[やさしい日本語]#2 コミュニケーションをあきらめない姿勢
- やさしい日本語プロデューサー
- 吉開章
第2回目のコラムでは、やさしい日本語はなぜつくられたのか。どう使われているのか。見ていきたいと思います。
やさしい日本語の歴史
1995年の阪神淡路大震災では、日本人住民に比べ外国人住民の死亡率は約2倍、負傷率は約2.4倍でした。その後、社会言語学を専門とする弘前大学の佐藤和之研究室による調査で、災害発生時の情報提供には、かんたんな日本語が最も適していることがわかりました。そんな減災の研究から生まれたのが「やさしい日本語」です。
さらに2010年、国内に住む外国人で英語ができる人は44.0%で、日本語ができる人62.6%を下回るという調査結果が発表されました。これらをもとに、日本語学・日本語教育学を専門とする一橋大学の庵功雄教授らの研究グループが中心となり、災害時だけでなく平時にも役立つ「やさしい日本語」が研究・実践されています。
また、電通の調査によると台湾の人の41.5%が「少しは日本語が話せる」という結果が出ており、福岡県柳川市では日本語学習者の多い台湾・韓国・香港などの観光客に注目し、やさしい日本語の会話でおもてなしをする「やさしい日本語ツーリズム」事業を2016年に開始しています。
筆者は柳川出身者として、この事業の企画立案を担っています。並行して立ち上げた「やさしい日本語ツーリズム研究会」では、わかりやすく紹介したビデオを公開しています。ぜひご覧ください。
やさしい日本語は、万能ではない。答えもない。
しかし、どこまで行っても、やさしい日本語は万能ではないことを認識しておかねばなりません。たとえば医療や司法など、命や人権に直接関わる場面では、日本語を理解する人であっても、専門知識を持ったプロによる通訳が必要とされますし、母語が異なる人々と共に暮らす社会では、「多言語対応」の整備は引き続き、求められています。
そして、やさしい日本語に「唯一の答え」はありません。何が「やさしい」と感じるかは、受け手次第だからです。漢字を難しいと思う人もいれば、逆に理解しやすいと感じる人もいます。ひとつの表現ですべての人に伝わる魔法の言葉は、おそらくありません。
やさしい日本語は、コミュニケーションをあきらめない姿勢
それでも、やさしい日本語に取り組む意義があります。それは、いまここに、必要とする人がいるからに他なりません。
2019年に成立した日本語教育推進法によって、日本語を母語としない人への教育機会を、国が保障していくことになりました。これは、今後ますます、やさしい日本語を活かした社会づくりが必要になってくることを表しています。
そのときもっとも大切なことは、「あきらめない姿勢」ではないでしょうか。もし相手が、日本語を少しだけ話す人だとわかったら、とことんわかりやすく「やさしい日本語」でコミュニケーションを取ろうとしてみる。一度では、伝わらないかもしれません。でも、相手には、あなたが真剣にコミュニケーションを取ろうとしていることは、きっと伝わる。それも、やさしい日本語がもつ大きなパワーである。長年、この活動に取り組んでいる筆者は、そう信じています。もし、今後そんな場面が訪れたら、思い出してください。あきらめない姿勢こそが、もっとも「やさしい」日本語なのだということを。
—アートディレクション: 三宅優輝—
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