モンゴルの誰もが参加できる社会づくり
- プランナー
- 吉澤彩香
オンラインでのコミュニケーションが世の中でも盛んになってきましたね。今回の、世界とも繋がれるオンラインインタビューはモンゴルです!新型コロナウィルスが世界的に報じられてから、モンゴルでは即入国を閉鎖するなどの迅速な対応によって、5月末の時点で感染者は200人未満、死亡者ゼロをキープしています。
モンゴルの首都、「ウランバートル市における障害者の社会参加促進プロジェクトを」行うためにJICA(独立行政法人国際協力機構)から派遣されている、障害専門家の千葉寿夫(ちばひさお)さんに、取り組みについてお話をお伺いしました。
勉強会で講義する千葉寿夫さん
街で見えてきた根幹の問題点
モンゴルでは、2009年に障害者権利条約が批准されて以降、障害者社会保障法や社会福祉法の改正、障害者権利法を制定するなど、積極的に障害者の人権尊重や社会参加への取り組みが行われています。千葉さんは2016年に現職に着任してから実際にウランバートルの街をみてみると、様々な課題が見えてきました。
例えば、同じチームの全盲のスタッフが白杖で街を歩いていると、道行く人達が心配そうに声をかけてくれました。親切なモンゴル人の人柄が表れる行いのようにみえますが、全盲の人が街を歩いていることを心配されるということは、全盲の人がひとりで歩けない街ということです。アクセシビリティの問題もありますが、障害者はひとりでは行動が出来ないと思われてしまっていることが分かりました。
また、モンゴルの建築基準法では、バリアフリー対応としてスロープを付けることが義務付けられていますが、実際に設置されていたスロープは、スロープを必要としている人には使いづらいものが多くありました。スロープを付けることが義務であるだけで、スロープの基準が設けられていないことや、国としてはバリアフリーを推進しているものの、バリアフリーの定義が曖昧なことが根幹の問題点でした。
アクセシビリティの問題はウランバートル市内にも
必要なのは知識
障害者が暮らしやすい環境を整えるための取り組みのはずが、障害者の人たちに役立ててはいない現状。お互いの理解を合致させるために勉強会を開催しました。障害者目線での不便なことなど勉強して理解を深めることが目的です。
勉強会には、企業や学校、行政機関の人などに参加いただきました。ウランバートル市内のバリアフリーチェックやスロープの設計を通して現状を理解し、日本や海外のアクセシビリティの事例の共有を共有し、解決策があるということを自覚することが大切です。
積極的に勉強会に参加してくれたみなさん
ある日の勉強会後の昼食の、ビュッフェ会場での出来事です。いつものように会場へ行くと、車いすの人が料理を取りやすいように、テーブルの高さが調整されていました。また、視覚障害のある人にはサポートスタッフがついてくれるなど、ホテル側が配慮してくれました。今までこういった場面では、障害者の家族や友人がサポートすることが当たり前だったのですが、勉強会を何度も開催していくことで、ホテル側が自発的に障害者の目線になって行ったサービスでした。ホテル側の小さな意識の変化ですが、社会が変わるための大きな一歩を感じらて、とても嬉しく思いました。
障害者の意識改革
モンゴルには約600もの障害者団体があり、いくつかの団体を訪問してヒヤリングしてみると、障害者の意識にも課題があることが分かりました。障害があることで教育や雇用を諦めることや、不便な環境を我慢することが普通だと思い、暮らしていました。障害者が参加できる社会にするためには、当事者の意識も変える必要があり、障害者団体の人たちに向けての勉強会を開催しました。
障害者団体の決起会の様子
勉強会は、Facebookでも配信し、延べ1,200人くらいの人が参加しました。社会にはどんな課題があるかを障害者が自ら発見し、自分たちの意見を世の中に提言していくことが大切なのですが、ただ自分の要求だけを発信するばかりではなく、知識をつけたうえで政策提言をすることが重要だと伝えてきました。
また、障害者の社会参加を促進するために、DET (Disability Equality Training) という障害平等研修も開催し、これまでに述べ1万人以上が参加しました。障害者自身がファシリテーターとなってディスカッションするワークショップ型の研修で、ファシリテーターや、ファシリテータを育てるためのトレーナの育成養成講座を開催し、ファシリテーターを46名、モンゴル初のDETトレーナ3名を育成することができました。モンゴルの国内で人材を育てることも貴重な取り組みです。
DETファシリテーター養成講座の修了式
障害者が参加できる社会をつくる
JICAが注目していた改善点は、アクセシビリティの等の「物理のバリア」と、情報伝達の平等性の「情報のバリア」です。「物理のバリア」については上で触れましたが、今後は、バリアフリーに関しての建築管理制度を改定しようとしていています。
「情報のバリア」についての取り組みは、全ての人が情報にアクセスできるように手話通訳や字幕をつけてニュースなどを放送することを推奨してきました。以前は国営放送のみが手話通訳を対応していましたが、最近の新型コロナウイルスに関連するニュースから、保健省のリクエストで、民放のニュースにも手話通訳がついたのも大きな前進です。
民放のニュースにも手話通訳者が必ず配置されるようになった
こうした取り組みから、障害者側からも意見や要求が出はじめ、それに伴い、行政機関の意識も変わってきました。行政に対しては、なぜ今これをやるべきかという意義を伝えることで理解を促進し、障害者のためだけではなく、社会を良くするための活動ということが伝わると、モチベーションも上がります。法律や制度などの根本的な部分を変えるには、賛同者を増やすことが大切で、障害者と行政との意見がマッチすることで、理想とする社会像が少しずつ現実化されてきました。
世界にも通用する国としての大きな一歩
2019年7月にウランバートルで「地域におけるインクルーシブ開発・アジア太平洋会議:Asia-Pacific Community-based Inclusive Development Congress」が開催されました。
これは、モンゴル政府が実施する障害分野初の国際会議で、各国の取り組みを共有し議論する場です。WHOや国際連合のメンバーなど、20カ国の500名が参加するため、モンゴルの障害分野の取り組みを国際的にアピールするチャンスと同時に、他国の好事例を学べる機会でもあります。障害者の社会参加をさらに促進できるようにJICAもサポートしました。
プロジェクトチームのみなさん
障害者団体が強くなければいけない
障害者権利条約には180カ国以上が署名し、世界中で障害者法が制定されています。モンゴルも2016年に障害者の社会モデルをつくるために、障害者を守るための新しい法律ができるなど少しずつ変わろうとしていますが、NPOと行政の繋がりが弱い傾向にあることは否めません。
日本は、行政が民間に委託するなどで障害者支援が成り立っていますが、モンゴルにおいても、障害者支援を活動推進する人材や団体を行政が支援することで、安定的な業務委託制度を構築することが、今後の目標です。
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知的障害者の就労に関して議論するモンゴルのTV番組に出演するなど、日々モンゴルで活躍されている千葉さん。ウランバートルでの4年間の活動が評価され、2020年5月に労働社会保障省より労働社会保障分野の最優秀職員として勲章を受賞しました。
労働社会保障省より勲章をいただいた千葉さん
バリアフリーという言葉もまだ浸透していかなったウラバンドールで、障害者と行政の双方に働きかけての意識の改革や活動によって、変化していくウランバートル。モンゴルの誰もが参加できる社会づくりの取り組みは、今後も乞うご期待です!
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JICA「モンゴルのウランバートル市における障害者の社会参加促進プロジェクト」概要
https://www.jica.go.jp/project/mongolia/015/index.html
プロジェクト公式Facebookページ(日本語・モンゴル語)
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