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Apr.

2024

interview
4 Mar. 2021

車いすユーザーだからといってファッションに制限があるとは思わない|モデル・みゅうさんインタビュー

みゅう 足は姫にあげた

現在、CMやファッションショー・イベントなどに出演し、YouTubeチャンネル登録者数2万人、Tiktokフォロワー数20万人、Twitterフォロワー数7千人、Instagramフォロワー数2.7万人(2021年3月時点)と多くのフォロワーから支持されるモデル・タレントのみゅうさん。抜群のルックス・明るい声ではっきりと話し、伝える動画は思わず視聴者を引き付ける魅力がある。そんな彼女のSNSのアカウント名は「みゅう 足は姫にあげた」。実は、彼女は16歳の時に事故により両足を失った車いすユーザーなのである。彼女の動画は「車いすユーザーだから○○ができない」といったことは決して表さない。もちろん、一車いすユーザーとしての生活の様子を包み隠さず発信しており、彼女一個人の個性だけではなく、車いすユーザーの目線で、起こったこと、感じたことをありのままに伝えている。そんな彼女の動画は、見る人に対して固定概念への払拭・気づきを与え、何より前向きな気持ちを与えている。

ダイバーシティ&インクルージョン×ファッションを考える編集員高田と澤田が、そんなみゅうさんの「壁を感じない」考え方、生き方を軸に取材を行い、誰でもファッションを楽しむことができることのヒントを探っていく。

洋服選びは、自分の好きなものを好きなように着る

場所やイベントに合わせて様々なコーディネートを楽しむみゅうさん

「お金をかけるならファッションです」とファッション好きと教えてくれたみゅうさん。

―車いすユーザーになったことで、コンプレックスや洋服選びは何か変わりましたか?
みゅうさん:
もともと体に対するコンプレックスは「胸が大きい」ことでした。中学生~高校1年生のときはデコルテが見える服や体のラインが分かるような服は選ばず、どちらかというと下半身で、足を出したり、トータルコーディネートのバランスをとるようなスタイルでした。そのため、足がなくなってからは「どうやって着やせしよう」と思いました。今まで着ていたものを同じように着てしまうと、単純に着太りしてしまう感じがすごくありました。例えば、ニットなどはトップスに持ってくると上半身だけ”だぼっ”とした印象になってしまうため、積極的に選ばなくなりました。ただ、もともと「ニットが大好き」というわけではなかったため、「着れないから悲しい」という思いもありません。系統にとらわれず、色々な服のタイプを着るのが好きなので、「今着れるものを楽しむ」という感じです。

―コーディネートのバランスが事故前後で変わったということですが、他者から見られたときの自分が変化したときの切り替えがとても早いと感じました。
みゅうさん:
切り替えが早いという感覚は自分自身にはありませんが、例えば、私の場合は他者からこんな風に見られたいという点はお洋服を選ぶうえではあまりないからかもしれません。もともとお洋服を買うときは、自分が好きなものや惹かれたものを買います。日々のコーディネートにおいては、気分もありますが、どちらかというと、その日にどこに行くか、行く場所に合わせて服を選ぶことが多いので、色々なテイストの服装を楽しんでいます。例えば、かわいらしい場所に行くときはガーリィなテイストを選びますし、落ち着いたところに行くときはアンティークなテイストのお洋服を選ぶことが多いです。

車いすユーザーになったから、コーディネートのバランスは変わったかもしれないが、ファッションを楽しむこと自体はこれまでと変わっていないという。

―普段、服はどういう所で買いますか?
みゅうさん:
色々な場所です。車いすユーザー向けに作られた服屋さんに行くことはありません。機能が整っていればもちろん嬉しいけれど、私にとって機能性は二の次です。自分が好きな色、デザインで好きなものを選びます。お買い物をする場所は、渋谷の109や新宿のルミネによく行きます。

ショッピングの様子

―そういったお洋服屋さんで服選びの際に何か制限を感じることはありますか?
みゅうさん:
多少はあります。車いすは座った姿勢が基本になるため、スカートは座った時にどうしても丈が上がってきてしまいます。そのため、あまり丈が短いスカートは、選ばないということなどはあります。また、トレンドのデザインとかでも同じような状況が起こることがあります。例えば、少し前に流行っていた「袖口が広がったデザイン」は車いすをこぐ時に汚れてしまうので「買ってもすぐだめになってしまうな」と思い、自然と選ばない状況は生まれます。

お洋服選びの様子

―お洋服はよくお直ししますか?
みゅうさん:
基本的にあまりお金をかけてお直し屋さんで直したりはしませんが、例えば、パジャマの上下セットのものは合わせるときにボトムスだけ長すぎることがあるので、切ったりもします。そういった時は自分で切って、自分で縫います。もちろん素材によっては誰かに直してもらったりもします。もともとリメイク自体は好きということもあるかもしれないです。学生のころはよくクラスTシャツとかもシンプルに着るのではなく、何かしらリメイクをしたりして自分らしさを工夫していました。

―事故前後でメイクや髪型は変わりましたか?
みゅうさん:
髪型に関しては、もともと髪の長いのが好きなので、髪を切るタイミングが「車いすのタイヤに引っ掛かりそうなタイミング」になったくらいです。

―目線が上にいくように髪型で工夫していたりしますか?
みゅうさん:
目線が上にいくような意識はあまりないですが、もともと変わったことが好きなので色々なヘアカラーでアレンジはしています。私の周りの車いすユーザーの方は、やはり上半身に目が行くように工夫しているとおっしゃっていました。例えば、お団子ヘアにしたり、帽子をかぶったりしているようです。

色々なヘアカラーを楽しむみゅうさん

「車いすだから」という前置きをつくらず、ファッションを楽しむ

―みゅうさんのように障害有無関係なくファッションを楽しむようにするために普段から意識していることはありますか?
みゅうさん:
「車いすだから」という前置きを基本的には作らないようにしています。例えば、京都で着物をレンタルするときにも、普通のレンタル服屋さんで借りて、普通に着ます。もちろん、サイズが合わないから少し工夫するとか、買ってもすぐに汚れて着れなくなりそうな服は選ばないという状況はありますが、そうした状況はどんな人にもあることだと思います。

行く場所の雰囲気に合わせた和装風のコディネート

みんなが使える、みんなが好みのスタイルでアレンジができる工夫がもっとあったらいい

―普段の服選びで「これが○○になったらいい」というものはありますか?
みゅうさん:
座った時のシルエットがかわいいスカートがあったらいいなと思います。例えば、普通のブランドで売っているようなアシンメトリースカートは立ったときのシルエットで作られているため、座った時には見え方が変わってしまいます。あとは、コートでは袖口にファーがあるものは取り外しが可能になってもらえたら便利で助かります。雨の日などには車いすをこぐと汚れてしまうので、ファーの部分だけ取り外しができたら嬉しいです。車いすユーザー用に何かを作ってほしいということではなく、障害の有無かかわらず誰でも着やすいような工夫がある服がもっと増えたらいいなと思います。私くらいの車いすユーザーにとってみたら、一般的な普通のお洋服でも着こなすことはできます。

誰でも選択肢は100%の状態で服が選べることが大事

ドレスを着用したとき

みゅうさん:
「これさえあればもっと着やすいのに」と感じている人達に対して「○○ユーザー向け」を作ってしまうと、選択肢がそれだけになってしまうんです。私はそれがすごく嫌で、選択肢は100%の状態であってほしいです。選択肢は100%の状態(障害有無かかわらず服が選べる環境)だけど、プラスαでもう少し着やすいものであったり、例えば、一人ひとりに合った複数のパターンを用意したお直しメニューの提供のほうがいいと思います。ユニバーサルデザインと言われていますが、わざわざユニバーサルデザインとは言わずに、できるだけ多くの人が着やすいように、好みにあうアレンジができるような工夫があったらいいなと思います。例えば、2way、取り外し可能、調節可能などです。車いすユーザー向けという対象を絞ってしまうことで、車いすユーザーの選択肢が狭まってしまうし、車いすユーザーに対しての情報発信に閉じてしまいます。そうではなく、障害有無かかわらずみんなが着れる服があるということを、健常者に対しても発信することで、その人の身内や身近な車いすユーザーに教えてあげることができます。そうして情報が伝わっていくことで、より多くの人が知ることができると思います。

似合わない・着れないと決めつけない

普段はあまり選ばなかった緑色のお洋服だけではなく、バゲットハットにも初挑戦した日のコーディネート

―コンプレックスを抱えている人にとって服選びが制限される感覚になることがあると思うのですが、みゅうさんがもしもそういった人にアドバイスするとしたら何がいえますか?
みゅうさん:
私は、どんな人も「自分はこれが似合わない」と決めつけなくてもいいと思っています。何を重視するかにもよって変わってくるとは思うのですが、私は自分の好きなものを重視しているのでコンプレックスや他人からどう見られるかを重視しません。自分が惹かれたものを素直に選んでいったら、割とその服が着こなせたり、自分の中でしっくりきたりすることがあります。私の場合は、緑色の服をこれまであまり選んでいなかったのですが、昨年緑色の服に惹かれることが多く、自然と選ぶ機会が増えました。そうすると、割と着こなすことができ、新たな発見を体験しました。自分がよく選ぶ色が似合うのは当たり前かもしれませんが、これまで苦手意識を持っていた色や普段選ばない色を着こなせたとき、おしゃれがワンランクアップしたような気分になります。似合わないと決めつけず、挑戦はいくらでもしていいと思います。行動を起こす前に勝手に自分自身で似合わないと決めつけるのはよくないのかなと思います。

SNSで発信しようと思ったきっかけ

講演会の様子

―みゅうさんのSNSは、着飾らないご自身を発信しているところが魅力の一つだと思うのですが、
着飾らない自分を発信することのきっかけや勇気づけられたことがあったら教えてください。
みゅうさん:
「車いすだからかわいそう」とか「車いすユーザーはこんな感じだよね」とひとくくりにされたくないという思いが根本にあります。「健常者から車いすユーザーになったことで落ち込んだでしょ」とよく言われますが、私の場合はそうではありません。私は両者の立場の経験があるので、そのような考えを持つことも分からなくはないですが、人それぞれ、障害の度合や種類の前に、性格があります。それと一緒でそう思うかどうかも人それぞれだと思うんです。私は車いすユーザーになれたことに対して、落ち込んだことはないので、事実を発信して知ってもらいたいという思いが根本にあり、SNSで発信するようになりました。

SNSでは「素」を出して表現したい

みゅうさん:
車いすユーザーである自分に対して抱かれる固定概念を壊していきたいという思いがあるので、着飾って良い風に自分を発信したいという思いもないですし、本当にありのままの自分を表現したいと思っています。もちろん、落ち込むことがない人間ではないです。小さい・大きいかかわらず、落ち込むことは誰しもあると思います。私もネガティブになることはあります。ただ、日常的にやりたいことが多すぎて、落ち込んでいる期間が短いことも事実です。

障害の有無でターゲットは絞らない

みゅうさん:
また、発信する際の対象ターゲットは特に絞っていません。車いすユーザーの方に対しては自分もこういう風になりたいな、と前向きになってくれたら嬉しいし、健常者の方に対しては、車いすユーザーに対する固定概念が少しでも払拭されたら嬉しいです。よくSNSでは、健常者が障害者を助けないといけない、ということを思っているようなコメントをいただくことも多いのですが、それ自体が少し違うと思うんです。誰しもハッピーな気分や落ち込むことがあってそれぞれタイミングが異なるかもしれないけれど、お互いに元気づけ合うことは障害の有無かかわらず自然なことだと思うんです。SNSではそうした風にコメントから新たな発見があり、次はこういう発信をしようと学ばせていただくことが多いです。

 
彼女の「素」を表現する動画はバイタリティに溢れ、見る人に元気を与える。
 

今後やりたいことについて

ファッションショーでのランウェイの様子

―今後やりたいことは何ですか?
みゅうさん:
もっと活躍の場を広げたいです。TikTokを通して若い世代の方に知ってもらう機会が増えたので、学生さんたちに対して講演会なども増やしていきたいと考えています。SNSだと動画で数秒だけしか伝えられないけれど、それでも画面を通して多くの人がコメントしてくれて、人生観を話してくれるので、リアルの場で伝えられることはよりたくさんあると思っています。

エンタメの力で世間の意識を変えたい

みゅうさん:
さらに、エンタメを通して意識を変えたいという思いがあります。福祉やバリアフリーをテーマにしたお仕事をいただく機会は多いのですが、そういったテーマにはそのテーマに興味のある人が来ているため、そういった場ではより多くの人に知ってもらうということが、なかなか難しいと感じます。そうではなくて、ファッションショーやフェスとかの中で一出演者として出演することで、自然と溶け込めるような機会がもっと必要だと思います。楽しいとか、面白いという場の中で、障害者の存在が自然に用意されることで、知ってもらい理解してもらうことができると思います。今は違和感があることかもしれないけれど、今から始めれば、次世代にとっては障害者と健常者がともにエンタメを作ることは当たり前の世界になると思うんです。

取材を通して

取材の様子

自信を持って自分の意見が言えること、それ自体が彼女のパーソナリティであり魅力の一つであると感じた。彼女も言うように、ひとりひとりが性格、身体つき、肌の色、髪質、物事のとらえ方、育った環境等が異なり、それぞれの魅力があると思う。

あなたは何を重視して服を選ぶだろうか。他人にどう見られたいか、自分の好み、デザイン、機能性、素材、環境への配慮。人それぞれ譲れない決め手があると思う。そんな時、その選択は、目に見えるもの、あるいは、見えない何かによって、制限されることはないだろうか。みゅうさんの取材を通して、彼女自身は制限は無いと考えていると感じた。服を提供する側は、ファッションを楽しむすべての人の自由な選択肢の中に、自分たちの提供する衣服があることに気が付いているのだろうか。ひとりひとりの個性や身体の悩みに耳を傾け、想定し、少し発想を変えてモノづくりすることで、より多くの人がファッションを楽しむことはできるのではないだろうか。

今回の取材を通して、新たな気づきがあり、新たな魅力を知ることができた。

取材:高田愛・澤田有花理

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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