支援を目当てに、中学生ほどの女の子が学校へ行くことは諦めて、財力のある成人男性と結婚させられてしまうこともあります。

また、雇用も国の大きな課題で、ダッカ大学というバングラ最高峰の大学を卒業しても、半分以上の学生は就職先がみつからないといいます。企業に就職するには、身内などのコネが必要とされることが多く、雇用が無いなら学業は無意味と親に判断された子どもたちは、縫製工場で安月給でも働き、学ぶことを諦めるしかありません。

問題②:教育の水準

バングラでは子どもの数に対して学校が足りていないため、小さな教室に80人以上の生徒がいるという環境で授業が行われていたのです。また、教員の指導レベルにも課題がありました。教員免許制度が始まったのは2014年のことで、免許取得にもお金がかかるため教員免許無しで勤務している人も未だにいるなど、指導者のレベルが保たれていません。学校ではマナー教育や善悪についての指導もあまり行われておらず、偏差値をあげるために、教師が生徒のカンニングを認めていたという衝撃の事実は、社会問題にもなりました。

こうした現実を目の当たりにして、貧しい家庭の子どもたちが通える「モデル校の創立」と国の未来のために、教育の水準を支える「教員の養成」に向けた古澤さんの壮絶な戦いが始まりました。

 

本当にゼロからのスタート

学校の建設地探しから進めていく中で、所有権が調停中の土地を危うく契約させられそうになったり、地元のマフィアに脅されたりと、駆け出しから試練の連続だったそうです。

また、校舎や設備といったハード側の準備と同時に、教員採用の準備でも障壁が立ちはだかりました。

教員8人の募集枠に対して応募は600人。一般的には一次面接のみで採用を決めるのがバングラ式の中、成績だけでなく、考える力、キャラクター、そして何より、「一緒に働きたい」と自分たちが思える教員をみつけたい!という熱意を、何とか現地パートナーにも理解してもらい4次面接まで行うことで、履歴書だけでなく人としても素晴らしい8名の教員を選ぶことができました。

 

教員の意識改革

開校までに8人の教員育成もゼロからのスタートです。学校の制服のデザインを教員にお願いしました。これは、教員の帰属意識や、協力し合う力を育み、「自ら考えて、自ら行動できる自立型教員」を育成することが狙いでした。教員研修ではその後も毎年、帰属心と団結力をつくるプログラムを行っている甲斐あってか、開校から9年経った現在まで教員の不当な理由での離職は0人!教員一人ひとりが、自ら学校をつくっている当事者だと自覚しているのだと思います。また、女性職員が働ける環境として、バングラではめずらしい託児所もつくりました。

 

なんのための教育なのか

学校を創る基盤で一番重要な軸は、“子どもたちのためになるかどうか(幸せかどうか)”。学校は、ただ勉強を学ぶだけの場所ではないと古澤さんは考えており、教室も40人を上限にして子どもたちの学ぶ環境にも配慮しました。

開校当初の子どもたちは、時間が守れない、ゴミを好きなところに捨ててしまう、挨拶ができないなどといった基本的なマナーが守られていませんでした。しかし、全ては子どもたちができないのではなく、大人が子どもに教えていないだけ。「時を守る」「場を清める」「礼を正す」これらを職場再建の三原則とし、徹底して教員・生徒の双方へ指導しました。

 

ピンチをチャンスに変える

開校から9年、開校当時は目標の生徒数をなんとか集める事ができ、80人からのスタートでしたが、今では1,100人にまで増加しました。教育の方針や地域活動の評判など少しずつ学校の噂は広がり、3年後には募集人数を大きく上回った400人もの入学希望者が殺到。貧困層のために設立した学校にも関わらず、富裕層からの入学希望者も増加したことで入学審査として本当に貧しい家庭かをチェックするまでになってしまいました。

バングラでは、貧富の差が激しく、首都ダッカでは高級車もよく見かけるにも関わらず、多くの学校が海外からの寄付金で成り立っていることに疑問を感じていました。そこで、新たに私立校として富裕層向けの学校を設立し、その利益を貧困層の通う学校の運営に回すことで、国内でお金を循環できるのではという構想が浮かびました。またしても数々の困難を乗り越えながら、2016年には幼稚舎から高校までの一貫教育私立学校の設立を実現化させ、2023年には100%バングラ国内でお金を循環できる予定です。

 

数々の困難に負けない気持ちを支えたもの

宗教や文化や環境の違いに悩み、顔にあせもができたり、食中毒で入院を(4度も)経験したり、特にダッカの中心部でテロ事件が起きた時は、撤退も検討するほど悲しく、振り返ると一難去ってまた一難の日々でした。しかし、心身共に疲れ果てても、子どもたちの笑顔をみることで元気をもらえましたと古澤校長は言います。

日本の子どもたちは、無いものを欲しがるように思いますが、バングラの子どもたちは、あるものに感謝します。「学校を作ってくれてありがとう」と素直に言ってくれます。

 

現在は、新型コロナウィルスの影響で、バングラの教育機関は9月まで休校を検討しています。学生の授業はオンラインでカバーしていますが、貧しい子どもたちの家にはインターネットが無いため、普及率の高い携帯電話を活用し、どのキャリアでも無制限でアクセス可能なFacebookを通じて、授業の配信や質疑応答などを行っています。

学びたいと思う子どもたちの気持ちに全力で応え、生徒と向き合うのは先生たちだからこそ教員の育成に励み、学校という枠を越えて、地域活動のサポートや雇用、貧困といった国の根本的な問題にも取り組み、バングラの未来のために挑戦し続ける古澤校長。

バングラの子どもたちの笑顔が溢れる学校と教育を応援しています!

 

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School Aid Japanは、カンボジアでは孤児院の経営や、300校以上の小学校の建設をサポートしてきました。また、優秀な教師の授業動画を制作し、地方の小中学校に配布するなど、カンボジアの教育格差を無くすための活動も行っています。

School Aid Japan

http://www.schoolaidjapan.or.jp/

古澤校長の奮闘記

https://www.abroaders.jp/client/article-detail/1987  

取材・文: 吉澤彩香
Reporting and Statement: ayaka

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