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Dec.

2021

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10 Nov. 2020

“パイパティローマ”へ~ルーツとアイデンティティーをたずねる旅~

増山晶
副編集長 / クリエーティブディレクター/DENTSU TOPPA!代表
増山晶

■“Happiness Is A Journey, Not A Destination.”
( Happiness -Alfred D’Souza)

幸せとは旅であり、目的地ではない、という有名な詩がある。COVID-19により世界が大きく揺れ動き、さまざまな場所で人々は閉じ込められたりもした。ルーツやアイデンティティーに思いをはせる出来事も多い昨今、歴史の中で生まれ、移動を繰り返し、変遷してきた民族というものについて考えることが増えた。私は日本生まれの日本人だと思ってきたけれど、人種としてはどうなんだろう。黄色人種ということだろうか。いくつか世代をさかのぼると、ロシア系のルーツもあるようだ。そうすると、国籍は日本だけれど、人種としては黄色人種と白人の混合になるのだろうか。そしてそのことは、私の幸せに何か関与するのだろうか。

日本とハイチにルーツを持つ大坂なおみ選手は、BLMアクションの中で「自分は日本人で、黒人だ」と発信した。(*1)そもそも、複数のルーツを持つ人は世界中にたくさんいて、それぞれのアイデンティティーは誰かに決めつけられるものではなく、自己決定権が尊重されるべきもののはず。

そんなことを考えながらのステイホーム中、「ああ、波照間に行きたい・・・」と思った。南へ、南へ。その先へ。ニシ浜で海を終日眺めていたら、答えが見つかるのではないだろうか。ルーツとは、アイデンティティーとは、そして幸せとは何か。17世紀、波照間のその先にあるという楽園、パイパティローマに幸せを求めて船出した人々がいたという。そして21世紀にも、日本人のルーツを探るため、パイパティローマに旅立った青年がいた。その彼、ハテルマンに「旅」の話を聞きながら、「日本人とは何か、どこから来たのか」について考えてみたい。

(山田祐基さんa.k.a.ハテルマン)  photo : Shinichiro Oroku

 

■ミックスルーツの現在

2018年に日本で生まれたこどもは918,400人で、そのうち外国籍の母親を持つこどもの数は16,887名。父親が外国籍のこどもも含めると、約50人に1人が両親のどちらかが外国籍となっている。(*2) また、留学生や労働者として日本で生活している人も多い。民族の垣根が世界中で低くなっているが、日本にも国籍も人種もさまざまなひとびとが暮らしている。

最近は、波照間島への旅「の続きとして」アイヌをたずねる旅をしているというハテルマン。彼によると、ことばや顔つき、文化など、沖縄とアイヌにはつながりを感じる点が多いという。入れ墨や彫刻、刺繍といった文化は、さらに台湾とのつながりもあるようだ。波照間島では、村ごとに顔つきの違う人々と仲良くなる中で、「何が日本人なのか」という疑問にとらわれて祖先や血を探り当て、カテゴライズすることに意味はない、「みんな違って当たり前」だ、ということに気づいたという。そして彼は、パイパティローマへの旅に出る。

 

■ハテルマのその先へ~海の彼方の楽園で見つけたもの

パイパティローマとは、波照間島の南にあると考えられていた「海の彼方の楽園」だ。波照間島から南へ、南へと向かう道すがら、台湾の秘境の島ではたしかに波照間島とのつながりの痕跡をみつけることができる。アジアを旅した時に、日本人は懐かしさを感じることが多いとよく言われるが、それは、ルーツによるものなのか、アイデンティティーによるものなのか。世界中を旅してきたハテルマンによると、海外の若者は自分のルーツを日常的に語ることが多いという。ルーツを探す旅は続いても、一人一人違って当たり前だという納得感を手に入れ、自分なりのアイデンティティーを言語化できたときに、自分の芯をつかめたと言えるのではないだろうか。ハテルマンがそんな自分の居場所を見つけた道程の詳しい内容は以下に綴られている。

・パイパティローマって?

パイパティローマは果たして実在したのか、実在していたとしたらどこなのか。

・波照間と台湾、さらにハワイ、イースター島、マダガスカル、ニュージーランドとのつながり、南島語族(オーストロネシア語族)


もしかすると波照間はこのオーストロネシア語族に入っていたのかもしれません。

 

・波照間、西表、蘭嶼にしか生えないクロボウモドキの木

波照間と蘭嶼をつなぐたしかな証拠にハテルマン的には大興奮。

・台湾本島で働いていた蘭嶼島出身の女性と語り合う“who I am, who you are”

フィリピン系、サモア系、ハワイ系…みんな顔の系統が違って面白かった。

 

■世界が変わろうとしている今考える、「私たち」のルーツとアイデンティティー 

―自分は何者なのか。ハテルマンとして、パイパティ―ローマ・クエストを経て、答えは見つかりましたか?

(海の見えるバルコニーでリモートインタビューに答えてくれたハテルマン)

(ハテルマン)ルーツの中には、少なからず虐げられてきた歴史を持つものもある。自分も物心ついてから、ルーツとアイデンティティーに悩み、自分の居場所がないと感じることもあった。日本人の、そして自分自身のルーツをたずねる旅を始めて、自分のアイデンティティーを認識することができた。アイデンティティーとは変わりゆくもの。変わり続けることができる存在としての自分のアイデンティティーを深掘りできたと思う。

―“Happiness Is A Journey, Not A Destination.”、「幸せとは旅であり、目的地ではない」という詩が腑に落ちるようになってきたとか。

(ハテルマン)ひとりひとりが、自分の幸せとは何なのかを追求するのが人生ということ。その時、その時で辛いこともあるかもしれないが、後から振り返って自分自身で面白おかしく話せる時が来れば、それは幸せだと言えるのでは。

―今、COVD-19のために心がふさいでしまう人や、ルーツやアイデンティティーに起因する分断が起こるなど、不安な思いを持つ人も少なくありません。

(ハテルマン)アーティストとして感じるのは、今、アートに触れたくなる人がとても増えているということ。心が凝り固まってしまっている人には、アートに触れて刺激を受けてほしい。アートをやっている人は、常に心の声に耳を傾けている。心の声に耳を傾けることが、アイデンティティーを見つめるきっかけになる。それにアートは役立つのではないか、と思う。

 

■心の赴くままに、自分を探す旅の大切さ

この時代、誰かを、自分を、○○人、という枠にはめることにはたして意味があるのだろうか。そのラベルは誰が、何のために貼るのだろう。自他のルーツを尊重するとともに大切なことは、「私はこのアイデンティティーを選んだ」ということをお互い尊重しあうことではないか。それを認め合う中で、歴史をみつめ、現在に想像力を働かせ、思考を止めずにつながりあえる社会を築きたい。

私とあなたの「違い」も、「共通点」も、喜び合える未来。変わりゆく存在としてのひとりひとりを認め合える世界。それはいつかの、パイパティローマへと連なる道程そのものなのかもしれない。

(蘭嶼島の海に映る月の道が、波照間島まで続いているよう。)

 

*1 https://www.asahi.com/articles/ASN9P51V4N9JUHBI04Y.html

*2厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei18/
*写真、資料の引用 https://hateruman.tumblr.com/

取材・文: 増山晶
Reporting and Statement: akimasuyama

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