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Dec.

2021

interview
11 Mar. 2021

受け手を信じて、伝え続ける―映画『空に聞く』監督の言葉と思い―

八木まどか
メディアプランナー
八木まどか

東日本大震災から10年目。10年前のこの日、どこで誰と過ごしていたでしょうか。

 

10年間を振り返ると、被災地の課題は複雑に進む一方、世界中で、社会環境、風潮、制度、テクノロジーの進歩など、様々な変化が起こりました。

また、東日本大震災の後にも熊本地震など様々な災害があり、昨年から、新型コロナウイルスによる混乱も起こりました。10年前「絆」「つながろう」と目にしない日がなかったのが嘘のように、心と心の分断を感じるような出来事も続きます。

 

一方、SNSなどメディアや文化の変革により、「発信」や「表現」の幅が広がり、場所や立場を超え情報が簡単に得られ、今まで可視化されにくかった様々な「違い」にも目を向けられるようになってきました。

 

「変化」や「違い」に気づいたときの戸惑い、ゆらぎ、寂しさは、微妙でとらえにくい。言葉にするのを躊躇う気持ちすら揺れ動く。時が流れれば、かつてと同じようには悲しめない。しかし、そうした感情が、誰かに背中を押され、人に伝わるとき、計り知れない可能性があるのではないか。本記事では、「伝える」を問いかける、震災後の東北で制作された映画『空に聞く』を取り上げます。

 

映画『空に聞く』

岩手県陸前高田市は、津波で甚大な被害を受け、多くの住民が亡くなりました。映画『空に聞く』は、その場所で「陸前高田災害FM」のパーソナリティを約3年半務めた阿部裕美さんを追ったドキュメンタリー映画です。

 

映画「空に聞く」予告動画

 

震災直後から、東北の沿岸部を中心に30もの臨時災害FM局が開局されましたが、被害が甚大だった陸前高田市では、2011年12月に開局。その後、約7年という他局と比べても長い期間、人の「声」を通して、陸前高田の様子を伝えました。

 


阿部裕美さん(©KOMORI HARUKA)


「陸前高田災害FM」の局内(©KOMORI HARUKA)

 

阿部さんは津波でご家族を亡くしました。ラジオパーソナリティは未経験だったものの、次第に様々な形で番組を作っていきます。たとえば、阿部さんが仮設住宅を訪れてお年寄りなどに「昔語り」を聞いたり、七夕祭りを現地で取材したり、中学生、外国人、障害のある人など地域の様々な人がパーソナリティやゲストになる企画も放送しました。

 


仮設住宅でインタビューする阿部さん(©KOMORI HARUKA)


陸前高田での思い出を語る4人組(©KOMORI HARUKA)

 

撮影が行われたのは、2013年~2015年と、2018年という、大きく二つの時期に分かれます。

津波によって多くが失われた土地の上に、山を削って運んだ土を盛る「かさ上げ工事」が進み、そして、かさ上げ地の上に新しい住宅や店が立ち並ぶという、「本当に同じ町で起こったことなのか」と思うほどの大きな変化が映っています。

 

 


津波で流された土地一面に、緑が茂る(©KOMORI HARUKA)


次第にかさ上げ工事が進む(©KOMORI HARUKA)

 

阿部さんはパーソナリティを辞して数年後、できたばかりの新しい市街地に、震災前ご夫婦で営んでいた小料理屋「味彩」を再建します。映画では、「味彩」で働く阿部さんが、ラジオでの立場とは逆に、カメラを聞き手とする語り手となる場面も描かれます。

 

「(亡くなった人たちに)見ててもらわなきゃ困る」という阿部さんの言葉に、彼女を突き動かすものを知りました。また阿部さんが大好きだという再建後の「味彩」の勝手口から見える風景(現在は建物が増えさらに変化したとのこと)は、激しく変わる町に対し、寂しさを我慢しないはずがないと考えていた筆者には、意外なシーンでした。しかし、「受け入れる」とは、昔も今も未来も、等しくは愛せなくても、ゆるやかに心の中でつなぎながら、今ある美しさを見出そうとすることかもしれない、と阿部さんに教えて頂いた気がします。

 

東京から東北へ移り住んだ作家が持つカメラ

監督の小森はるかさんは、東京藝術大学在学中に震災を経験し、同級生の瀬尾夏美さんと一緒に東北へボランティアに行き、2012年から2人で陸前高田に移住しました。小森さんは蕎麦屋でアルバイトをしながら、休みの日にカメラを持って出かけました。当初は映画を作るというより、町や人の記録を重ねていくように進めたそうです。

 

(小森さん、瀬尾さんの活動に関する記事)

https://cococolor.jp/tohoku2019_1

https://cococolor.jp/tohoku_2020_02

 

小森さんは、亡くなった人やかつての風景について聞き、また、陸前高田に馴染んでいくうちに、人にカメラを向けることが容易ではなくなったそうです。それでもカメラを向け続けられたのが、阿部さんと、前作映画『息の跡』で撮影した陸前高田で種苗店を営む佐藤貞一さん。佐藤さんは、「日本語では辛いから」と、独学で身に着けた外国語で、震災の経験を手記として書き出版しています。

 

阿部さんと佐藤さんに共通するのは、静かに強いエネルギーで、失ったものも今あるものも丁寧に記録し、文字や声を通して、見えない誰かに届ける姿です。

そのような伝え手たちへ、どのような思いでカメラを向けてきたのか、小森さんに伺いました。

 

 

阿部裕美さんの存在

 

―小森さん

「阿部さんは、自分語りをするパーソナリティではなく、町の人々の声を「聞く」ことを、丁寧に、工夫を凝らして番組作りをされていた方です。そんな「聞き手」としての阿部さんに、すごく惹かれました。

 

伝えるという仕事は、自ら発信するだけではなく、目の前にいる人と、ここにいない人との間に立つことでもあるのだと、阿部さんの聞く姿勢に私自身が教えられてきた撮影でした。

 

阿部さんがラジオを通して伝えていたのは、声だけでなく、その背景に聞こえている生活音であったり、七夕祭りのお囃子の音であったり、月命日の黙祷放送の祈り(無音の時間)であったりもしました。普通の放送だったらノイズになってしまうような音にも、人の心に滲み入る音があり、一緒に懐かしんだり、思いを通わせたりすることができる。」

 


陸前高田の七夕祭り(©KOMORI HARUKA)

 

「ラジオは情報を伝えるだけのメディアではないことを、阿部さんは当たり前のようにやってのけてしまう人でもあったと思います。」

 

『空に聞く」の制作期間中で、忘れられない出来事

―小森さん

「たくさんあるのですが、2018年にインタビューをさせてもらった時に、「味彩」という和食料理屋が再建されるまでの6年9ヶ月が「夢のような時間だった」と阿部さんがおっしゃっていたのが、忘れられないことの一つです。

 

逆に私は、パーソナリティをされていた阿部さんを撮り続けてきて、「味彩」にいる女将さんとしての阿部さんを見た時に、夢のように感じたからです。もちろんどちらも現実なのですが、元に戻ったわけでもなく、まったく新しいわけでもない日常が始まっているんだと気付かされた一言でした。」

 

阿部さんを撮影する時に、気を付けていたこと

―小森さん

「被災の”当事者”として撮らないことを、気をつけていたのかなと思います。被災の体験に触れないようにしようとか、隠したいということではなく、阿部さんのパーソナルな面に焦点を当てた記録ではないという思いからです。

 

一度だけ、3月11日の日に阿部さんが目に浮かべた涙へカメラを寄せてしまったことがありました。なぜそんなことをしてしまったのか、ずっと引っかかっていて、考えるうちに、何を撮るべきか、撮らないでいるべきか、はっきりしていったような気がします。」

 


空に向かう連凧(©KOMORI HARUKA)

 

映像を使って伝える時に心掛けていること

―小森さん

「ある一つの強いメッセージだけにならずに、記録を渡していくにはどうしたら良いかを、映像表現で探っています。

 

面白いのは、ドキュメンタリーであれ、フィクションであれ、一人の実在する人が写っているのに、見る人によっては、まったく違う人の像を思い出し、重ねて見ていたりすることがあります。また、かさ上げ工事の風景を撮ったとしても、こんな復興でいいのか、と見る人もいるかもしれませんが、空の色が綺麗で、光が差し込んで、どうしようもなく美しく見えてしまうような時もあります。」

 


新しい町が作られていく(©KOMORI HARUKA)

 

「そういった、一つの見方には収まりきらない映像の特性に助けられながら、様々な感情や記憶を重ねられる余白を残しつつ、伝えるということを心掛けたいと思っています。」

 

今後、撮りたいものとは

―小森監督

「私はテーマを決めずに、撮りたいと思う人との出会いから制作をスタートすることが多いのですが、陸前高田以外の地でも、そんな人との出会いがあります。時間はかかるかもしれませんが、これからも一人のひとを記録することを続けていきたいなと思っています。」

 

 

受け手を信じて伝える

「伝えるという仕事は、自ら発信するだけではなく、目の前にいる人と、ここにいない人との間に立つことでもある」と語る小森さんの言葉が印象的でした。「ここにいない人」はまだ見ぬ受け手であり、今は会えないけれど伝え手の背中を押してくれる人かもしれません。

 

また、小森さんの映像の力と、映像を受け取る相手の想像力を信頼する姿勢も感じました。だからこそ、阿部さんから小森さんへ、小森さんからさらに別の人へ、大事なものが受け渡されているのだと。

 

多様な情報を受け取れてしまう今、疲弊し、何を信じるべきかわからない時もありますが、伝え手から信頼されている自分を知ることも、大事なことかもしれません。

 

 

小森はるか監督作品 上映情報

・映画「空に聞く」

全国各地で上映中。

HP:https://www.soranikiku.com/

 

・特集上映 映像作家・小森はるか作品集2011-2020

3月19日(金)までポレポレ東中野にて開催中。

ほか全国順次開催。

HP:http://soranikiku.com/kh/

 

「小森はるか+瀬尾夏美」作品情報

・映画「二重のまち/交代地のうたを編む」

よりポレポレ東中野、東京都写真美術館ホールにて公開中。

ほか全国順次公開。

HP:http://kotaichi.com/

 

・企画展「3.11とアーティスト:10年目の想像」

場所:水戸芸術館

会期:2月20日(土)~5月9日(日)

HP:https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5111.html

 

取材・文: 八木まどか
Reporting and Statement: yagi

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