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23

Sep.

2020

event
16 Aug. 2019
展示物「音鈴

茅ケ崎市美術館が開いた「インクルーシブの迷路」の出入り口。

佐多直厚
ソリューション・プランナー / プロデューサー
佐多直厚

企画展「美術館まで(から)つづく道」
インクルーシブデザインという手法を、散策というフィールドワークで。

 8月初旬、猛暑の昼下がり。茅ヶ崎市美術館で開催中の企画展「美術館まで(から)つづく道」を鑑賞するために、JR茅ヶ崎駅に降り立ちました。そのタイトルどおり、そこからもう鑑賞体験がはじまっていることに気が付くのは冷房が効いた館内で汗が引いた頃。駅から美術館へはバリアフル。バリアフリーではなく、バリアだらけでした。道は狭く、交通量も多くてわかりにくく、なんといっても看板もない。でも今はスマホのマップアプリがあるさ!と進んで行った到着ポイントは、林に囲まれた人家の前。見回して上を見上げると林の向こうに丘があり、美術館らしき建物がチラリ。通りがかったウォーキング中の女性に尋ねると、穏やかに
「そこのスロープを上がると美術館ですよ」
瀟洒な現代的建物は紛れもなく美術館。出迎えてくれた学芸員の藤川悠さん。いただいていた地図データとマップアプリで戸惑ったと言うと、楽しそうに頷かれました。
 実は企画展のテーマは分かりにくい美術館への道がスタートなのでした。2年前、美術館が主体となって運営するアートプロジェクトMULPA(Museum UnLearning Program for All)が立ち上がりました。多様な人々の美術館へのアクセシビリティーを高めようと<みんなで〝まなびほぐす″>ために。

www.kifjp.org/mulpahttp://www.kifjp.org/mulpa
関わっている弱視の方が言ったひとこと。
「むしろ迷路のように楽しんだ」
サポートされることを超えた異なる認識そしてそこから生まれる新たな価値探しが始まったのです。インクルーシブデザインという手法は、「みんなの」という発想を転換します。これまではできるだけ多くの人にフィットする一つの成果物を探してきましたが、それでは本当の「みんなの」には永久にたどり着けません。見えない人には看板は意味を持たず、聴きとれない人にはアナウンスは無力であるように。だからといって無視するのではなく、いやむしろ一緒に「そのひとの」解決策を探し続けることが新しい「みんなの」デザインになるのです。生み出されたものが今回の企画展です。

フィールドワークをお供した盲導犬のリルハ。何を感じたんだろう?
 迷路のように楽しむ。フィールドワークとして茅ヶ崎を1年かけて散策したダイバーシティな表現者たち。体験は創作に移行し、あらゆる感覚で楽しむインスタレーションそのものとして提示されていきます。作品群は成果物ではありません。鑑賞する人自体がインスタレーションの共同進行者なのです。鑑賞するだれかを鑑賞する時、それを実感しつつもその時でさえ共同進行者であることを感じます。冒頭に言った駅に降り立った瞬間から鑑賞体験が始まっていることをどなたも感じるでしょう。美術館へ歩きながら、感じる潮の香にサザンビーチを想像したり、草いきれに自分の体温を感じたり、狭い道路に切り取られた空間の連なりと360度の音風景にまさに迷路を実感したことを作品と対峙した瞬間に取り戻すのです。
作品を紹介するのは至難の業です。その場にいれば、きっと感じる「一瞬の永遠」「幸福も不幸も、時間や距離も消えてしまう体感」をお伝えすることは無理です。資料のプレスリリースもご覧いただければ、概要は分かっていただけますが、それさえあればいいのであればこの記事で紹介する必要はありません。体験あってこその企画展としては本当に稀有なものです。それを感じていただける企画展のPR映像をご紹介します。この映像がもっとも体験に近いでしょう。
「美術館まで(から)つづく道紹介映像」
https://www.youtube.com/watch?v=hV9RVCJ6qQ0&feature=youtu.be&fbclid=IwAR2w2klaSMNlHvrxkY6DUI0rYfgLbYDOmQLhZb9o9uCbyNa7OZ1UBiILAcQ
映像に登場する方々は制作協力者のみなさん。「うつしおみ」の周りを楽しそうに駆け巡るのは西岡克浩さん。高度難聴者ですが、リズミカルな動きと明るい表情に心の音が溢れています。
「【美術館まで(から)つづく道】道の香りパレット紹介映像」
https://www.youtube.com/watch?v=SgvGD9RSM88
このパレット欲しいですね。香りって何なのか。匂いや臭いとも違う存在認識かも。

企画展プレスリリースはこちらからダウンロードしてください。制作協力者の方々も5ページに紹介。
http://www.chigasaki-museum.jp/files/1415/6350/1346/9dce8fc7ccc7fb11125db7373241066d.pdf

企画展は9月1日まで。その間多彩な関連イベントが開催されています。
8/4の西岡克浩さんが主宰する美術と手話プロジェクトによる「手話で楽しむ鑑賞ツアー」では一般の方も多数参加。全員が言葉以外の表現力を大いに発揮して楽しんだようです。

ダイバーシティという単語が当たり前になり、インクルージョン、インクルーシブもそれを追いかけるように使われ始めました。インクルーシブデザインをベースに、学校教育では3年前からインクルーシブ教育を目指しはじめ、農林省では農福連携インクルーシブデザインが次世代のテーマとなっています。消費社会でもインクルーシブマーケティング理論が課題解決のリーダーとなりそうです。しかしインクルーシブだから?か今ひとつしっかりした手応えを感じません。まだまだインクルーシブは迷路そのものなのかもしれません。その中で概念に終わりそうなアート分野で、実に手ごたえのあるカタチを作ったこの企画展。迷路を楽しむことで迷路の入口と出口を見つけてくれたとわたくしは受け取りました。あなたもどうぞ入場ください。
まさに迷路へのガイドだったスマホマップ。正しい経路は別です。
迷わせてくれたスマホマップ。帰り道は正規ルートを歩きながら、迷ガイドに感謝?
企画展パンフレット裏表紙には美術館とともに盲導犬ユーザーが作った「言葉の地図」が掲載されています。


<連携記事のご案内>
Yahoo!ニュースにて別視点の考察と道すがら出会った3人鼎談記事をまとめました。併せて有機的なご理解になれば幸いです。
記事タイトル『茅ヶ崎市美術館で体験する『インクルーシブデザイン』という名の迷路の出入り口。』
https://news.yahoo.co.jp/byline/satanaoatsu/20190819-00138613/

取材・文: 佐多直厚
Reporting and Statement: raresata

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