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Dec.

2021

interview
12 Mar. 2021

自分らしく、を生きていく。とは?~インタビュアーが伝えたかったこと~#lavender_ring

増山晶
副編集長 / クリエーティブディレクター/DENTSU TOPPA!代表
増山晶

私の身近ながんのこと

現在、日本人の2人に1人は一生のうちになんらかのがんになるという。これだけ身近な病気なのに、いざ自分や身内が当事者になったときの心構えができているかと問われたら、即答できない人も多いのではないだろうか。筆者は10年前に両親を相次いでがんで亡くしているが、それぞれの闘病も、家族の向き合いも、すべてが手探りで何が正解だったのかはいまだに分からない。だが、在宅ホスピスを希望し、同居の私自身が看取った母は、少なくとも母が望んだ「友人や家族との変わらぬつきあい」や「老衰のような旅立ち」を果たせたような気がしている。毎年の人間ドックの問診票で家族の既往歴を記入するたびその頃のことを思い出し、だから、もし自分ががんになったら?というシミュレーションは、私にとっては身近なことであり、母のようにある程度はしておかねばと思ってきた。

花咲くような笑顔のポスターが素敵でずっと気になっていた、がんサバイバー支援活動であるLAVENDER RING(ラベンダーリング)だが、この度約3年半の軌跡をまとめた本が刊行されたとのこと。自分や身近な人ががんになることは、誰にとっても起こりうることでありながら、その肉声を笑顔とともに共有できる機会はあまりない。「がんになっても笑顔で暮らせる社会を作りたい」というLAVENDER RINGの活動の中で、今回の206人のがんサバイバーの笑顔をまとめた出版にあたり、インタビューとコピーライティング全般に携わった中川真仁さんにお話を伺った。

「自分らしく、を生きていく。がんとともに生きる206人の笑顔と想い」
(ハースト婦人画報社)

「自分らしく、を生きていく。」とは?

―インタビュアーとして、このLAVENDER RINGの活動に関わる中で、どのような思いをもっていますか?

自身も父をがんで亡くしていることもあり、当時父にインタビューすることができたなら、どんなことを語ってくれただろうと思うこともあります。100人以上の方からお話を伺うのは、とても贅沢な時間。告知を受けて変わったこと、生き方、やってみたいこと、他の人へ伝えたいこと。様々な言葉はすべて、哲学であり、先にがんを経験した人生の先輩の言葉だと感じます。がんについては、「知らないことは悪」だと思っていて。無意識に目を背けていても、ある日、その主人公になるかも知れない。そして、当事者になって初めて知ることが多い。そんな時に、人生の先輩の経験を知り、紡ぎだされた言葉と本音に触れ、何かを感じ取ったり、学んだりできたらよいのでは。そのお手伝いをさせていただいていると思っています。もちろん、サバイバーのみなさん、闘病しているみなさんを勇気づける、という意図もあります。

―その人の経験から学ぶというのは、ヒューマンライブラリーにも通じる考え方ですね。どんな風に学んでもらえたら良いでしょうか?

自分に近い人を探してもらえるように、インタビュー内容の編集や構成を考えています。がんは十人十色の経験であり、闘っている人もいれば、そうではない人もいる。がん細胞を敵視している人もいれば、なだめながら会話をしているという人もいる。このLAVENDER RINGのイベントに来る時点で、参加者は前向きな人だとも言えるし、もしかするとがんサバイバーの中でもマイノリティな方々かも知れない。けれど、一人一人の自分らしい語りの中に、他の誰かにも響く言葉があるのではないか、それを探してもらえたらいいな、と思っています。

―タイトルに、「生きていく」というコピーが入っています。

正直、この言葉を使うにあたり、めちゃくちゃ悩みましたし、議論にもなりました。ただ、自分らしく生きていた、自分らしく生きている、その時のその生き様の記録であるということは確か。だから、「自分らしく、を生きていく。」というタイトルにしました。出版に前後して、亡くなられた方もいます。けれど、ご家族に本をお渡しして、とても喜んでいただけたりもしました。タイトルだけでなく、インタビューごとにおひとりずつに合わせて考えるキャッチコピーも、本当にこれでよかったのか、ご本人が言いたいことを伝えられているのか、毎回とても悩みながら書いています。

中川真仁さん

サバイバーに寄り添う立場で思うこと

―がんサバイバーではないという立場からインタビューすることで、難しいこともありますか?

自分はサバイバーではないのでやはり分からない、どこまで行っても分からないということは事実です。また、こういった活動をしていると、周囲からは本当に心からやっているのか?と思われてしまうこともあります。こういう(社会貢献的な)活動は本気度が問われてしまいます。悩み続けています。だから、悩みながら伝えたサバイバーの言葉が誰かに届いたり、もがきながら活動していることをサバイバーの方に肯定していただけたりすると、本当に嬉しいですね。

―中川さん自身のことについて、インタビューさせてください。お父さまの闘病を振り返って、サバイバー家族として伝えたいことはありますか?

本人と会話をしたほうがいいです。どう思っているのか、どうしてほしいのかなど、家族でも、上司部下でも、先輩後輩でも。会話をするかしないかで、困り方が全く違うと思います。

例えば、父が病院から週末に帰宅する前、必ずデパ地下に寄って好きなものを買っていたなんて知らなかったし、隠されていたんですよね。僕が受験だったから。最期に、ふたりでしゃべろうか、と言われて30分ほどしゃべったんですけど、「人はひとりでは生きていかれへんねんぞ(だからはよ結婚せい)」と言われました。がんを知らないことは悪だと言いましたが、がん患者のことを知らないことも良くないと思いました。家族なのに、男同士なのに、照れ臭かったりしてあまり会話をしなかったことをすごく後悔しています。だから、いっぱい話した方がいいと思います。

これからも、LAVENDER RINGらしく

―出版という節目を経て、これからについて、変わらずやっていこう、ここは変えていこうといったことはありますか?

これまでもMAKEUP & PHOTOS WITH SMILES以外にも、がんサバイバーの親とそのこどもで、3Dプリンターで未来像を作ろうというプロジェクトなど、さまざまな活動をしています。MAKEUP & PHOTOS WITH SMILESでは、資生堂は化粧の力、電通は知恵、キャンサーネットジャパンはネットワークやインサイトの知見、ハーストは出版力という才能を持ち寄りましたが、この活動の継続はもちろん、他の才能とのかけ合わせも増えていけばいいと思います。社会課題への向き合い方として、ココがダメだ、でなく楽しく解決していけるような形をもっと作っていけたらいいですね。

―社会的なゴールイメージはありますか?

最終的には、LAVENDER RINGがなくなるような社会になればいいと思っています。あ、がんなの?何か手伝うことある?という会話が自然に生まれるような。海外だと、退院して帰宅するとイエーイ!と迎えられたりして、サバイバーはファイターと呼ばれたりしているんですよね。文化としてそこまでいけるかは分からないですけど、例えば電車の中でも「もしかしてあの人しんどいのかな?」という風に、がんを知ることによって他人の辛さを自分に引き寄せて感じられる想像力が養われるといいなと思います。

中川さんと筆者

インタビューを終えて

10年前のその前夜、珍しくさみしそうにしているので隣で眠ったところ、朝なかなか起きないなと思ったらそのまま見送ることになった母。前日にこっそり頼んでいたらしい、タッパーいっぱいのミートソースを届けてくれた友人も驚いていたように、最期まで「母らしい」生き方だったと思う。おいしい手作りミートソースは、その日の親族一同の夕食となったわけだが、食べそこねて悔しがる母の顔が目に浮かぶようだった。

伯母もまた、私が小さいころに乳がんを患ったが、思い出に残る彼女は、お見舞いのたびに床頭台からピカピカのキャラメルを一箱まるごとくれた。楽しみに待っていてくれたのだということが、今なら分かる。

そんなエピソードの中にあるサバイバー本人の気持ちを見逃さないためにも、がんを知り、サバイバーを知ることは大切なのだと、今回のインタビューを通じて改めて思った。

 

私がこの本で特に心を揺さぶられたインタビューは、チアダンサーの石田れなさんのものだ。彼女は、その1年前に同じくインタビューを受けたレモネード屋の榮島四郎さんのニュースを見て、同じ小児がんで頑張っている人の言葉に勇気づけられ、「将来は、薬を研究する人になりたい。」と答えた。前を向く笑顔が誰かの力になる瞬間を目撃し、頑張る毎日と目標を立てる将来を両立することの大切さに感じ入った。また、支えるご家族や周りの人々の気持ちがポジティブに変化する様子も伝わってきて、その輪の中に、いつでも参加できる自分でありたいと思った。

今も闘病中の友人、サバイバーとして生き生きと活躍している知人、そして彼らを支えている家族や友人たち。自分につながる誰かが向き合っている、がんという身近な病気を受け止めて、辛さを希釈し、不安を解きほぐし、前を向くきっかけとなるLAVENDER RINGの活動。ひとりひとりの自分らしい、さまざまな生き様を知り、つながりあうことが、「がんとともに笑顔で生きていく」力になるのだろう。これからも笑顔の輪を広げる活動を応援し、勇気をもらっていきたい。

 

LAVENDER RINGとは:企業や人、行政や学校、病院など活動の趣旨に賛同してくださる有志の方たちが自由に参加し、それぞれが「できること」を持ち寄りながらがんになっても笑顔で暮らせる社会の実現を目指して具体的なアクションを起こしていく場です。  http://lavender-ring.com/

 

 

取材・文: 増山晶
Reporting and Statement: akimasuyama

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